第43話

 カードをシャッフルしながら、リュカは身の上話を聞かせてくれた。


「私の生まれた紅月家というのはね、占い師をたくさん輩出してきた家なんだよ。特に私のおばあちゃん。有名な占い師だから、政治家の先生とか、実業家の偉い方とか、よく紅月の屋敷にやってくるよ。ドラマみたいなお話だろう」

「つまり、一族に特別な血が流れていると?」

「おばあちゃんはそう信じているらしい」


 これから披露してくれるのはタロット占い。

 リュカはカードをめくり、手元のメモ帳に何かを書いて、またカードをめくる。


「マナくんは神通力じんつうりきとか、宇宙のパワーとか、信じる側の人間かい?」

「いえ、どちらも非科学的なものですから。信じるといったら嘘になります」

「そうかい。私のおばあちゃんとは気が合わないね」


 リュカは気を悪くした様子じゃなかった。


「はい、これ。占いの結果。ちょっとした出来事を書いている。この場で目を通してもいいけれども、眠る前に読むことをお勧めするかな」

「それは、私がより驚くから、という理由でしょうか?」

「そういうこと。明日に感想を聞かせてよ」

「わかりました」


 もらった3通のメモを、失くさないようポケットにしまった。


「いつも生徒相手に占いを?」

「いいや、そんなことはしないよ。以前は仲間内でやっていたけれども、いまは私1人しかいないしね」


 そういうリュカの表情はちょっと悲しそう。


「マナくん、興味があるならうちの部に入ってみる?」

「一晩考えてみます。ですが、あまり期待しないでください」

「いやいや、検討してくれるだけでも嬉しいよ」


 バイバイと手を振る。

 そんな仕草すら、リュカがやると映画スターみたいに格好いい。


 そして就寝前。

 お風呂から上がったマナトは、セイラの髪のケアを手伝いながら、今日あった出来事を報告していた。


「お昼休み、紅月リュカさんに会いました」

「まあ、リュカさんに? とても不思議な方でしょう」

「ええ、フランクかつミステリアスという印象を受けました。占い研究部に入らないかと誘われたのですが、返事は保留しておきました。明日、断ってこようと思います」


 セイラが驚いて目を丸くする。


「へぇ〜、部活動に誘われたの?」

「そうですが……何か気になることでも?」

「初耳だわ。リュカさんが下級生を勧誘するなんて。よっぽど、マナのことが気に入ったのかしら」


 まさか、とマナトは苦笑いする。


「リュカさん、男前で格好いいでしょう」

「たしかに……」

「あの性格だから、ファンの女の子は多いわ。占い研究部に入りたい! という希望者がいても絶対に断っているのよ」

「どうしてですか?」

「私も噂でしか知らないのだけれども……」


 占い研究部の設立メンバー。

 リュカをリーダーとする12人の同志だった。


 卒業とともに部活を解体する。

 そんな約束が取り交わされていたらしいが……。


「リュカさんだけ体調を崩されてね。他の11人は卒業してしまったの。つまり、リュカさんだけ残ってしまったの」

「なっ⁉︎」

「リュカさんは留年されているのよ。私も詳しい症状までは知らないけれども、去年のある時期、急にお体の具合が優れなくなってしまい……」


 セイラの髪をかす手が止まっていることに気づき、マナトは慌てて再開させた。


「知りませんでした。そんな過去があったなんて」

「とにかく、謎が多い先輩ね。祖母から占いの手解てほどきを受けた、という話なら、ご本人から直接聞いたことがあります」


 占いの言葉で思い出した。

 昼休み、3通のメモをもらったのだ。


「実は、リュカさんに占ってもらいました。就寝前にチェックしてみろ、と渡されたメモがあります」

「本当に⁉︎ リュカさんが誰かを占うなんて、初めて聞いたわ!」

「これがその紙です」


 まず1通目。

とうのアルカナ……4本脚、落下、枝』と書かれている。


「すごいです! 当たっています!」

「まぁ⁉︎」


 実は乗馬のとき。

 マナトが馬を操っていると、頭上から木の枝が落ちてきて、馬が驚いてしまい、落馬しちゃったのである。


 4本脚とは、馬のこと。

 これは本物の未来予知である。


 そして2通目。

『死神のアルカナ……ネズミ、放課後、眠』


「これも当たっています!」

「どういうこと?」


 アリアと共に生物部へ向かったとき。

 飼育しているハムスターが1匹、亡くなっているのを見つけたのである。


 部員いわく、以前から弱っていた子らしい。

 老化で永眠したのではないかと。


 最後の3通目。

隠者いんじゃのアルカナ……赤き魚、骨、出血』


「なんと! こっちも的中です!」

「信じられないわ!」


 夕食のとき。

 マナトがシャケの塩焼きを食べていたら、骨に気づかず、口内をチクッとやってしまった。

 出血して、痛かった記憶がある。

 というか現在も痛い。


「でも、死とか、血とか、どれも不吉な占いだわ。もっと愉快なことを占えなかったのかしら」


 セイラがボヤく。


「まあまあ、不幸を阻止するのも、占い師の役目ですから。仕方ありません」


 リュカの占いパワーはインチキじゃないらしい。

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