第18話 身分のしきたり

「私は・・すいません、私は周りの方々にはこのように話すよう厳しくしつけられたのです。

これが普通で・・良く、分かりません。」


「ふうん、周りのみんなに敬語って、変な家だね。じゃ、家の中の人はみんな敬語なんだ。」


「いえ、私は拾い子で最も身分が低いのです。

それに御師様方は、皆様お偉い方達でございますから。」


「ええー!それ変だよ!変!」


アイの言葉に、何だか戸惑ってしまう。

これが当たり前で、こんな事不思議に思うこともなかったから。


「変・・ですか?」


「変だよ!その御師さんって男?」


「いえ、お美しい女性でございます。」


「変!だったら育てのお母さんじゃん。どうして自分に敬語使わせるかなあ?変な人だよ。」


「ああ、それは誤解です。私は城から派遣される、養育係の方にしつけられましたので。」


「城?何でまたお城から?」


「私は拾われた時、まだ赤子でしたから。

御師様は子育ての経験がなかったので、城に頼まれたそうです。」


「そいつがキッツイ奴なんだ!」


えっ!とリリスが言葉に詰まる。


「・・いえ、そんな・・御師様に失礼のないように、厳しくしていただきました。

同じ家に暮らすと言いましても、身分が違いますから。甘えてはならぬと・・」


「養育係なんて無視しなよ!

赤ちゃんからずっと一緒なら、もう親子だよ。」


この言葉に驚いて、リリスが一歩後ずさる。

大げさな仕草で、ぶんぶん首を振った。


「とんでもない!御師様は大変ご立派な方で・・

私など、召使いの上に弟子にしていただけただけで、もう・・・・」


そんな事、考えるのも恐れ多い。

とにかく、身分階級のしきたりが厳しいのだ。


「みぶんー?そんなの何さ!今度お母さんって呼んでみなよ。きっと御師さん喜ぶよ。」


「いいえ!そんな・・とても・・」


アイとヨーコが顔を見合わせる。


「どうして?可愛がって貰ったんでしょ?」


「もちろんです・・恐らく・・」


リリスは今まで見たことがない程戸惑って見える。何だか凄くじれったい。


「あたしもさ、ママはブスのオバタリアンですっごくずうずうしいし、パパは臭くて汚いオジンで嫌ンなるけど、やっぱ小さい頃可愛がって貰ったのだけは覚えてるからさ、これがもし本当の親じゃなくても、やっぱパパとママだなあって思うけど・・違うかな?」


リリスが寂しそうに俯く。

彼は彼なりに考えてはいるのだ。でも・・


「でも・・きっと、御師様にはご迷惑です。」


「迷惑じゃないって!そんなの考えなくてもいいじゃん!一度、冗談半分で言ってみなよ!」


冗談、なんて言ったこと無い。

真っ直ぐに生きすぎたリリスの、これが唯一の弱点といえる。

それにしても、リリスは同年代の子と話すのも初めてだから、その考え方に面食らってしまった。


「この世界では、身分がとても重視されます。

もう、私のことなど・・お忘れ下さい。」


絶対良くない!放っておけない!


「駄目だよ!それって良くない!ねえヨーコ!」


「うん、やっぱさ、それはケジメだと思う。」


「ほらあ、やっぱそう思うよ。」


強気のアイ達に、吉井が溜息をつく。


「もういい加減にしろよ。リリスも困ってるじゃねえか。向こうとこっちは違うんだよ。」


フフフ・・・キアンがくすくす笑い始めた。


「吉井はシッシッ!何よ!キアン、文句ある?」


「フン、無駄な事よ。

孤児は通常、物心つくまで施設で育てられ、その後は召使いや奴隷となる。

リリスはセフィーリアに気に入られたからこそ、特別に身分の高い彼女の手元で育てられたのだ。

魔導師の素質を見いだされたにしても、セフィーリアがどんなに可愛がったとしても、出は身分の一番低い召使い。

お前達の世界での基準はこの世界では通らぬ。」


「どうして親がいなかったら召使い?!

あたし等の友達にだって、施設から学校に通って来る子いるよー!

明るくてしっかりしててさあ、凄いんだから!

マジで馬鹿みたい!自由が無いなんて最低ー!」


「自由だと?何を言っている?くだらん!」


「可愛げの無い奴!自分だってリリス様に頼ってるクセに!」


「頼っているんじゃない!これは従者だ!

星占で出た上に、どうしてもとセフィーリアの推薦があったから、仕方なく父上も了承されたのだ。

それに旅立ちの式典にも縁起が悪いと貴族がうるさいのを、何とか出してやったんだぞ。

これでも随分気を使っているんだ。」


「ああ・・うふふ、そうでございましたね。」


リリスが思い出しクスクス笑って頭を下げる。

式典には、頭から白い布を被って、決して顔を上げてはならぬ、離れて歩け、声も駄目だと誓約だらけでようやく出してもらえた。

御師様がどんなに怒り狂ったか、それをなだめる方が凄く大変だったっけ・・


「身分のなんのって、馬鹿みたい。

でもさ、リリス様のママ、セフィーリアって言うんだ。綺麗な名前じゃん。さすがー!」


キャッキャッとはしゃぐ二人だが、その時いきなりリリスが手を上げて皆を制した。


「シッ!お静かに!」


心臓がドキッと音を立て、皆が立ち上がり耳を澄ませて辺りを窺った。

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