第54話 文化祭2 5(1)
2学期は9月から始まり、文化祭はその月末に行われる。つまり、たったの4週間ですべてを準備しなくてはならず、しかも全員で話が出来るLHRは週に1回しかない。
そんな中でクラス展示を成功に導くにはこのペースで進めるしかないのだが、どうしたって不満を言う人間はいる。そういう仲裁は私や糸織、笹部君には無理だし、川波君も若干解決方法が乱暴だ。
こういう時は、作業的分担も兼ねて力ある人間を巻き込むのがいいだろうと、まず内装全般を長井さんにお願いした。こればかりはデザインセンスが必要で、私はそんなものを持ち合わせていないし、不得手な分野である。涼夏はやってもいいと言ってくれたが、一番多くみんなに手伝ってもらう部分になるので、クラスの中心的存在である長井さんの方がいいだろう。
「適当に友達巻き込んで案を考えてくれると嬉しい。実際に切ったり貼ったりはみんなでやるから」
大体の予算を伝えて、何をどこで買うのかも含めてお願いすると、長井さんは快く引き受けてくれた。元々目立つのが好きだし、求心力を発揮したいタイプだ。友達が多いから出せるアイデアも多いだろうし、打ってつけである。
チラシやパンフレットへの掲載周りは、委員長の岡山君を巻き込んだ。こちらもデザインセンスが必要な上、運営とのやり取りも必要なので、クラスの外にも顔のきく岡山君は適任だろう。
チラシは自信がないと言われたが、自信のありそうな人を探してくれと突っぱねた。たぶん、すぐに見つかるだろう。40人もいれば、2人か3人くらい、絵の描ける人間がいるものだ。
ゲームに関する全般的なことは笹部君に任せ、私と涼夏が補助することにした。カジノ推進派から、テーブルレイアウトも頑張りたいという有り難い申し出があったので、内装との調和のために私が間に入って長井さんチームと調整することにした。大きなフェルトを買って、その上に枠を描いたり貼ったりするだけでも見栄えのいいものが出来上がる。こだわってくれるなら何よりだ。
景品は川波君と糸織、そして帰宅部の広田さんと岩崎君にお願いした。これも一度行って終わりではなく、計画が必要だ。何をどれだけ買うかを出してもらい、実行委員で検討する。お金のかかるところでもあるので、先生とも相談しないといけない。
トレンドに関しては雑貨屋でバイトをしている涼夏も詳しいが、ジャンルが限られるし、お店のお客さんの大半が女性だ。カジノの客層を考えると適役ではないだろう。
「女性が気軽に入れるカジノにしたいけどな」
役割を決める時、川波君がそう言っていた。ターゲットを決めるのは大事だが、内装に注文は出していない。長井さんに気持ち良く仕切ってもらって、結果的に女子ウケする内装になればと思う。女子にもディーラーをやってもらおうと思っているから、お客さんが男性ばかりでは萎縮してしまうかもしれない。
大体役割が決まって準備が進み始めると、糸織が「結構楽勝だね」と笑った。それはまったくの勘違いだが、わざわざ絶望させることもないだろう。
一番大変なのは当日のシフトを考えることで、しかも比較的ギリギリまでみんなの予定がわからないから、二転三転では済まない。もちろん、先に決めてしまって、クラスの方を優先して欲しいとお願いはするのだが、部活動は上下関係もあるし、部によっては人数も少ないので断りづらいようだ。
当日の進行はまた後から考えるとして、とりあえずメインとなるゲームである。ルーレットだけは先に買おうということで、笹部君とカジノ推進派にお願いした結果、予算を大幅にオーバーするルーレットを買ってきた。
もちろん、購入前に電話で相談されたが、やはりマット付きで4千円のはいかにもオモチャで、ある程度見栄えがするものとなるとそれなりにしてしまうとのこと。
別売のマットを買うお金はとてもなかったので、こちらは自作してもらうことにした。他のゲームのセットはすべて手作りするのだし、自分で作ってこその文化祭である。
ルーレットやトランプが揃うと、昼休みや放課後にみんなが遊ぶようになった。ルールを覚えるのは大事だし、お客さん役をやることで、お客さん側の気持ちを知ることもできる。あくまで当日を想定したロールプレイだと信じているが、担任は朝のHRでゲームの中毒性について危険を警告していた。
放課後、涼夏も絢音もいたし、クラスメイトの多くは部活に行ってルーレットが空いていたのでやってみることにした。すでにチップも購入済みだ。実際のルーレットでは、お金で購入するチップとルーレットで使用するものは別らしいが、そんな複雑なことはやらない。
「これは、基本的には運だな」
涼夏がそう言いながら、推進派が作ってくれたマットの上にチップを置いた。
ルーレットの賭け方には、インサイドベットとアウトサイドベットの大きく2つがある。インサイドベットは数字の書かれた場所に賭けるもので、線の上に置くことで、一度に複数のマスに賭けることも出来る。
例えば今、涼夏は7と10の間の線の上に、はみ出すように配置した。これは7、8、9の列と、10、11、12の列、計6点に賭けることになる。もちろん、当たる確率が増える分、配当が減る。
私はアウトサイドベットで、黒のマスの上にチップを積んだ。2分の1弱で当たるが、配当も2倍しかない。
絢音がルーレットに球を投じて、それを見ながら他のマスにもチップを置く。絢音がマットの上で手を振ってノーモアベットを宣言すると、後は3人で球の行く末を見守った。
球は黒の29に入り、私の黒は当たったが他は壊滅し、チップは容赦なくディーラーに回収されてしまった。
「当たる気がしない」
涼夏が絶望的な表情で呻く。カジノゲームの多くは、運以外に当たる要素がない。用意した5つのゲームの中では、ブラックジャックが一番プレイしている感じがあり、実際に勝てる確率も高いらしい。
今度は涼夏がディーラーを務め、絢音と私でチップを賭ける。せっかくたくさんあるのだからと、絢音が6ヵ所ほどストレートアップで賭けると、その内の1つが見事的中した。計12枚賭けて、72枚返ってくる。
「賭け事、楽しい」
絢音がうっとりとした目でそう言って、富豪のようにチップを積んだ。次の1回も的中してチップを増やしたが、最終的には全部なくなった。
涼夏に回収されるチップを眺めながら、絢音が苦笑いを浮かべた。
「これ、みんな景品に交換するかなぁ。増えてもなくなるまでやりそう」
「そこは、糸織たちに頑張ってもらおう。魅力的な景品があったら途中でやめるでしょ」
涼夏が楽天的にそう言ったが、それについては少し自信がない。もっとも、すごくたくさんチップを増やされた後、やめられてもそれはそれで困る。むしろすっからかんになるまで遊んでくれた方が有り難いが、長居されるのも微妙だ。
多くのクラスメイトからゲームの感想や意見をもらっているが、当日どうなるかは未知数だ。それこそが一番の賭けという感じがする。
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