第11話 女魔導師グレタガーラ
ゴオオオオオ・・・
薄暗闇に、蝋燭の火が風に揺らぎ、大きなカメにたたえた水の表面を揺らす。
ここは地下らしく、窓一つ無くただ灯りは数本の蝋燭のみだ。
狭い部屋には大きな鏡と、そして猫足のテーブルに沢山の書物が重なっている。
部屋の隅にある小さな十段ほどの階段の上に赤いカーテンが下がり、その向こうにドアがあった。
普通の人間なら息が詰まりそうだ。
バシャバシャ!!
大きく胸の開いた赤いドレスの女が、沢山の指輪をつけた手をカメの水につけ、腹立たしそうに中をかき混ぜた。
「ええい、腹立たしやリリス!
あのバカ王子だけならすぐに何とかなった物を、王め!よりによって風の息子を従者に選ぶとは!
あれは決してあなどれん!」
ぎりぎりと歯を噛みしめるその女は、アトラーナの一地方ベスレムを納めるラグンベルク公の手下の一人。魔導師グレタガーラ。
綺麗に結い上げた黒髪を振り乱し、緑の瞳を燃え上がらせる。
大きな木の杖を片手に、その手を動かすたびに沢山のブレスレットがシャラシャラと音を立てた。
派手な化粧に垂れ目は暗闇では見えにくいが、若作りをしても最近は、更年期が悩みのお年頃だ。
「グーレター様あ、ペルセスが連れてきた、このガキどうしましょうかあ?」
九つ程の金髪の少年が、猿ぐつわを噛まされ、麻袋から首だけ出した河原を引きずり、のんびり階段の上のカーテンから顔を出した。
「ううう・・んん・・んー!」
「あー、うるさい。これのどこがリリスじゃ?
まったくペルセスは当てに出来ぬ。」
シャランシャランと階段を上ると、くいっと河原の顎を上げて顔をじっくり眺める。
「んー、まあ見られる顔かしら?」
河原は、怖くて怖くてちびりそうだ。
お約束な魔女の館?
俺ってまさか、子豚ちゃんに変えられたりして・・ギャア!嫌だあ!
「そうねえ、これなら御館様のご機嫌取りにもいいかのう?女官に引き渡しておいで。」
「うんー、わかったー。うんしょ、うんしょ。」
ズルズルズル・・
引きずられながら、魔女の言葉を考える。
御館様って恐らくは爺だよな。
そのご機嫌取りって何だろう・・
暗い部屋を出て、庭に面した廊下を進む。かなり大きな屋敷だ。
手すりや壁にある装飾も、あちらこちらにぶら下がっているランプも、時代を感じさせアンティークっぽい。
まさかここ、お城かな?気絶してたからなあ。
兵士らしい男の手を借りて暗い階段を数階上がると、長い廊下を進み大広間に顔を出した。
そこには緻密な模様を織り込んだ、巨大な絨毯が広間全体に敷き詰めてある。
サヤサヤと外からのさわやかな風に、緞帳のようなカーテンが揺れた。
「ベーラドーラ様あ、グーレター様から御館様にいー貢ぎ物でございますう。」
み、貢ぎ物って・・おいっ!なんだそりゃ!
少年の声に答えるように、年輩の女官らしい女性が現れた。
髪を綺麗に結い上げ、紺色のドレスに美しい純白のレースの胸飾りと襟がキリッとしている。
「グレタ?また何をしておられるのやら・・
ふうん、まあ良い年頃でしょう。
では、明日にでも夜伽に出しましょうか。
これ!だれかある!」
パンパン!女官が手を叩くと、すぐに屈強な男が二人現れた。
「これの身支度を。いつものように垢を落とし、香をたき詰め明日までに用意なさい。」
「承知いたしました。」
一礼して男の一人が、河原の入った麻袋をヒョイと担ぎ上げる。
よとぎ・・って何?
まさか、夜伽じゃないよな・・御館様って、女なのか?まさか・・
「ううー!ううー!もがーっ!」
じたじた、無駄でも暴れてみる。
しかし、男はびくともしない。
そしてもう一人の男が、信じられない言葉を吐いた。
「可哀想にな。でも大丈夫、御館様はお優しい男だ。可愛がって貰えよ。」
・・・・つうっと一筋汗が流れる。
「ぐもーっ!!!」
いやだああああああ!!!
何が大丈夫だ!!ホモは嫌だああああ!!
誰か助けてえええ!!
しかし河原の叫びは誰に届くわけもなく、虚しく館の奥へ奥へと消えていった。
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