第13話 従者は忍耐
「さ、もう少しで村があります。
リリスと一緒に参りましょう。
私の事もお気に召さないかも知れませんが、いつ何時でも王子のお味方でございます。」
「優しいわあ、さすがリリス様。」
ヨーコうっとり。
「うっうっうっ・・うー、城に、帰りたい。」
じゅるじゅるじゅる、鼻をすすって見苦しいったら。王子のイメージ総崩れだわ。
幻滅する異界人の前を、二人手を繋いで肩を並べ、とぼとぼようやく歩き出す。
「お寂しいときには、お后様より賜れた指輪をご覧になさいませ。
お美しくお優しいお母様がいらして、リリスは羨ましい限りでございます。」
優しく、静かに語りかけるリリスは、まるで王子のお兄さんのようだ。
王子も指輪をじっと見て、ごしごし涙を袖口でふき取り、ようやく泣きやんだ。
「ぐすっ!僕は泣いてないからな。寂しい訳じゃないんだ。勘違いするなよ!」
「はい、承知いたしております。」
「へへ、指輪いいだろう。金だぞ。
見ろ、王家の紋が掘ってある、値打ち物だ。
お前のような拾われっ子には、こんな指輪、一生手に入らないだろうな。
お前は僕の従者だからな、特別に見せてやる。」
キイイーッ!マジこいつ、口が悪い!
後ろでヨーコが拳骨を上げる。
「はい、本当に素晴らしいお品です。
私も御師様からこの立派な服と、この美しい指輪をいただきました。
もったいないことですが、大変嬉しゅうございました。私の宝物でございます。」
リリスの細く荒れた指に、細い銀の指輪が見える。彼の顔も、本当に嬉しそうにほころんでいた。
「へえ、銀か。その変な服はお前に全然似合ってないが、その指輪は小さいし安っぽくて、まあお前には似合いの物だ。
お前の師も良く気が利くではないか。
いいか?旅に出るときには、何か一つでも金か銀を持っていた方がいい。何かあったら金になるからな。
そうだ、お前は教養がないから僕が色々教えてやろう。」
何だか今度は偉そう。
「はい、リリスもお話を聞きとうございます。
城の賢者のお話を教えてくださりませ。」
「よし、仕方ない。可哀想なお前の為だ、少しずつだぞ。」
「はい、ありがとうございます。」
手を繋いだまま、王子はほんの少し元気が出たのか、それから偉そうに話し出した。
「さっきまで泣いてたくせにさ!何が似合わないよ、リリス様バッチリ格好いいじゃん。」
「まあさ、泣かれるのも困っちゃうし、多少威張ってる方がこいつらしいよ。」
「あいつ、大変だろうけど凄いな。」
あいつとはもち、リリスだ。
「うん」の合唱。
しかし・・王子じゃなくとも確かに辛い。
腰から下がパンパンに張って怠くてしょうがない。アイもびっこ引きながら何とか付いて行く。
こうなったら根性だ。
我慢して王子のくだらない講義を聴きながら、山にどんどん近づいて、そして日が陰る頃、ようやく村の中に入っていった。
リリスは、ここに来るのが初めてではないのだろう。王子の手を引き、すっすっと歩く。
村は小さい木造のとんがり屋根が何軒も軒を連ね、それぞれの家に開いた可愛らしい窓からはカーテンがヒラヒラと顔を覗かせる。
「何かさ、ハイジの世界みたいだねぇ。」
「うん。どんな所なんだろうね、外国旅行みたいでドキドキするよ。」
足が痛い怠いのきついのと、今まで文句を呟いていたのも忘れて、アイ達は目を輝かせてキョロキョロしている。
「お前等、ほんと幸せだな。羨ましいの。」
成り行きでこの世界に来た物の、何だかちょっぴり後悔している吉井だ。
村は旅人も多いのか家の数の割には人も多く、活気に溢れている。
「わあ、小さい村なのに人が多いんだ。」
「ええ、ここは水の神殿へ行く巡礼者が立ち寄るところですから。」
「へえ、水の神殿ねえ。」
どうやら空いていた宿屋は、一階が飲み屋兼食堂の騒がしい宿のようだ。
玄関先に、ザレルがまるで門番のように立っている。客達は怖々避けるように店へと飛び込んでいた。
ふと、宿の手前でリリスの足が止まる。
俯いてキョロキョロと、不安そうな姿がリリスらしくない。
「どしたの?何か心配事?」
「いえ・・」
髪を掻き上げ、そして王子ににっこり笑いかけた。
「少し、お見苦しいところをお見せするかもしれません。でも、王子はご心配いりません。
アイ様方も、どうぞ特別騒がれません様に。
これは仕方のないことなのです。
それと、これからはトラブルを避けるために、王子とお呼びするのを止めてキアン様とお呼びします。」
「ん、わかった・・」
不思議そうな顔で王子・・キアンが頷く。
アイ達も顔を見合わせ、リリスに頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます