第6話 おかっぱの王子は最悪

 ザッとザレルの足が止まった。

そこは、見たことのあるというか、毎日通う彼らの学校だ。


「やっぱり学校じゃん。」


ザレルは校内にさっさと入ってゆく。

今の時間は、部活の学生と先生が数人残っているだけだと思うが・・


「どこにいくんだろ?」


シッとヨーコが指を立てる。

四人も、こそこそ後を追った。

ザレルはまるで勝手を知っているかのように、さっさと校舎の裏手に回り、そして周りを窺うと、さっと渡り廊下を横切って、用務員室へと入ってしまった。


「あ!入っちゃった!あそこは生徒立入禁止だよ。用務員の爺が住んでるんだろ?」


「うん、そうだと思うけど。」


「いいじゃん、行こうぜ。」


河原が先に立って用務員室を覗く。

引き戸を開けると、土間にザレルが美少年を抱いたまま突っ立っていた。


「何じゃ?まさかこいつら巻き込んだのか?」


用務員の爺だ。

苦虫を噛み潰したような顔で四人を見て、畳の上であぐらをかいたままお茶を飲んでいる。


「突っ立ってないで上がれ!ここに休ませるといい。それにしても、あいつらはどうするつもりだ?」


あいつ等とは、四人のことだ。


「入ろうぜ、失礼しまーす!」

「お邪魔します。」


四人とも土間に入り込んで引き戸を閉め、立ったまま様子を見ている。


「石を・・・持っている。」


ザレルが美少年を休ませながら、ぽつんと呟く。


「まだ取り戻しておらぬのか!」


不機嫌そうな声を上げ、いきなり台所からジュース片手に、やっぱり同い年くらいの男の子が現れた。

しかし、今度はちょっとはずれ。

アイががっくり項垂れる。


白い肌、趣味の悪いおかっぱだが金髪、それに青い瞳、小太りも許そう。

しかし、この目つきに口元から一目見るなりでわかる、意地悪くて我が侭そうな顔。


あかん、これが本当の王子様でもあたしパス!


その上何?この悪趣味なファッション。

びらびらフリルの絹のシャツに、金糸銀糸で豪華な鳥が細かく刺繍されたブルーのベスト。

そして淡いブルーでひらひらした絹のズボン。

あんた、異常に浮いてるよ!

チョー趣味悪いよ!


「あの異界人が持っておるのか?!

どうして取りもどさんのだ!」


何だか偉そうにザレルを怒鳴るが、ザレルは無視して美少年のコートを脱がせている。

白いコートの下も、よれよれの白いシャツに白い短パン。見事な白装束だが、スラリとした足先の靴だけは普通のショートブーツだ。

美しい眉をひそめて眠る美少年に、うっとりと目を奪われていると、ドスンドスンと足音を立てて、男の子がアイ達に迫ってきた。


「おい!お前達石を返せ!あれは神聖な物だ、お前などの持つ物ではない!

速やかに返せば、このまま見逃してやろうぞ。」


ムカーーッ!!


返せばって、何だか盗んだみたいじゃない!

ますます返す気が失せてきた!


「ちょっとあんた!どういうキョーイク受けてるわけ?!喋り方も知らないのかい!」


「お前などって、あんたそんなに偉いわけ?」


キイイイーッ!女性陣の怒りが爆発する。

たじたじと引きながら、男の子も負けなかった。


「何て無礼な女達だ。僕は王子だぞ!次期王位の第一継承者なんだ!偉いんだぞ!」


「へー!どこの?あんたが王様なんて、へそで笑っちゃうわね!大した国じゃあないわ。」


ペンペン、アイが腹を叩く。

その間にも、用務員の爺は美少年の身体を探り始めた。


「むうー、こちらに来て無理を重ねたな?こちらの世界は力を倍必要とする。

浅はかな力の使い方は命に関わるぞ。そのことは、十分知っているだろうに。」


爺がザレルを見る。ザレルは目を伏せ、そして自称王子を見上げた。


「命令には、逆らえない。」


その言葉に、王子がワナワナと目をむく。


「僕が悪いって言うのか?!僕は王子だぞ!

従者は僕の言うことを聞くのが仕事だろう!

大体体調を崩すなんて、この間に僕に何かあったら父上が許さないぞ!

大体どうして母上は・・」


「やかましい!!」


シーーン


爺の一声。さすがの自称王子も口を閉ざした。


「おい、お前達、花摘んで来い。」


お前達とは土間にボーーッと立っている四人組のことだ。


「は?花?花なんか何で?」


「いいから!そこにあるザルいっぱい摘んでこい!いいな、花だぞ!さっさと行け!」


「は、はい!」


バタバタ、ザルを持って、四人は部屋を飛び出した。

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