第7話 ファンタジーは甘くなかった

 びっくりした!あの爺が凄い迫力!


「ああ、何か心臓に悪いことばっか有るよな。

あの爺何者?タダの用務員じゃないわけ?」


「良くわかんないけどさ、行こうよ。」


何しろ、花を集めなきゃ。

花というと、今は桜が腐るほど咲いている。

人目を避けて摘むなら、やっぱプールサイドの影だろうと目指した。


「なあ、あの爺さん、結局あいつ等の関係者なわけ?何か偉そうだったよな。」


「そうねえ、何か良くわかんないけどさ、王子様に怒鳴ったりして・・んー、あれが王子は許せないわあ!」


「従者と王子って見た目反対じゃん。

美少年の方が気品があるわあ。あの子が王子だったらファンタジーの世界よねー。」


アイもヨーコも何だか少し腑に落ちなかった。

 プールサイドの裏側は、あまり目立たないところに三本の桜がある。キョロキョロ様子を窺って、ブチブチ桜の花を摘んでゆく。

ブチブチ、ブチ、ブチブチブチ・・

花盗人とはいい気持ちしないが、やがて手の届くところの花を大体摘み終わると、ザルいっぱいになった。


「あ、ねえあんた達、どっちか上着を貸してよ。丸見えはやばいでしょ。」


「そっか、うん。」


河原が制服の上着を脱いで、花が山盛りのザルにバサッと覆い被せる。そして白いシャツ一枚で、寒そうに身を縮めた。


「よし、じゃあ吉井、持ってきて。」


「はいはい・・っと、何で俺が!」


「あら、河原は上着貸してくれたんよ。

じゃあ、持つのはあんたでしょ?」


「どうして男が持つんだよ!お前達が持てばいいだろ?」


「ま!か弱い女の子に持たせるつもり?」


「どこの誰がか弱いって?だあーっ!こんな時ばっかさあ!」


渋々折れて、吉井がザルを持ち、そそくさと用務員室を目指す。


ゴゴゴゴゴ・・ゴロゴロゴロ・・


何だかいきなり空に雷鳴が響き渡り、晴れ渡った空に暗く雲が立ちこめた。


「ん?」

「何だ?いきなり、雨かな?」


バサッバサッバサッ!!


足を速める四人の頭上に大きな鳥の羽音が響き渡る。


「あっ!あれ何?またファンタジーだよ!」


ヨーコの指さした方角から、大きな猛禽類っぽい鳥の背に乗った小さな男が、剣を片手に飛んでくる。

奇妙な鳥のかぶり物をして、気味が悪い。

まるでファンタジー映画をナマで見ているような錯覚に囚われた。


「に、逃げた方がいいんじゃねえの?」


「そうかなあ、悪者に見えていい奴とかさあ。」


バサッバサッバサッ!!


「オオ!確かに!石だ!石の気配がするぞ!

さすがはグレタ様!希代の魔道師よ!

そこのお前達!石を持っているな!渡せ!」


何を言っているのかさっぱり分からないが、どうやらこれだけははっきりした。


「あいつ、敵だ!悪者だよ!」

「逃げろ!」


わっとみんなが走り出す。


「無駄だ!無駄だ!地面を這う虫共よ!

ぬっ!白き衣!お前はリリスか?そうか!お前か!お前だな!リリス!」


バサッバサッバサッ!!


風を切って飛んで来る鳥から、走って逃げられる訳もない。あっという間に追いつかれた。


「え?あ!わあっ!」


一緒に走る河原の身体を、大きな鳥の足がガッと鷲掴みする。

河原はみんなが見ている前で、何も抵抗するすべもなく、ふわりと空中に浮き上がった。


「ああ!河原!」

「きゃあああ!!」

「誰かっ!助けてえ!」


「ワハハハ!能なしの従者共よ!石は貰った!

道を絶たれ、王子と共に途方にくれるがよい!

ハーハッハッハッハ・・・」


鳥男は河原を掴んだまま、風に乗って見る間に上空へと高度を上げる。


「河原あ!」

「ああああ・・違うのよう!あたしが持ってるんだってばあ!」

「あああ・・どうしよう・・」


呆然と見送るしかない三人の前から、結局彼らはあっという間に、雲間へと忽然と姿を消してしまった。

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