第44話

 この感情は心酔しんすいだった。

 セイラ以外の女性に、ハートを燃やしてしまった。


 リュカからもらった3通のメモ。

 占いをぴったり的中させるなんて、神技という他ない。


 いやいや。

 リュカは4人目の四ツ姫。

 過去にもらった不埒ふらちな手紙、


『私は犯人を知っている。そいつは四ツ姫の中にいる』


 あれが正しいなら、リュカが実は男で、避妊具を落とした犯人ではないだろうか。


 これも捜査の一環である。

 何が真実か確かめないと。


 自分にそう言い聞かせつつ、占い研究部へやってきた。


「やあ、マナくん、君が訪ねてくれると信じていたよ」


 リュカは本から視線を浮かせた。

 宇宙の神秘について書かれた一冊で、この人が読むと、とてつもなく貴重な本に思えてくる。


「それで? 昨日の占いはどうだった?」

「ぴったり当たっていました。今でも興奮しています。あんなに驚いたのは、生まれて初めて飛行機に乗ったとき以来です。さすが占い研究部の部長さん、と思いました」

「あっはっは! 部員は私1人だけどね!」


 どうしてもリュカに確認しておきたいことがあった。


「なぜ私を部活に勧誘されたのですか? セイラお嬢様の話によれば、下級生は誘わないのでは?」

「ああ、その件ね。ごもっともな質問だね」


 肉食獣のように寄ってきて、マナトの襟首えりくびに触れてきた。


「あっ……」


 つい変な声が出てしまう。


「マナくん、君はとっても美しい。その髪も、その肌も、その目もきれいだ。実に私好みなのだよ」

「いけません、リュカさん」


 逃げたかったけれども、ワイヤーで固定されたみたいに体が動かなくなり、逃げられなかった。


 気圧けおされているのか?

 この女性に?


 聖クローバー女学院へやってきて、初めての敗北感がマナトの体を包む。


「驚くことはないだろう。黒姫のチトセくんだって、女性が好きなのだろう」


 マナトはびっくりした。

 それが顔に出てしまう。


「やっぱりね。図星か。意中の相手というのは、おおかた、セイラくんかな」

「それも占いですか?」

「そうだよ。こっそり占ったことがある。チトセくんが、何かを隠しているような気がしてね。かわいい秘密ってやつさ」

「ッ……⁉︎」


 この人はマズい。

 危険な匂いがする。

 深く関わったらダメ……。


「マナくん、君だって大きな隠し事をしているよね。私の目は誤魔化ごまかせせないよ」


 いけない⁉︎

 正体が男だとバレる⁉︎


 心臓のペースが一気に速くなった。

 嫌な汗がぶわっと吹き出してきて、体の深いところがアラートを上げる。


「安心して。君の秘密を暴いたりはしない。秘密は秘密のまま。それが美しいだろう」


 リュカは人好きのする笑顔をくれたが、マナトの頭はほとんど真っ白だった。


「ちょっと現実的な話をしようか。今年度、私は卒業する。現在2年生のセイラくん、チトセくん、アリアくんより、猶予ゆうよが1年少ない。つまり、早いうちに次の紅姫を指名しないといけない。ここまでは理解してくれるかな?」

「はい、理解しました」

「そして、これは非公式のルールなのだけれども……四ツ姫と後継者は、そういう関係になることが珍しくない。ときどきキスしたり、校舎や寄宿舎でイチャついたり……」


 先代の蒼姫のことを教えてくれた。


「彼女はアリアくんを溺愛できあいしていた。秘密の隠れ家みたいなところで、アリアくんと密会を続けていたらしい。たとえば、アリアくんの唇とか太ももに触ったら、どんな反応を示すのか、とか。そんな話を何回も聞かせてくれた。互いが互いにれていた。……まあ、これは極端な例だけどね」


 リュカに壁ドンされてしまい、胸のドキドキがピークになる。


「僕が君を部活に誘ったのは……この部室を交流の場にしたい。つまり、君を次期紅姫に指名したいってことなんだ」

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