番外編 涼夏の地下鉄駅めぐり

自作ゲーム『涼夏の地下鉄駅めぐり』をプレイする4人のお話。

プレイ中の盤面の写真は以下に掲載してあります。別ウィンドウで開いてご覧ください。

https://minarinbg.com/scdiary240322/

ルールは本文中に簡単に記載していますが、より詳しく知りたい方は同じページからゲームの紹介ページに飛べます。

『キタコミ!』ではオリジナルの地名を使っていますが、本小説はゲームの性質上、名古屋の地名を使っています。


  *  *  *


 帰宅部の土日の活動は多岐に渡るが、雨の日や寒い日暑い日はボードゲームをしていることが多い。一度買ってしまえばそれ以上お金がかからないし、みんなで外で何かするお金でゲームが1つ2つ買える。ゲーム中に会話もできるし、合間にお茶もできるし、何よりゲーム自体が面白い。

 問題は場所だけだが、集まるのはもっぱら涼夏の家だ。絢音は絶対に家に人を呼びたくないし、私の家と奈都の家は父親がいるので何となく気恥ずかしい。

 涼夏の家は母親は土日は出掛けることが多く、もし家にいてもすっかり慣れた。妹氏も同様にあまり家にいないが、家にいる時は一緒にゲームをやったりもしている。涼夏自身も家を出なくて楽だと言っているし、行くのにお金のかかる私たちのためにクッキーを焼いてくれたりする。

 その日も3ゲームほど楽しんでから、涼夏が作ったタルトを紅茶と一緒にいただいていたら、ホストがこんなことを言い出した。

「帰宅部でも何かゲームが作りたいな」

「ゲーム」

 奈都が意味もなく復唱する。

 ボードゲームにはいくつか種類がある。相手と競い合う対戦ゲーム、一緒にクリアを目指す協力ゲーム、みんなでわいわい楽しむパーティーゲーム。対戦ゲームにも、それぞれ高得点を目指すものから、相手を蹴落として勝ち残るもの、あるいは泥棒と警察など、別の役割に分かれて異なる勝利条件を目指す非対称のゲームなどがある。

 コンポーネントも、目を引くボードやコマを使ったゲームもあれば、たくさんのダイスを転がすゲーム、カードだけを使ったゲーム、トークで楽しむゲームなど様々だ。

 丁度『王への請願』というダイスを使ったゲームをやっていたので、そのダイスを転がしながら言った。

「千紗都のダイスコロコロ」

「ほう。楽しそうな響きだ」

 涼夏が目を輝かせたが、その隣で奈都が「そう?」と怪訝な顔をした。失礼な女だ。

「手番順にダイスを振って、合計100を目指す」

「★1。手番順にダイスを振って、合計100を目指すだけのゲームです」

 絢音がバッサリと切り捨てて、奈都も残念そうに首を振った。

「私のチサが穢された。最高につまらないゲームのタイトルにその名を残した」

「これはキャラクターゲームなの」

 真顔で訴えたが、絢音が「どんなガワを付けても、そのゲームは面白くないよ」と悲しそうに目を伏せた。どんな発言にも乗ってきてくれる絢音をもってして、擁護できないゲームらしい。発案者も同感である。

「千紗都を取り合う非対称のゲームがしたい」

 流れを変えるように、奈都が嬉しそうに手を打った。絢音もまるで『千紗都のダイスコロコロ』から目を背けるように身を乗り出した。

「やりたい! 千紗都へのアピールポイントを貯める」

「コツコツ貢いで、好感度を上げる。ゲーム終了時に一番好感度が高い人がチサと結婚する」

「それ、王様と領主とかでも良さそう」

 私が半眼でそう言うと、奈都に「テーマが大事だから」と切り捨てられた。それはもっともだ。例えば『ごきぶりポーカー』とか、とても面白いゲームだと思うが、テーマがあまり好きではない。良いシステムでもアートワークが合わない作品もある。

「私の勝利条件は?」

「チサはみんな仲良くの平和エンドを目指す」

 なるほど。奈都が最初に言った通り、勝利条件の異なる非対称のゲームらしい。

「じゃあ私、絢音やる」

「プレイヤー固定じゃないんだ」

 絢音がくすっと笑う。せっかく非対称のゲームなのに、固定にするのはもったいない。

「じゃあ私、チサをやって、どんどんみんなの好感度を下げる!」

 奈都が勢いよくそう言うが、それはちょっとシステムに欠陥がある気がしないでもない。むしろ全員と結婚したい。

 3人でキャイキャイ喋っていたら、涼夏がポツリと呟いた。

「『千紗都のダイスコロコロ』か」

「いや、その話、だいぶ前に終わったから」

 突然黒歴史を掘り起こされたので、慌てて否定すると、涼夏が何やら納得したように頷いた。

「何か特技を使ってダイスを振って、好感度100を目指す」

「★3くらいにはなりそうだね」

 絢音が柔らかく微笑んだ。ゲーム作りの話も面白いが、今は目の前にある楽しいことが約束されたパッケージをやろう。


 それから何週間かして、そんな話をしたのもすっかり忘れた頃、涼夏が勝ち気に笑ってこう言った。

「ゲームを作ったから、今度是非プレイしていただきたい」

 もちろん大歓迎である。その週末、早速3人で涼夏の家にお邪魔すると、涼夏は机の上にA3よりも大きな紙を広げた。手書きで名古屋市の地下鉄の路線が描かれており、普通の駅はただの丸、乗り換え駅は二重丸、終点は丸の中が黄色く塗られている。

「『千紗都のダイスコロコロ』に着想を得た」

 そう言いながら、ダイスと4色のコマ、それから同じ色の無数のビーズを机に並べた。プレイヤーカラーは決まっているので、自然と私が緑、奈都が青、絢音が黄色を取り、残った赤色のコマとビーズを涼夏が自分の手元に引き寄せた。

「どんなゲームなの?」

 奈都が聞くと、涼夏は「ダイスを振ってコマを動かして、早い者勝ちで駅にビーズを置いていくゲームだ」と簡潔に答えた。絢音がにっこりと微笑む。

「『千紗都のダイスコロコロ』要素ゼロだね」

「ダイスをコロコロする」

「100を目指すの?」

「目指さない」

 本当に『千紗都のダイスコロコロ』の要素は皆無だ。恥ずかしいので、あのゲームのことはもう忘れていただきたい。

 ルールはいたってシンプルで、手番順にダイスを振って、出た目の数だけコマを動かし、止まった駅にまだ誰のビーズも置かれていなければ自分のビーズを置く。乗り換え駅は2つまで置くことが出来る。

 止まった駅にもし他の人のコマと、その人のビーズが置かれていたら、自分のビーズに置き換えることが出来る。

「バチバチに殴り合う帰宅部らしい攻撃要素だね」

 絢音がボクシングの真似をすると、奈都が静かに首を振った。

「平和に生きたい」

 大賛成だ。たまには気が合う。

「私と平和同盟を結ぼう」

「でもずっとチサの後を追いかけて、どんどん私の色に置き換えたい」

「同盟は破棄だ」

 束の間の平和だった。

 東山戦、名城線、鶴舞戦、桜通戦の内、2つの路線のすべての駅にビーズが置かれたらゲーム終了。置いたビーズの数や終点、一番駅が繋がっている個数や、路線のセットボーナスで勝敗を競う。

「面白そう。電車大好きの涼夏っぽいゲーム」

 絢音が声を弾ませると、涼夏が静かに否定した。

「別に好きじゃない。タイトルは『涼夏の地下鉄駅めぐり』」

「名前が入ってるんだ」

「『千紗都のダイスコロコロ』をリスペクトした」

「本当に要らないリスペクトだね。むしろ嘲笑われた気さえする」

 私がため息をつくと、涼夏が「尊敬しかない」と笑った。

 ゲームには他にもう1要素あり、ダイスの振り方を4つの中から選ぶことが出来る。

 まず、ダイスを2つ振って、好きな方の目を使う。

 次に、ダイスを1つだけ振って、裏か表のどちらかの目を使う。確実に毎回2つから選べるので、最初の振り方より強いのだが、気持ち的にはダイスを2つ振りたいし、こちらの振り方では5か6のどちらかみたいな場合は期待値が下がる。

 3つ目は、ダイスを2つ振って足し算か引き算をする。例えば2と5なら、3か7になる。ゾロ目は足し算のみ。一気にたくさん動けて楽しそうだ。

 最後は、ダイスは1つしか振らないが、相手が来た時に置き換えられないという防御型。面白味はないが堅実そうである。

 ジャンケンの結果、私は4つ目の防御型の振り方を選んだ。涼夏が意外だと目を丸くする。

「正直、あんまり面白みがないかと思った」

「なんか、みんなに狙われそうだから、平和に生きたい」

「なるほど?」

 絢音はたくさん動けて面白そうな3つ目を、奈都は2つ振りたいからと言って1つ目を選択した。

 駅は3人はそれぞれ最寄り駅、涼夏が浄心、絢音が桜山、奈都が岩塚を選び、私は学校の最寄駅である池下にした。

「勝ちに行くなら、大須観音とかの方が良さそうだけど」

「都心を動き回ると、セットボーナスも最長距離も伸びやすいから、早めに押さえた方がいい気がする」

「でも、上書きされる可能性も高い」

「放っておくと、上書きされない千紗都がどんどん都心を制圧して終わりそう」

「涼夏に任せよう。でもまあ、私岩塚スタートだから、すぐ名古屋行くけど」

 わいわい喋るのを、涼夏が楽しそうに眺めている。製作者の神様目線というやつか。


[Fig.1]


 早速私からゲームをスタートする。4を振ったので、ひとまず勝つために栄に移動する。容赦ないが、都心を制圧するのが常套手段だろう。

「緑区と昭和区と天白区は私に任せて」

 絢音はそう言い残して、徳重の方に行ってしまった。任せるとかそういう類のゲームではない。

 奈都はひとまず高畑を、涼夏は上小田井を目指すが、二人とも出目が悪く、なかなか終点が取れない。

「でも、最長距離は伸びてるから、どっかで上京する」

「上小田井で6を振れば、一瞬で伏見にも久屋大通にも行ける」

「駅を感じるゲームだね。どう考えても上小田井から伏見より、高畑から伏見の方が近いのに、駅数が多い」

 絢音がそう言いながら、振った11で徳重から塩釜口に移動した。新瑞橋から八事も、名城線だと3駅だが、桜通線と鶴舞線を乗り継ぐと7駅かかる。

「5のゾロ目。高畑全然ダメだから、国際センターまで移動しよう」

 とうとう奈都が都心にやって来ると、同じく涼夏が庄内緑地公園で5を振って、久屋大通にやって来た。

 今のは国際センターで奈都のを上書きも出来たが、そうしたら次は確実に私のターゲットにされる。攻撃対象を分散させるのは確かにいい作戦かも知れない。


[Fig.2]


 私が名古屋、奈都が伏見、涼夏が丸の内という混戦になり、4が出たので涼夏の丸の内を上書きした。本当は最長距離のために奈都の伏見が欲しかったが、名古屋から4駅では伏見に行けない。

「チサの最長を切るために、伏見に2つ置こう」

 奈都が戦略的なことを口にするが、丸の内から伏見は1でも3でも5でも6でも行ける。その前に涼夏が1だったが、伏見には行かずに浅間町を押さえた。製作者だから上書きを控えてるわけではなく、同じ1なら絶対に私が伏見に行くと考えた上での行動らしい。

 実際、私は無事に1を出して、奈都の伏見を1つもらった。ダイスは1つしか振れなくても、都心はぐるぐる回れるので比較的容易に上書きできる。

 その間に絢音が宣言通り東の方で好き勝手やっているが、武器の性質上、最長距離はまったく伸びていない。

「この武器、暴れ馬みたいな感じがある。私は好き」

 すでにセットボーナスを1セット獲得した絢音が笑った。数回で徳重と平針と一社を制圧できるのは確かに楽しそうだが、駅が繋がるイメージがまったく湧かない。

 奈都が伏見で6を振り、上小田井にも行けたが一旦中村日赤に退いた。もし上小田井を取っても、鶴舞線はすでに涼夏のビーズがたくさん置かれているので、その後のロールが無駄になる可能性が高い。

「千紗都と戦わないとダメだけど、一人じゃ厳しい。ナッちゃんと呼吸を揃えよう」

 涼夏が戦国武将のようなことを言って、上小田井を制圧する。そこまでみんなに止められる武器だとは思わなかったが、実際に上書きされないのは強い。

「最長距離は5になったけど、私まだ東山線にしかビーズ置いてない。一応伏見が鶴舞線」

 奈都がどうしたものかと頭を抱える。私もそろそろ最長距離を考えて動き始めよう。


[Fig.3]


 全然終点が取れないと嘆く絢音をとりあえず放置して、都心の戦いを続ける。

 奈都がようやく高畑を取ったが、そこから6駅はすでにすべてビーズが置かれているので、次のロールは無駄になる。

 涼夏の久屋大通を奪った後、さらに今池に移動した涼夏のビーズを奪うと、涼夏が眉間を指で押さえた。

「製作者じゃなかったら発狂しそうだ」

「発狂しないで。でもこれ、永遠に追いかけれるから、ギスギスする可能性はあるね」

「同じ人からは2手番連続では奪えない、ストーカー禁止のヴァリアントルールを作ろう」

 それはいい考えかも知れない。もしくは、私の武器を、上書きもされないが上書きも出来ないルールにするのもいいかもしれない。

 私が亀島、名古屋、伏見、栄、千種、今池、池下に置いたことで、奈都が悲鳴を上げた。

「全力で新栄を取らないと詰む。涼夏も手伝って」

「御意」

 二人が頷き合って、新栄と高岳を占拠する。私は5を振ったが、千種から新栄はどうやっても5では行けない。高岳には行けるのだが、これ以上涼夏を潰すより、名古屋城にコマを進めて最長距離を伸ばすべきだろう。

 絢音は全然藤が丘が取れないと嘆き、一旦八事まで退いた。もっとも、八事からなら赤池はもちろん、藤が丘も上飯田も1手の射程圏内だ。

「私、東山線1つも置いてないのに、置ける駅がなくなってきた」

 涼夏が重大なことに気が付いたと、慌てて本山の方に飛んで行った。奈都もまだセットコレクションは1つしか達成していない。

「桜通線と取らないと。実は意外とゲームは収束に向かってる?」

「東山線は後2駅だな。藤が丘取れた」

 涼夏がトンと藤が丘にコマを置き、絢音が頬を膨らませた。

「5回くらいトライしたけど取れなかったのに」

「基本的にはすごろくだ。運ゲー」

 涼夏がくつくつと笑う。なかなかバランスよく出来ている。


[Fig.4]


 終盤戦と言った方がいいだろうか。鶴舞線は後7駅。私はさんざん都心を蹂躙してなお、最長距離が6しかない。ここからは、ダイスが1つは融通が利かない。恐らく勝っているので、ゲームを終わらせる動きをした方がいいだろう。

「私、最長3なんだけど」

 絢音が困ったように眉をひそめたが、御器所から8を振って赤池を奪取して顔をパッと明るくした。表情豊かな子だ。

 東山線がないと泣いていた涼夏が本山に戻ってきた。セットボーナスは未だに2つ。

「これ、早く終わらせに行くとチサが勝って終わるね。チサが動いた先にビーズがあって置けないっていう展開が少しでもないと、置いてるビーズの数が違い過ぎる」

 奈都が難しそうにそう言った。実際、私は奈都より2つ、涼夏より3つ多く置いている。

 ゲームを終わらせない方が奈都や涼夏には得だろうが、奈都はセットボーナスを得るためには鶴舞線に置かないといけない。このゲームは、なかなか収束性が良い。

 私としては、必ずしもゲームを終わらせなくても、とにかく無駄打ちさえなければいい。

「私の置いたビーズ数が手番数だね」

 ここまで18手番。絢音ですら、ゾロ目で1つ無駄にしているので、置いてある数もトップだ。ただ、あまり戦略的なことはしていない。この武器は単純に強い気がする。

「1対3みたいになってるな。千紗都の言った、上書きもできないヴァリアントは要るかも」

「それがあったら、もうちょっと都心でチサの邪魔が出来た」

 反省会モードだが、まだ勝敗が決まったわけではない。こういう時、大抵油断すると絢音が勝ったりするから気を引き締めていこう。


[Fig.5]


 残り3駅になって、とうとう私は1を振って置けなかった。3人が大喜びして、まるでいじめの構図だが、恐らく勝っているのは私だ。

 奈都が絢音の妙音通を上書きしてくれたことで、さらに勝つ確率が増した。絢音がみんなで協力しようと声を上げるが、このゲームは1対3のゲームではないはずだ。

 涼夏が自由ヶ丘で6を出して上飯田に移動する。

「後は名城線が欲しいだけの状態で上飯田は、いいムーブな気がする」

「セットボーナスはみんな4つくらいになりそうだね」

「涼夏、終点3つ置いてるから、もしかしたら千紗都に勝つんじゃない?」

 絢音がそう言って、改めて盤面を確認すると、確かに上小田井と藤が丘、上飯田の3つの終点を持っている上、最長も一応5つある。

 私は神ロールで原を押さえて、これで鶴舞線は残り川名だけ。まだ東山動物園も残っているが、どちらも私の圏内だ。

「さすがにゲーム終了ボーナスまで取られたら勝ち目がない。むしろ、それを取ったらまだ勝負はわからない気がする」

 奈都がそう言いながら、瑞穂区にやってきた。2つの路線が埋まったらゲーム終了だが、そのトリガーを引くと3点もらえる。ここから先は振り合いだ。

 絢音が涼夏を上書きした平安通で11を出して、一気に川名を持って行った。相変わらず熱いロールだ。

 全員東山公園まで1ロールの位置にいたが、大曽根にいた涼夏が6を振って先着した。しかも涼夏が4番手なので、これでゲーム終了だ。

「ビーズ置いてる数は少ないけど、私勝ったかもしれない」

 涼夏が苦笑いを浮かべる。製作者だから別に勝たなくても良いということだろうが、特に製作者だから有利という点はなかったし、勝負事は全力でやってもらって構わない。


[Fig.6]


 置いているビーズの数は、私が21点、絢音が21点、奈都が21点、涼夏が19点。

 終点ボーナスは私が1駅で2点、絢音が4点、奈都が2点、涼夏が6点。

 最長距離は私が6点、絢音が3点、奈都が6点、涼夏が5点。

 セットコレクションは私が5セットで10点、絢音は東山線が3つしかなくて6点、奈都が8点、涼夏が8点。

 そして、ゲーム終了ボーナスは涼夏が3点。

 合計は、私が39点、絢音が34点、奈都が37点、そして涼夏が41点で、涼夏の勝ちになった。

「いいバランスだと思う。最後に東山線取った人の勝ちだった」

 絢音が満足そうに頷いた。実際、ラス前で私が39点、絢音が34点、奈都が37点、涼夏が38点。ドベの絢音も、もし東山公園を取ったらセットコレクションが増えていたので、40点になってトップだった。

「全員で千紗都を潰しに行った感じはある」

「潰れてないけどね。だって、上書きされないし。最長は止められたけど」

 反省点はそれほどないが、今にして思えば、奈都が新栄、涼夏が高岳に行った時、涼夏の高岳を取るべきだった。しかし、それは結果論だ。あの時点では涼夏は間違いなくドベだった。

 最長距離が3点の絢音が、コマをいじりながら言った。

「この武器はやっぱり最長が伸びにくい。っていうか、たぶん引き算をもっと使えばいいんだろうけど、一気に動くの面白いし」

「アヤは全然藤が丘が取れなかったせいだと思うよ? その辺は、すごろくの運要素だと思う」

 奈都がフォローする。実際、何度もトライして結局諦めた藤が丘を絢音が取っていたら、勝っていたのは絢音だっただろう。もしくは私だったかもしれない。

 ひとまず1終わった。そして面白かった。

「私の『千紗都のダイスコロコロ』のおかげでこのゲームが生まれたと思うと、鼻が高いよ」

 私が胸を張ると、3人が珍獣でも見るような顔で私を見た。確か私へのリスペクトから生まれたゲームだったはずだが、聞き違いだっただろうか。

 さて、今日はまだまだ始まったばかりだ。振り方をチェンジして、2回戦を始めるとしよう。

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