第42話

 シスター・ユリアに相談したのは正解だった。

 心に立ち込めていた暗雲がスッと晴れたような気がした。


 そうだ。

 シスター・ユリアの言葉は正論。

 いつかマナトも結婚して家庭を持つはず。


 愛さないと。

 伴侶はんりょになってくれる女性を。


 それにセイラに依存しているのはマナトの方。


 セイラお嬢様! セイラお嬢様!

 ヒヨコみたいに背中を追いかけて、従者であることに居心地のよさを感じている。


 変わるのだ。

 セイラのためではなく。

 自分のために、将来のために。


「ありがとうございます、シスター・ユリア。進むべき道が少し見えたような気がします」

「それはよかった」


 シスター・ユリアがにっこりと笑う。


「相談にのってあげた代わりじゃないけれども、頼み事を引き受けてくれないかしら?」

「はい、何なりとお申し付けください」

「とっても簡単なおつかいよ」


 一通の封筒を渡される。


「これを、とある人物に渡してほしいの。その人物がいる場所はこの紙に書いておいたわ」

「この程度ならば、お安いご用です」

「本当なら私が直接渡すべきなのだけれども……この後、シスター同士の打ち合わせがあったのを失念していてね」


 お茶目にウィンクしてからシスター・ユリアは去っていく。


「任せたわよ、マナさん」


 マナトはぺこりと頭を下げておいた。


 封筒と一緒に渡されたのは、校内マップだった。

 1箇所に赤丸がついており、そこが配達先だと思われる。


 よしっ!

 昼休みが終わっちゃう前に片付けてしまおう!


「え〜と……ここかな……」


 到着したのは空き教室みたいなところ。

 机と椅子が壁際に寄せられており、天井の電気が消えている。


 ドアに手をかけてみた。

 動かない、つまり留守か。


 どうしよう……。

 もう少し待ってみて、誰も来なかったら、放課後に出直してみるか。


「やあ、ハニー。私の部室に何か用かな?」


 甘い声がして、後ろから肩を叩かれた。


 ここの女生徒だった。

 男であるマナトよりも、ちょっとだけ背が高い。


 特徴なのは、なんといっても、赤茶けたセミロングの髪の毛。

 校則で染髪NGだから、生まれつき色素の薄い人なのだろう。


 なんというか、ライオンみたいな人。

 目がギラギラしており、顔の輪郭りんかくもシュッとしているから、売れっ子の男性アイドルみたい。

 美女というよりイケメンに近いオーラが出ている。


「ここは、あなたの部室なのでしょうか?」

「そうだよ。んん……君は2年生かな? 私が知らない顔だね。ああ、もしかして……」


 ポンと手を鳴らす。


「噂の転入生かな。セイラくんのお供とかいう」

「そうです。海馬マナと申します。そういうあなたは……」

「えっ? 私のことを知らずに訪ねてきたの?」

「シスター・ユリアのお遣いですから」


 もらったマップを見せてあげた。


「そうか、そうか、じゃあ、私のことも知らないんだ?」

「ええ、存じ上げておりません。が、ここまでの流れで、何となく理解できました」


 最後の四ツ姫。

 セイラたちと並び立つ存在。


「そうさ、私が紅姫あかひめ紅月こうづきリュカだよ」

「四ツ姫と知らず失礼しました」

「いいって、いいって。そういう上下関係、私はあまり得意じゃないんだ」


 中に入りなよ。

 立ち話もなんだし。

 そういって部室を開けてくれた。


「忘れないうちに、これを渡しておきます。シスター・ユリアからの預かり物です」

「なんだろう……おっ、やった。部活を存続してもいい、という通達だ」

「失礼ですが、ここは何部なのでしょうか? 少しも見当がつきません」

「う〜ん、何部だと思う?」


 思いつく部活動をあげていった。

 残念ながら、正答にはほど遠かった。


「ここはね、占い研究部。またの名を、ゾディアック・リユニオンという」

「はぁ……占い……ですか」

「ん? 占いを信じていないの?」

「いえ、そういうわけでは」

「本当かなぁ」


 リュカは腰に手を当てて、勘繰かんぐるような視線を向けてくる。

 肉食獣みたいで、ちょっと怖い。


「まあ、いいや。だったら、マナくん。君のことを占ってあげよう。特別に初回無料というやつさ。何がいい? 恋かな? お金かな? 勉強かな? それとも、家族の健康?」


 リュカは制服の内ポケットからカードを取り出して、手品師マジシャンみたいにパラパラした。

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