第19話 泥人形の襲撃

シンとした中を、時々吹く風が木々を揺らしてサヤサヤと音を立てる。

見回しても、何もいない。


「な、何だ、リリス!脅かすな!」


しかしザレルが剣を抜いて構え、リリスは両手を前に出し、手の平を地に向けてぶつぶつと呪文を唱え始めた。


「この世界全てを支える大地よ、大地の精霊王グァシュラムドーンの名の下に、今一時、真を知る我らの力となれ。

ドルクス・レン・ラクラ、尊き土には水が宿り生が宿る、その聖なる土の重なりには・・」


リリスの声が辺りに響き渡り、キアンが震えて思わず吉井の背中にしがみついた。


ズ、ズ、ズ、ズ、


地響きが辺りに響き、足下が小さく揺れる。


「何?!地震?!」


「後ろへ回れ!足下だ!来るぞ!」


珍しくザレルが叫び、サッとみんなをひとかたまりに自分とリリスの間に挟んだ。


「足下って・・・?」


アイとヨーコが抱き合って立ちすくむ。


「キャ!」


ボコッ!ボコボコボコッ!!


突然、至る所の土が盛り上がり、そしていきなり足下に大きな土塊の手首が出てアイの足首をガッと掴んだ。


「ぎゃあああああああ!!」


「きゃあ!いやいやいやあ!」


皆でガンガン叩いて、ドカドカ蹴る。

しかし、それはまるで石のようにびくともしない。


「退け!」


ザレルがその手の根元に剣を刺す。

するとボロリとその手が土に変わり、崩れ落ちた。


「あっ!これって土ジャン!あっ!あっ!」


ザザッ!ザザザッ!バラバラバラ・・


盛り上がった土が次々と人型を成してゆき、アイ達目指して襲いかかる。

剣で薙払うザレルと、一方では集中して呪文を詠唱しているリリス。

二人に手を伸ばす土塊は、リリスの呪文の前に風に巻かれてバラバラと崩れ、ザレルに切られて土に戻った。


「駄目だよ!きりがない!」


「ザレルったら!持ちこたえてよ!」


リリスの呪文が聞き取れないほどに早くなる。

崩れる先から次々に土人形が生まれて襲いかかり、泥だらけになりながらザレルの剣先も土の重みに鈍り、とうとうドッと突き刺さったまま抜けなくなってしまった。


「うおおっ!おのれ!」


待っていたように土人形が手を伸ばす。

剣から右手を離し、横から殴るがびくともしない。

あざ笑うように土人形がザレルの首を掴み身動きを奪うと、他の土人形が次々と子供達の身体に手を伸ばした。


「キャアアアア!!助けて!」


「ドルクス・レン・ラクラ!ドルクス・レン・ルクラ!水は水に!土は土に!

我が名の下に、あらゆる束縛を解放せよ!

グァシュラ・セラ・レ・ルーン!我が名は風のリリスなり!!」


ゴウッと風が一陣吹きすさび、パアッと地面が金色に輝く。

すると、さらさらと全ての土人形は乾いた土に変わり、バサッと地に崩れ落ちた。


「げほっげほっ!はあっはあっはあっ、ちっ!」


ザレルが締められた首をさすり、剣を振って土を払い鞘へ戻す。

へなへな崩れそうなキアンに、慌ててリリスが手を差し出すと、キアンはボロボロ涙を流し泣き出した。

ハアッとアイ達も脱力してホッとする。


「ねえ、何で王子守るのがたった二人なの?

あたし等がいるにしても手一杯じゃん。」


ヨーコがもっともな事を訪ねると、リリスが苦笑した。


「この旅は、王子と従者が3人、と決まりがあるのです。

実はあとお一人、貴族の方が体調を崩されてしまって・・」


「変な話しだけど、体調崩してなんてファンタジーじゃないわねえ。」


「星の占いで決まるので、従者が減ってもこれも試練の一つとなってしまうのです。」


何だか融通の利かない試練だ。


「何かさ、私ばっかし襲われた気がする・・」


「そりゃ、おめーが石持ってるからだろ?

だからあ!さっさとリリスに返せって!」


「そ、そーか・・でも、どうして私が持ってるって分かったんだろう?」


「それは・・魔道師の方が全て見通されているからでしょう。

水がある限り、水の魔道師にはそれを思いのままに操ることが出来ます。」


「じゃあ・・飲み水は?危なくない?」


「清水には呪いをかけることは出来ません。

自然界の掟です。それを破ると、シールーン様のお怒りに触れます。」


「ふうん。」


「いろいろ決まりがあるんだ。」


「水がないと、生き物は生きていけませんから。では、参りましょう。」


成る程と思うがしかし、アイの足首にはくっきりと手形が残っている。そして感触も。


「うー!気持ちわるー!」


感触を消そうと、アイはバリバリ足首を掻きむしって、みんなとリリスの後を追った。

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