第3話庭から離れない
3庭から離れない
元々猫好きな私。
情が移ってしまう。
心を鬼にして「寒いから自分のうちに帰りなさい」と声をかけて下へ下ろす。
ドアを開けて中に入ろうとすると猫が中を覗き込む。
中に入りたそうな様子である。
気が付かないふりをしてドアをしめる。
そっと部屋の窓から庭を眺めると門扉のあたりでうろうろとして
ドアの方を窺っているのがみえる。
どこかの家の飼い猫にしては長居している。
でも、野良猫にしてはお行儀が良いし、人間を警戒する様子が見えない。
でも、どちらにしても私にはどうする事も出来ないのである。
私に出来るのはせいぜい縁側に置いてあるモモ子のえさの盗み食いを
黙認してやることぐらいである。
夜、モモ子と散歩に出る時ドアを開けると、縁側の餌袋に頭を突っ込んで食べている最中であった。
モモ子が外に出た気配に気が付いて慌てて縁の下に隠れた。
が、当のモモ子は何も気づかない。
散歩から戻って来ても庭に姿が見える。
モモ子が猫に気が付いて追うと待っていたように縁の下に隠れる。
遠くに行った様子はない。
モモ子もしつこく追うつもりないらしい。
朝と同じようにモモ子を家の中に入れてから「ニャンコちゃんおいで」と
縁の下に声をかけると待っていたかのように暗いところから出てくる。
だが、すぐには近づいては来ないので、朝やったように餌を手に取り、掌に載せて猫を誘う。
そっと一足一足、ゆっくりと臭いを嗅ぎに近づいて来て餌を口にして、
今度はその場で食べた。一粒、また一粒。
何粒目かを口にしたところで優しく抱き上げて腕の中で餌をあげると
なんの躊躇もなく食べている。
寒いかと思って上着の中に顔をうずめるように入れてやるとそのままじっとしているのである。
なんとも不思議な感覚だ。
こんなに長い時間猫を抱いているのは小学生の時以来だったと思う。
普通の猫のように数分で下に降りようとはせず、いつまでも抱かれているのである。
抱き癖のある猫という事になる。
どんどん、どんどん可愛くなっていく。手放せなくなっていく。
私が今までに飼ったペットはリス、オカメインコ、ゴールデンリトリバーである。
そのどれもが猫のように腕に抱かれていることはない。
リスや、オカメインコは小さすぎたし、ゴールデンは大きすぎる。
腕に丁度良い大きさと重さ、まるで赤ん坊でも抱いている気分である。
猫の方も安心して抱かれているようなのだが私の方も心が落ち着く。
抱いているだけで心が癒されていくのを感じる。
かといって飼うことも出来ず、この寒空に震えているのを知りながら家の中に入れてやる事も出来ない。
だいたいほかの家の飼い猫である確率が大きい。
猫の種類はわからないがよくテレビのコマーシャルなどで見る猫に似ている。
たぶん雑種ではないと思う。
汚れてもいないし、性格もよい。
前足のマーブル模様なんかきれいに揃っている。
そっと下に下ろして私だけ中に入る。
きっと夜には家に帰るだろうと思っていた。
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