召喚術師は笛を吹く

クドウ

第1話【少年が王都に着いて物語は始まる】

僕たちのいるこの'世界'は東西南北で4つの国に分かれていて僕はそのうちの1つ西にあるマルフィス王国にある辺境の村、ユーフェスで爺ちゃんと婆ちゃんの元で育った。そして遡って一週間程前、爺ちゃんは僕に対してこれからは王都で暮らす様にと厳命して王都にいるという爺ちゃんの知り合い宛の紹介状と諸々の荷物を持って列車を使って王都へ向かい、そして漸く辿り着けた。


「ここが王都かー」


 爺ちゃんや村の大人に連れられ村の近隣の場所には連れてもらった事はあってもこうして1人で村から遥か離れた土地に行くのは初めてだからその目に映る景色や人の姿は何もかもが新鮮だった。

 僕の名前はナオ・クレイフ。この物語は今ここから始まりを告げようとしていた。




「ーーーう〜ん……爺ちゃんから貰った地図とさっきあった案内板を見た限りだと確かにこの辺りの筈なんだけどなぁ………」


 王都に着いてから早速、僕は爺ちゃんに貰った地図と街にある案内板などを見て知り合いの住居を探していたが思っていた以上に街が広く、ひとまずベンチに座って地図を見ながら考え込んでいたその時だった。


「あのー」


 僕と同年代ぐらいかの女の子が声をかけて来てくれた。


「あ、はい!?」


「見たところ困っているみたいですけどどうしたんですか?」


「実は………」


 ひとまずこの子に今日始めて王都に来た事と爺ちゃんから渡された地図を見せながら知り合いの住居のある場所について尋ねてみた。


「あ、この場所だったらわかるので案内しましょうか?」


「ありがとうございます!」


「いえいえお安い御用です。私はカナ・ムラセフといいます。あなたの名前は?」


「僕はナオ・クレイフといいます」


 それが彼女、カナ・ムラセフとの出会いだった。




 それからカナちゃんに案内してもらいながら色々と話をしていた。彼女から王都に関する様々な事やカナちゃんの事を教えてもらった。


「へぇー、カナちゃんのお父さんって騎士団の人なんだ」


「はい、騎士団の皆さんから生き字引として頼りにされてますけど少々頑固なところが玉に瑕なんですけどね。それで私はヒーラー見習いで姉が診療所で働いているんです」


「なるほどなるほど」


 そうこうしているうちに僕の知り合い。かつてユーフェス村で僕が兄貴分として慕っていたシンにいことシンの住居に辿り着いた。爺ちゃんから聞いた話だとシンにいは王都に引っ越してから鍛冶屋として暮らしている事と爺ちゃんのバーターでそれなりに広い家を紹介して貰った事は聞いていた。確かに着いた住居は二階建ての住居だから広いと言えば広い。

 とりあえず僕は住居のドアをノックしてみる。


「すいませーん!誰かいませんかー!?」


「はい、ただいま……って、ナオじゃないか」


 ドアを開けてシンにいが出てきた。


「シンにい!久しぶり!!」


 思わず僕はシンにい抱きついてしまう。何せ3年ぶりの再会なので嬉しさの余りつい行動に出てしまった。


「御前から手紙で話は聞いてたがホントに来るとはなーしかし、お前も大きくなったな」


「シンにいも元気そうで何よりだよ!」


「それにしてもよくここが分かったな」


「あ、彼女…カナちゃんにここまで道案内してもらったんだ」


「カナ・ムラセフといいます」


「そうか、ここで立ち話も何だから中に入るか?」


 僕とカナちゃんはシンにいのご厚意に甘えて住居の中に入れて貰うことにした。




 シンにいの住居は入り口を入ってまずは鍛冶屋の仕事場のスペースで奥に居間とキッチン。2階に寝室と客室とトイレと風呂と一人暮らしの家には勿体無いぐらいの広さであった。3年前まで爺ちゃん達の世話になっただけとはいえ王都である程度広い家を紹介させてもらえる辺り爺ちゃんの人脈の広さには本当に驚くものである。

 ひとまず僕とカナちゃんは居間でシンにいからお茶を貰い一服して


「そうか、御前も奥様も元気か」


「うん、爺ちゃんも婆ちゃんもよろしく伝えてくれって言ってたよ」


「それにしても御前から手紙が来た時もだがよく1人で王都に行くのを許したな」


「まぁ…色々とあってね」


 僕は少し言葉を濁す。


「そうか…」


「まぁ、その事についてはまた今度言うよ」


「分かった。そ言えばお前、今日はどこに泊まるんだ?」


「それならお金も貰っているからこれから宿屋でも探そうかなと」


「何だったら俺の所で泊まらないか?部屋なら空いてるしお前だったら大歓迎だ」


「でもシンにいに迷惑かからないかな?」


「俺なら別に大丈夫だ」


 そんな感じで会話が弾んでいたその時だった。


カンカンカンカン!


 王都に設置してある警報を伝える鐘が突然と鳴り響いた。僕達はすぐに外へと出た。




「これは………!?」

 僕らが外に出てる街は突然現れた魔物達が襲撃をしてきた。それも厳重な警備を掻い潜ったのではなくどこからともなく召喚か転移されたかの様に…………街の中では緊急を伝えるアナウンスが鳴り響いていた。


「皆様、王都に魔物が現れました!王国騎士団の指示に従って急いで安全な場所へ避難してください!」


「ナオ、カナちゃん、こっちだ!」


「はい!」

「はい!」


 僕とカナちゃんはシンにいに引きられ避難所まで向かおうとする。だがそこで魔物…いわゆるゴブリンと言われる種族が何体か僕達に襲い掛かってきた。


「グォォォォォォォォッ!」


「くっ!」


ゴブリンの棍棒による一撃をシンにいは回避した。そして懐にしまってある組立式の鉄製の手槍を取り出し隙を見て組み立て相手の急所を的確に刺した。


「ギャアァァァァァ!!」


急所を刺されたゴブリンは倒れる。だがすぐさま別のゴブリンがシンにいに襲い掛かる。


「危ないシンにい!」


 僕は前に飛び出した。そしてすかさずユーフェス村にいた時に爺ちゃんから貰った大地のつるぎを抜いて一撃の元ゴブリンを斬り倒した。


「見ないうちに腕を上げたな」


「こっちも県に関しては爺ちゃんに散々しごかれたからね」


「カナちゃんは俺とナオの後ろに控えてくれ!コイツらは出来る限り俺とナオで何とかする!」


「はい、でももし怪我したら私に任せてください。見習いとは言えヒーラーなので多少の回復魔法なら使えます!」


「その時は頼む!行くぞナオ!」


「うん!」


 僕とシンにいは襲い掛かる魔物を次々と返り討ちにしながら前進する。そして何体か倒している途中で王国騎士団の人達も駆けつけてくれた。


「王国騎士団である!逃げ遅れた人達は早く避難を!!」


「ーー父さん!」


 こちらに来た騎士団の人達の中にはカナちゃんの父であるゲンシ・ムラセフもいた。


「カナ、ここにいたのか。後の事は俺たちがやるから早く避難するんだ!」


「はい、父さんも気をつけて!」


 そう会話を交わした後、騎士団の人達は魔物を追撃しながら去っていった。


「よし、2人とも行くぞ!」


 シンにいに言われて避難所へ行こうとしたその時だった……


「………待って!」


 僕は何か…そう、魔物達とは違う邪悪な気配を感じ取った。


「どうしたんだナオ!?」


「ーーー何か感じるんだ………魔物とは違う気配を…!」


「違う気配ですか?」


「うん………そうだ!こういう時は'アレ'を使えばいいんだ!」


 僕は大地のつるぎと同じく腰に差していた"魔封の笛"を取り出す。この笛も村を出る前後に爺ちゃんから貰った物である。何故この2つのアイテムを貰ったのかは追々話す事にする。

 先ずは抜いた''魔封の笛"を構える。


「現れよ!召喚獣雷牙しょうかんじゅうライガ!!」


 そう叫んだ僕は"魔封の笛"で召喚の音色を奏でる。そうすると僕の目の前で魔法陣が現れ、中から魔封の笛に契約されている召喚獣の一体、雷牙ライガが姿を現す。名前の通り、雷属性の力を携えた牙狼だ。


雷牙ライガ、僕が感じた邪悪な気配を追跡できないかな?」


「そんな事はお安い御用です我が主!我の上に乗ってくれればすぐに会わせますぞ」


「頼んだよ!シンにいはカナちゃんをお願い!!」


「おい待てナオ!」


 僕は雷牙ライガの上に乗った。雷牙ライガはすぐに気配の感じる方に向かってくれた。シンにいとカナちゃんはその光景を呆然と見送るしかなかった。




 王都の外れの建物の上に不気味な気配を漂わせた仮面を被った男が街を見下ろしていた。まるで街を襲っている魔物の行動を見ているかの様に………。


「ーーー見つけたよ」


 雷牙ライガに乗ってきた僕は仮面の男のいるこの場所に辿り着いた。僕の気配を察知した相手はこちらを振り向いてくる。


「魔物を操って街に無差別に転移させて街を襲わせたのはあなただね……」


僕は大地のだいちのつるぎを腰から抜いて構える。相手は何も反応をしてこない。ならこちらからゆっくり近づこうとその瞬間、仮面の男は姿を消した。もしやと思い僕は殺気らしき気配を感じた方へ剣を払う。案の定、仮面の男が奇襲を掛けて来たが払う事は出来た。


「雷牙!サポートをお願い!!」


「承知!」


 雷牙に仮面の男の相手を頼み、僕は再び魔封の笛を取り出す。


「現れよ!召喚獣ガルーダ!!」


 僕は雷牙ライガを呼び出しとは別の召喚の音色を奏でる。そして出現した魔法陣から召喚獣の怪鳥ガルーダを呼び出した。


「ガルーダ上空からあの仮面の男の動き読んで欲しいんだ!」


「お安い御用です!」

 ガルーダは羽ばたき上空から雷牙ライガと仮面の男の戦いを観察する。その間に僕は再び大地のだいちのつるぎを構える。


「主、相手に隙ができましたぞ!」


「分かった!」


 ガルーダの指示に従い、僕は雷牙ライガと戦っている仮面の男に突撃する。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 僕は大地のだいちのつるぎで仮面の男を一撃の元で斬る。仮面の男はその場で倒れ込んだ。しかし、傷が浅かったのか再び立ちあがろうし始め僕と雷牙ライガは構える。

 だが当の仮面の男は体のあちこちが粒子状に消え始めそして着けていた仮面を残して完全に消滅した。


「………やったの………かな?」


 僕は相手の最期に釈然としないものを感じた。しかしまだ街には魔物があちこちと残っている。


あるじ!」


 ガルーダが僕に念話で話しかけてくる。


「どうしたの?」


「私が上空から見た所、先程の仮面の男を倒してから魔物達の戦意が下がった様に思えます。もしかしたら操られていたのでは?」


「操られてる……と言う事はもしかしたら!」


 僕はまた魔封の笛を取り出す。そして清めの音色を奏で始めた。"清めの音色"………その名の如く相手の心の汚れ濁りなどと言った邪心を清める事ができる音色だ。但し、相手の邪心が僕の魔力を上回っていた場合は効かない事もある。

 しかし今回の場合は魔物達が操られて使役していた事もあってか、音色を聴いた魔物達は次々と正気を取り戻すと同時に戦意を失い、王都から逃げ出し始めた。


「な…何だ!?」


 突然と逃げ出す魔物達を見て騎士団人達や街の人達は驚いてる。


「これで一件落着ですな」


「うん、雷牙ライガとガルーダもありがとう」


「何のこれしき!」


「私達はあるじが呼べばいつでも駆けつけますぞ!」


 そうして、僕は雷牙ライガとガルーダを送還させた。

 こうして王都に着いて早々に事件に巻き込まれた僕はまだこれから起こる国をも巻き込む騒動にまで発展するとはまだ知る由もなかった。

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