第54話 文化祭2 1
★はじめに
千紗都の文化祭にかける想いが迸った結果、1年次を超える大ボリュームになりました。
誕生日や沖縄旅行、その他多くの話と異なり、久しぶりに男子もたくさん登場します。
2年になってすぐの聖域事変で絡んだ面々も再登場します。
本作品の最高潮ではありますが、4人だけの平和な日常を楽しみたい方はご注意ください。
★主要メンバー以外の登場人物
川波知晃:同じクラスの男子。野阪派の筆頭。もちろん、千紗都は相手にしていない。
垣添糸織:元バドミントン部。1年から同じクラスで、部活を辞めた後は時々一緒に帰っている。
笹部君:オタク寄りの男子。1年の前半に涼夏に告白している。千紗都と元号を探した人。
長井朋花:ヒエラルキー上位の女子。聖域事変の最後に、元猪谷組の江塚と付き合い出した。
広田優希:聖域事変で絡んだ帰宅部の女子。長井グループ。岩崎君が好き。恋愛トーク多め。
岩崎篤司:朋花が好きだったが、江塚に取られてからは距離を置いている。優希と仲が良い。
江塚佳彦:猪谷組の筆頭だったが、春に玉砕してから絡みはない。今は朋花と付き合っている。
豊山莉絵:Prime Yellowsのドラム。絢音とは中学から一緒で、LemonPoundの元メンバー。
牧島さぎり:莉絵と一緒にPrime Yellowsを立ち上げた同級生。キーボード担当。友達が多い。
戸和波香:Prime Yellowsのサブギター。初心者。さぎりの友達で、時々おっぱいを触っている。
竹中君:初出の男子。絢音と莉絵の中学の後輩でベースを弾く。
富元真依:奈都のバトン部の後輩。マイちゃん。オタク気質で、同類の奈都に懐いている。
岡山君:初出の男子。千紗都のクラスの委員長。
* * *
1年を季節ごとに4分割すると、9月は秋に分類される。実際、9月の終わり頃なら朝晩は多少涼しくなるが、夏休みが終わったばかりのこの頃は、まだまだ全力で夏である。残暑なんてもんじゃない。
私の感覚としては、1月から順に、冬、冬、冬、春、夏、夏、夏、夏、夏、秋、冬、冬という感じだ。異論は認めるが、少なくとも11月は冬だ。紅葉は冬の季語にした方がいい。
今日から2学期が始まる。いつもよりだいぶ早く起きて、ヘアアイロンで髪にウェーブをかけると、部分的に束ねて内側に入れた。くるりんぱと呼ぶらしい。夏休みに何度か挑戦したので、だいぶ早く出来るようになった。
朝ご飯の後、軽くメイクをする。1年の時は親から学校ではメイクを禁止されていたが、2年になってから必要性を理解してもらえた。もっとも、あまり濃いと難色を示されるし、自分としてもそこまでの必要性は感じないので、目と肌を整えて、リップを塗るくらいだ。
鏡を見ると、なかなか垢抜けた感じで良く出来た。濃いメイクではないから、「盛れた」という表現は間違っているだろうが、何にしろすっぴんよりは可愛く思える。奈都の反応が楽しみだ。
時々ヘアアレンジをして行くと、奈都が大袈裟に感動してくれる。それが面白くてやっているだけで、特に他に理由はない。まあ、将来的にはメイクは必須になるだろうから、今の内に練習しておくのも大事だろう。涼夏も喜んでくれる。
駅まで歩いて、いつも通り私より早く着いて待っている奈都に「おはよー」と声をかけると、奈都は驚いたように目を丸くしてから、興奮気味に拳を握った。
「やばい。可愛い。今までのは本気じゃなかったってことなの?」
「ちょっと何を言ってるのかわからない」
「写真撮る。笑顔でピースして」
早口にそう言いながら、持っていたスマホを私に向けた。そういうキャラではないと退けようとしたが、写真を撮るまで一歩も動かない勢いだったので諦めた。
改札をくぐって、2分間隔で来る電車に乗り込む。隣に座りながら、奈都が至近距離から私の横顔を見つめた。
「髪がウェーブしてる」
「うん。夏休みにも何度かしてたと思うけど」
「制服では初めてだから。神の組み合わせ。髪だけに」
真顔でそう言うが、相変わらず最後の一言は要らないと思う。
とりあえず期待通りの反応をしてくれたので、朝早起きした甲斐はあった。もう満足だったが、このちょっとした試みはそれだけにとどまらなかった。
廊下で奈都と別れて教室に入ると、夏休み明けで賑やかな教室に、ほんの一瞬、変な緊張が走った。
何人かの視線を感じながら席に着くと、近くにいた長井さんが珍しい動物でも見つけたような眼差しで近付いてきた。
「アイドルでも入ってきたのかと思った。夏休み、何かロマンスでもあったの?」
「ないけど。長井さんは、江塚君と仲良くしてる?」
「おかげさまで。っていうか、私の話はいい。なんでそんなに気合入ってるの?」
「占いで、髪を巻くと金運が上がるって。机の中に万札入ってないかなぁ」
冗談を言いながら机の中を覗き込むと、長井さんが「占いかー」と相変わらず綺麗な相槌を打った。信じられても困るのだが、大きな問題はないだろう。
隣の席が今日までの糸織にも、「最後にいいものを見た」と何やら感動された。流れ星でも見たような反応だと言うと、糸織は明るく笑った。
「相変わらず喩えが面白いね。中身は千紗都のままだ」
「身長も胸のサイズも千紗都のままだから」
「いやいや、今日は枠が光ってる。完全にSレアを引いた」
奈都と同じように写真を撮りたいと言われたので、ツーショットの体勢を取ると、一緒には恥ずかしいと押しやられた。意味がわからない。
教科書を机に入れて愛友たちのもとに行くと、涼夏が無念そうに首を振った。
「困るなぁ。私と同じレベルで止めてもらわないと。ツートップ同盟は破棄だ」
「どう考えても涼夏のワントップだから。なんか、奈都に見せたかっただけなのに、予想外の反応されてる」
「ちょっと見たことがないくらい可愛いよ?」
絢音までヨイショしてくれるが、あまり嬉しくなかったので重たいため息をついた。
「ひっそりと生きていたいのに」
「すっぴんで三つ編みおさげに眼鏡をかけるといいよ」
「漫画に出てきそうだな。果たしてそれで千紗都の戦闘力を隠せるか?」
「難しいかも。とりあえずツーショットが撮りたいから並んで」
絢音がそう言いながら、涼夏を私の方に押しやった。涼夏が「顔面処刑だ」とつらそうに首を振ったが、新種の冗談だろうか。
「みんな、涼夏の可愛さには慣れちゃったんだね。私は珍しい髪型をして来たから、珍獣扱い」
「それは一理あるかもしれない」
絢音がそう言いながら私と涼夏の写真を撮ると、川波君が近付いてきて明るい表情で言った。
「西畑さん、その写真俺にもちょうだい。壁紙にする」
「お前は何を言ってるんだ?」
涼夏がスワヒリ語でも聞いたような反応をする。絢音も静かに首を振った。
「データは渡せないね。プリントした写真なら、1枚6千円で販売するけど」
「高くない? 6百円なら」
「Sレアだよ? しかも涼夏も一緒!」
「私はノーマルだけど」
涼夏が苦笑する。確かに涼夏はいつも通りで、いつも可愛い。
「私はSレアくらいで、ノーマルの涼夏と釣り合う」
「そういう意味じゃないな」
「去年、今なら限定ハロウィン涼夏がもらえるとか言ってたよね」
「あったあった。ケルト人!」
3人でキャイキャイ話していると、川波君は諦めたように去っていった。6千円貰いそびれたが仕方ない。
今日は始業式があり、運命の席替えがある。去年は川波君が私の隣になって歓喜していた。確率的には、そろそろ涼夏と近くになってもいいと思うがどうだろうか。
無難に始業式を終えて運命のくじ引きが始まる。私の席はど真ん中の前から2列目だった。黒板に近いこの席を、いいと取るか悪いと取るかは人それぞれだが、私の前になった男子は頭を抱えて絶望していた。
ちなみに、涼夏は私の斜め後ろで、1年の1学期以来、久しぶりに愛友が周囲8席に入った。私の後ろで涼夏の隣になった守屋君という男子が、「この席は緊張する」と別の意味で頭を抱えていた。私は話したことがないが、涼夏はあるようで、まあまあと慰めていた。何の部活かはわからないが、帰宅部ではないはずだ。
絢音は窓際の一番後ろ、いわゆる主人公席を引き当てたが、何やら神妙な表情をした後、私の前の席の男子に声をかけていた。そして、全員が席につき、担任から問題がある人は挙手と言われて、自信たっぷりに手を挙げて立ち上がった。
「後ろ過ぎて黒板が見にくいです。この席だと、私の輝かしい成績を維持できません」
すかさず、私の前の席の男子が茶々を入れた。
「秀才は言うことが違うな。替わって欲しいわ」
「本当? 先生、石田君が替わってもいいそうなので、一番前でもいいですか?」
茶番だ。クラスの一部から忍び笑いが漏れる。
茶々の茶と茶番の茶は同じ語源だろうかと考えていたら、担任から許可を得た絢音が私の前にやって来た。真意がバレて却下されるといけないので、ひとまず話しかけずにおく。
言うまでもなく、単に私の前の席になりたかっただけで、クラスメイトが笑っていたのも、私たちの関係を知っているからだ。毎日のようにハグしていたら、普通の友達ではないことは容易に想像がつく。中には付き合っていると認識している人もいるようだが、特に困ることはないので肯定も否定もしていない。
担任が教室を出ていった後、涼夏があははと笑って絢音の肩に寄りかかった。
「面白かった。いくら千紗都が好きでも、あの席を手放してここに来るのは勇者だ」
「どうせ授業は真面目に聞いてるから、どこでもいいよ。2学期は背中に千紗都を感じながら生きる」
絢音が私を振り返って、可愛らしくガッツポーズした。後から石田君が来て多大な感謝を伝えていたが、絢音はむしろ助かったと笑った。
こうして2年生の2学期は、帰宅部メンバーに囲まれて過ごせることになった。なかなか幸先の良い出だしである。
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