第2話【魔封の笛と旅立ちの日・その1】

 僕が王都に着いて1日が経過した。来て早々起こった魔物の騒動は僕が主犯と思われる仮面の男を倒し、操られていた魔物を魔封の笛を使った清めの音色を奏でた事により我に返りすぐに王都から逃げ出し被害の方も幸いな事に最小限に済んだ。

 でも事後処理の事で街中で召喚術や魔封の笛の音色の件で怪しまれた僕は騎士団の駐留所にて尋問を受ける事になってしまった。僕の尋問を担当する騎士は昨日、シンにいの家まで案内してもらったカナちゃんのお父さんであるゲンシさんだ。ゲンシさんの側には騎士団の王都警備担当のエースと言われるシュン・ウィムドと言う人も一緒にいる。一方で僕の側にも保護者代理としてシンにいと心配になって来てくれたカナちゃんが一緒にいてくれている。


「つまり、昨日初めて王都に来てたまたま事件に巻き込まれて何か怪しい気配を感じだから召喚獣を呼び出して黒幕を見つけてやっつけてついでに操られてた魔物も解放させた…と」


「まぁ、そういう事になりますね…」


「しっかし、街を救ってくれたのはありがたいがお前さんホントに何者なんだ?見た所普通の少年にしか見えないが怪しい気配に気づくは召喚術を使えるわ……」


 ハハっと僕は苦笑いするしかなかった。そんな時にシンにいが救いの手を差し伸べてくれた。


「旦那、ナオは決して悪い事ができる奴じゃないって事は俺が保証します。それにコイツはテビエ・クレイフの孫と言えばちゃんとした血筋の人かとわかってもらえるかと……」


「ん?テビエ…テビエ・クレイフ……どっかで聞いた覚えが……」


 ゲンシさんは爺ちゃんの名前を聞いて首を傾げる。


「おやじさん何かその名前に心当たりでも?」


「あっ!思い出したぞ!テビエ・クレイフ……という事は御前のお孫さんか!!」


「お父さんの知ってる人なんですか?」


「知り合いなんてもんじゃないぞ。俺が駆け出しだった頃に世話になった事もあるしマルフィスの剣聖と言えば俺と同年代の奴は大体知ってるぞ」


 そこからゲンシさんが色々と語ってくれた。爺ちゃんの全盛期の活躍や世話係もやって僕の父さん、名はゴウ・クレイフといいその小さい頃の教育もやっていたそうな。爺ちゃんは父さんが成長してから家督を譲り婆ちゃんと一緒に地方に隠居したまでは聞いていたとの事で父さんはその後、爺ちゃんに勝るとも劣らない活躍をしてた事を教えてくれた。


「それで功績を認められてイセノ地方の領主になってそこで結婚して子供にも恵まれた事までは良かったんだがな……」


「良かったって………お父さん、何かあったんですか?」


 ゲンシさんは苦々しい顔で皆に話しかける。


「あぁ……、俺が知ってる限りじゃあ10年以上前に遠征した際に宿泊先で賊に襲われて死んだって聞いている。その時に家族も離散して行方が分からないと聞いていたんだがな………」


 ゲンシさんが僕の方を見る。


「だが何の因果かこうしてあの"若"の息子さんとこんな形でめぐり合うとは……いや、世の中何があるか分からないな」


「でも、親父さん。この子の身元が分かったからといってあの召喚術とか何で王都ここに来たのかとかも聞かないと」


「確かにそうだな」


「なぁ、これまで君の身に何が起こったか話してくれないか?」


 僕は一瞬、考え込んだがここはこれまでのいきさつを知ってもらった方がいいと思い話す事にした。


「分かりました。僕の話せる範囲でいいのであればお話しします」




 話はまず、僕が物心ついた頃までに遡る。もうそれぐらいの歳の頃から僕はユーフェス村で爺ちゃんや婆ちゃん、それに母さんと静かに暮らしていた。父さんに関しては母さんや爺ちゃんの口からは僕が物心つく前に亡くなった事だけ

話してくていた。父さんがいない事に少し寂しさはあったものの母さんや爺ちゃんと婆ちゃん、それに村の皆や3年前に村に来ていたシンにいのお陰で今に至るまで健やかに育った方と言われてる。

 それでも僕が10歳ぐらいの頃に母さんが病気で亡くなり、シンにいも一年前に王都に引っ越したりもあったけども僕は皆と一緒にユーフェス村で平和に暮らしていた。2週間前のあの日が来るまでは………




「爺ちゃん、婆ちゃん、それじゃあ行ってくるね!」


「おぅ、気をつけて行くんだぞ」


「ちゃんと早く帰ってきてね」


 その日も僕は問屋さんに頼まれていた分のお面を完成させて届ける為に出掛けていた。ユーフェスの村で暮らしてた頃は爺ちゃんのテビエ・クレイフは基本的に隠居の身であったけど時折、村の子供達に武芸や学問を教えたりしていて婆ちゃんのゴルテ・クレイフは専ら家事を賄っていた。

 僕は何をしていたかというと8歳ぐらいから爺ちゃんに学問や武芸を仕込まれてたのと同時に面作りの技術を村の人達から教わり、この頃にはもう人前で売れるぐらい物を作れるぐらいの腕前になっていた。その為出来上がったお面はこうして問屋さんの所へ自らの足で届けに行くのだ。


「問屋さん、こんにちは!」


「おぉ、ナオ坊来たか」


「これが今日出来上がった分です」


 そう言って僕は出来上がった分のお面を問屋さんに渡す。


「いつもありがとよ!これが今日の分の仕事量だ」


「ありがとうございます!それじゃあまた」


 こうして何時もの様に僕は問屋さんからお金を貰って問屋さんを後にする。




ふぅー、と用を終えた僕は村からやや外れた場所にある大木の下で横になってひとやすみしていた。この場所は僕の隠れた休憩場所としてこうした仕事帰りの時とかによく使っている。陽の隠れる大木の下でそよ風にあたりながら寝るのが何より気持ちいい。


「今日は爺ちゃんの稽古も無いし……少し長く休もうかな」


 そう思い僕はここで少し仮眠をとる事にした。



ーーー夢の中ーーー


「………ナオ………ナオ………」


聞き覚えのある声がすると思ったら目の前に死んだはずの母さんがいた。僕はすぐに夢だと分かったが母さんは何やら僕に話そうとしている。


「ナオ、良く聞いてね。これから近い将来、あなたの運命が変わる程の困難が起こるかも知れない……」


「困難って………一体何が起こるの?」


「私の口からこれ以上の事は言えない………でもナオ、自分の宿命からは決して逃げないでね。あなたなら必ず自分の力で打ち勝つ事が出来るって母さんは信じてるから………」


 そう言って母さんはドンドンと僕の近くから離れて行く。


「ちょっと待ってよ、母さん!母さーん!!」


「ナオ、この夢から覚めたらテビエ養父とお様………あなたのお爺ちゃんからある物を受け取りなさい………まずはそれからです」


 その言葉を最後に母さんの姿が消え、目の前が真っ暗闇になった。




「行かないで母さん!」


 僕は夢から覚めた。時折り、夢の中で母さんが出てくる事はあっても今日みたいな夢は初めてだ。一体、母さんは僕に何を伝えたかったんだろうか………それに運命とか宿命とか爺ちゃんからある物を受け取れとか一体何の事なのだろう。とりあえず今見た夢の事を頭の中で整理しようとしたその時だった。


「!?」


 僕は吹く風からいつもとは違う不吉な何かを感じた。もしかすると夢の中の母さんが言っていた事と何か関係があるのでは!?とも思った。とにかく嫌な予感を感じながら僕はすぐに家への帰路に着く。




「一体なにがあったんだ!?」

 

 僕が村に戻ると周りが何処から来たのか分からない魔物達が襲っていた。村の大人達が応戦しているものの場所によっては火の手もあがっていた。僕は母さんが夢の中で言ってた事はこの事なのでは?と考えながらも爺ちゃんと婆ちゃんが心配なので魔物達を掻い潜り急いで家の方に向かった。


「爺ちゃん!婆ちゃん!」


「ナオ!無事だったか」


 僕は何とか家に辿り着く事ができた。幸いにも家の方に来た魔物は少数だった様で爺ちゃんと爺ちゃんの御弟子さん達で倒した後で家の方もひとまずは無事の様だ。


「とりあえずお前は家に戻ってゴルテと一緒に隠れていろ。俺達は残りの魔物を片付けに行く!」


「爺ちゃん待って……その前に聞きたい事があるんだ」


「聞きたい事?一体なんだ」


「夢の中で現れた母さんが………爺ちゃんからある物を受け取りなさいって言われたんだ」


 僕が先程見た夢の話をすると普段の爺ちゃんはそんな事言ってる場合とか叱りつけてる所だったが今日は違っていた。僕の言葉を聞いて爺ちゃん一瞬、考え込んだ。


「"ある物"だと………もしや"アレ"の事か!」


 どうやら爺ちゃんには心当たりがあったみたいだ。


「分かった。もしかしたらお前の母さん……マーサさんが言ってたいつかの日ってのは今日だったのかもな」


「母さんが言ってた事?」


「あぁ、亡くなる前に一つ頼まれてた事がある………とりあえず家の地下の物置までついて来い。他の皆は警護と他のとこの救援を頼む!」


「分かりました!」


「先生とナオ坊も気をつけて!」


 後の事を爺ちゃんの御弟子さん達に頼んだ僕らは家に入る。そして爺ちゃんに案内されるまま地下の物置へ入ってゆく。そして爺ちゃんは物置きの奥の方に置かれてあった箱を取り出す。


「これが来るべき日が来たらお前に渡して欲しいとマーサさんに言われた物だ」


 爺ちゃんが箱を開けると中には剣と横笛が1本ずつ入ってた。


「爺ちゃん、これは?」


「大地のつるぎと魔封の笛。これをナオ、お前が使うんだ」


 それが母さんの遺品でもある2つのアイテムを初めて触れた時だった。

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