第2話【魔封の笛と旅立ちの日・その2】

「これが……母さんが僕に残した形見の品………」


 始めてみる母さんの形見の品。しかし不安が一つあった。剣に関して爺ちゃんに散々稽古をつけてもらっているからまだしも横笛に関して多少、人の物を借りて吹いた事はあるけどこの様な明らかに特殊な力を宿してそうな笛を扱うのは何しろ始めてである。そんな僕の事を察してか爺ちゃんが説明をしてくれた。


「俺がマーサさんから聞いたとこではその魔封の笛は触れば頭に使い方が入るとは言っていたからひとまず触ってみろ」


 僕は爺ちゃんの言う事を信じて箱の中から魔封の笛を取り出して掴んでみる。すると僕の頭の中に何らかのイメージが入り込み、そして声が響いた。


「ーーー君が僕達の新しい主人あるじかい?」


「ーーー君は誰なの!?」


「僕の事が知りたいのかな?それならまず君の頭の中でイメージしてる曲をその魔封の笛で吹いてくれれば分かるよ」


「………分かった」


 僕は魔封の笛を構えて、頭の中に入っている曲を奏でる。すると僕と爺ちゃんの目の前に魔法陣が現れる。そしてそこからマントと帽子を身に付けて、杖を手に持った可愛らしくモフモフしがいのある茶虎猫が出てきた。


「召喚に応じて馳せ参じたにゃ。僕は魔封の笛の契約に結ばれた13の召喚獣の1体で知恵猫シャルル・ローペン・コネコネ・モーフ・チャチャトラトラ……まぁ、長いからシャルと呼んでほしいにゃ。改めて聞くけど君が僕ら魔封の笛の召喚獣の主人あるじかにゃ?」


「うん、僕はナオ・クレイフ」


かー改めて13の召喚獣の代表としてよろしく頼むにゃ」


 目の前に現れた召喚獣の知恵猫シャルは僕に挨拶を交わした。


「しかし、こうして何十年ぶりに召喚されるとは思わなかったにゃ。一体何があったんだにゃ?」


 状況が今ひとつ理解できてないシャルに対して僕と爺ちゃんでいま何が起きてるのかをひと通り説明する。するとシャルはすぐ理解してくれた。


「分かったにゃ。じゃあ魔封の笛の使い方を説明すると一緒に魔物も退治するにゃ。とりあえず外に出るにゃ」


 僕達は再びに外に出た。ひとまずはユーフェス村をある程度見渡せる場所に移動して状況を見渡せる場所に移動する。そしてシャルは村の状況を眺める。


「にゃる程にゃる程」


「シャル、どうかしたの?」


「いま村を襲ってる魔物は恐らく誰かに操られているにゃ。多分何処かに身を潜めてると思うけども炙り出すにはある程度の数は倒さないと駄目だにゃ」


「それじゃあ一ヶ所一ヶ所しらみつぶしに倒すしかない?」


「そんな時の為の魔封の笛だにゃ。多分、今のの魔力なら後2体は召喚できるはずだから頭の中でイメージした曲を2曲分奏でれば大丈夫だにゃ」


「分かったよ」


 僕はシャルの言われた通り大地のだいちのつるぎと共に腰に掛けた魔封の笛を抜き曲を2曲程奏でる。そして魔法陣が2つ現れ中から召喚獣が現れる。その内ひとつから巨大な怪鳥が現れ、もうひとつの方から忍者の姿をした2本角の赤い鬼人が現れた。


鬼忍きにんカゲマル参上!あんたが俺らの新たな主人あるじかー思ったりは頼りなさそうだな」


「カゲマルカゲマル。仮にもこれから苦楽を共にする主人あるじに失礼にゃよ」


「悪りぃ悪りぃ」


「紹介するにゃ、こっちの大きいのが怪鳥ガルーダでこの少々口が悪いのは鬼忍きにんカゲマルだにゃ」


「僕はナオ・クレイフ。これからよろしく頼むね」


 互いの紹介を終えてカゲマルが村の方を見る。


「とりあえず先ずはあそこで暴れてる奴らを叩けばいいんだな?俺に任せとけ!」


 そう言ってカゲマルは僕らの前から姿を消した………否、忍者の高速移動を用いてすぐに魔物達が暴れてる場所へ向かっていた。


「オラオラっ!」


 カゲマルは魔物の前に現れては持っている刀で次々と魔物を斬り倒して行った。


、僕らもガルーダに乗ってすぐに向かうにゃ」


「分かった。ガルーダ、僕らを乗せてひとまず村の広場に降りてもらっても大丈夫?」


 ガルーダは任せとけ言わんばかりに雄叫びをあげた。僕と爺ちゃんとシャルはガルーダの上に乗り移動する。




「俺は皆の所に加勢に行く、ナオも気をつけるんだぞ」


「うん、爺ちゃんもの方も油断しないでね」


 僕達はガルーダから降りて爺ちゃんは別行動取る事になった。僕も他の場所で救援に向かおうとしたところでシャルが待ったをかけた。


「ニャオはここで少し待つにゃ」


「何で!?皆が戦ってるのに僕だけじっとしてるなんてできないよ!」


「それは違うにゃ、とりあえず僕の言う事を聞いて欲しいにゃ」


「………わかったよ、シャルの言う通りにする」


「それじゃあニャオ、目を閉じて神経を集中して欲しいにゃ」


 僕はシャルに言われた通り目を閉じ神経を集中させる。すると如何だろうか、何処からか邪悪な気配を薄々と察知した。


「……この気配は一体」


「恐らくその気配のぬしが魔物達を操ってる黒幕にゃ。そいつをやっつければ大体は解決できるはずにゃ」


「分かった。それじゃあガルーダを送還させてから気配の感じる方に行こう」


「送還させるには魔封の笛の送還のそれぞれの召喚獣の送還の音色を奏でればいいにゃんよ」


 僕はシャルの言われた通りに魔封の笛でガルーダを送還させて邪悪な気配のある場所へ移動する。




「確かにこの辺りから気配を感じたんだ………」


「とにかく気をつけるにゃ。相手は何処から襲ってくるかわからないにゃ」


 気配の感じる場所に着いた僕とシャルはそれぞれ武器を手にして周囲を警戒する。その時、僕の背後から何かが襲い掛かってきた。


「危ないにゃ!」


 間一髪、相手の存在に早く気づいたシャルが杖で相手の攻撃を弾いてくれた。


「誰だ!」


 僕も大地のつるぎを構える。目の前に現れたのは仮面を着けた男だった。相手は終始無言で短剣を構えてこちらを睨みつけている。


「気をつけるにゃ、相手は恐らく人間じゃないにゃ」


「それは本当なの?」


「アイツから漂ってる邪気は僕の知識と経験からして普通の人間から放てる様なものじゃにゃい……とにかく気をつけるにゃ」


「分かった!」


 シャルと話していたその時、仮面の男が僕らに襲い掛かる。だがその時どこからか手裏剣が投げつけられ仮面の男の動きを阻んだ。


「オットー、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ〜」


「カゲマル!」


主人あるじの危機に駆けつけるのが俺のモットーでね。コイツは俺に任せとけ!」


 カゲマルは肩を片手に仮面の男と戦いを始める。お互いの実力は恐らく互角ぐらいだ。だが一瞬の隙を突いて仮面の男はカゲマルを突き刺した。


「ぐっ!」


 刺されたカゲマルは倒れ込んだ。だが次の瞬間カゲマルの姿が木に変わった。


「悪りぃな、そいつは代り身だ!」


 代り身の術で木とすり替わり、カゲマルは頭上から仮面の男に一撃を入れる。流石の仮面の男もダメージを負う。


主人あるじ!ソイツにトドメを!!」


「うん!」


 僕はカゲマルの指示通り仮面の男を大地のつるぎで斬りつけた。斬られた仮面の男は倒れた。そして起きあがろうとしたらその身体が段々と灰になりやがて消滅していった。


「これでやったのかな?」


「いや、まだ魔物が残ってるにゃ」


 そこですかさずシャルが説明を入れてくれる。


「操っていた黒幕は倒したけれどまだ魔物達に心の濁りが残ってるはずにゃ。ニャオ、魔封の笛で清めの音色を奏でれば魔物の心から濁りが消え恐れ慄いてすぐに逃げ出すはずにゃよ」


「分かった。やってみる」


 僕は魔封の笛を手にし、頭の中で浮かんでいた曲、清めの音色を吹いた。すると村の各所を襲っていた魔物達は音色を聴いてから戦意を完全に喪失して慌てて逃げ出してた。


「………やった!」


「……って、あるじ!」


「ニャオ!」


 魔物達が逃げ出したのを気配で感じた僕は安心と疲労から気を失ってしまった。




「ーーーう〜ん、ここは?」


「ナオ、目が覚めたのね」


 僕が目を覚ますと家の自室にいた。傍らには爺ちゃんと婆ちゃんがいてくれた。


「お前の召喚したあの猫から倒れたと聞いて心配したんだぞ!」


 爺ちゃんが言うには魔封の笛を初使用で3体も召喚した事と清めの音色を吹いた事で魔力を使い果たして気を失ったんだとシャルが言ってたそうな。シャルとカゲマルは僕が気を失って暫くしたら送還されたとの事であの襲撃から1日は寝てしまっていたそうである。幸いにも村の方は死者は出ず、被害も最小限だったと爺ちゃんが教えてくれた。


「それならよかった………」


 僕はほっと胸を撫で下ろした。しかし話はそれからだった。


「だがなナオ、今回襲ってきた奴はもしかしたら何かの前触れかも知れねえぞ」


「前触れって……それってどういう事?」


「それはだな………」


それから爺ちゃんが僕と母さんがこの村に来た本当の経緯いきさつを話してくれた。爺ちゃんがある日、村の子供達と釣りへ行こうとした時にまだ小さい僕を連れた母さんが爺ちゃんと婆ちゃんを頼ってこの村に来た…いや、逃げ延びてきたと言うのだ。

 何でもお供同伴で父さんと母さんが地方の視察に赴いていたある日、宿泊先で突如謎の集団に襲われたと言うのだ。父さんは皆を逃す為に殿を務め、母さんは魔封の笛と大地のつるぎを携えた上で僕を連れて必死に逃げてたそうである。幸いにも爺ちゃん達の隠居先であるユーフェス村に近かった事からここまで無事に辿り着いたとの事である。そして爺ちゃんは母さんの事と昨日の事を照らし合わせてある結論に至っていた。


「もしかすると魔物を使って村を襲った奴はお前と両親を襲った奴らと同じ一味かも知れねえな」


「あなた、なんて事を言うんです!」


「いや、俺も若い頃は騎士団の騎士だったがあんなケースははじめて見た。もしかしたらマーサさんに関係する何かを狙ったのかも知れねぇ。そこでだナオ」


「何?」


「お前は大地のつるぎと魔封の笛を持った上で来週になったら王都に迎え。向こうにはシンがいるはずだからアイツに世話してくれる様、手紙も出した」


「あなた、幾ら何でもナオにいきなりそんな事をさせるなんて……」


 婆ちゃんがは爺ちゃんの考えに反対だった。だがそんな婆ちゃんがを爺ちゃんは説得する。


「お前がナオを心配する気持ちは分かる。だがナオだけの問題じゃねえんだ。恐らくアイツらはまたナオを狙ってくる可能性もある。王都だったらシンが必ず助けになるだろうし何かしら情報も入るかも知れない……それに此処とは違っていざという時は騎士団も動いてくれるだろう」


 こう言われては流石に婆ちゃんも引き下がるしかなかった。


「俺も自分の出来る限りの調査はするさ。だからナオ、お前1人にはなるが王都には行けるか?」


 僕は少し考え込んだ。そして………。


「婆ちゃんごめん。僕は王都に行くよ……色々と気になる事もあるし」


「そう、ナオがそう言うなら仕方ない。但し身体には気をつけて命だけは粗末にしちゃ駄目よ」


「分かってるよ」


「じゃあナオ、あの猫にも頼まれたんだが来週旅立つ前に剣の稽古と魔封の笛の使い方をみっちり仕込むが覚悟は出来るてるか?」


「それぐらいは当たり前だよ!」


 それから一週間は剣の修行と魔封の笛を使いこなす修行をみっちりして僕は先週、王都行きの列車に乗ってユーフェス村を後にした。そして今、王都の騎士団駐在所でこうしてこれまでの経緯いきさつを話し終わった。




「なる程なる程。しかし話を聞いた限りだとそのユーフェス村を襲った奴は昨日君が倒した奴の仲間じゃないのか?」


「……僕もそう思います。あの邪悪な気配は村で倒したのと同じ感じがしました」


「そうか……」


ゲンシさんとシュンさんはひとまず考え込んだ。


「で、お父さんもシュンさんもナオさんの疑いは晴れたんですか?」


「あぁ、悪いナオくん。疑って悪かった」


 カナちゃんに言われてゲンシさんは慌てて言う。しかし仮面の男の謎もあるのでシュンさんの方は少々釈然としないものを感じてるみたいだった。


「いえいえこちらこそ。でも何かあったら僕も協力しますよ」


「気持ち有難いが流石に騎士団の事まであんまし突っ込んでほしくないな…」


「あ、すいません」


シュンさんに指摘され僕は謝る。


「なぁに、気持ちだけは受け取っておくよ。とりあえず今日は帰りなさい」


 ゲンシさんにそう言われて僕とシンにいは駐在所を後した。カナちゃんも見送り家まで見送るとの事で一緒に着いて来ていた。

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