第十七話 目指せ!ショージョマンガ
授業に遅れたため、四人そろって課題を出されてしまった。
(皇国史か。面倒くさいなぁ)
リートは溜め息を吐いた。この国の人間ならば知っていて当然という歴史は覚えたが、詳しい年代や物事、関わった人物などは調べないといけない。いっそのことバーダルベルトにお願いしてしまおうか。
そんなズルを企んでいたリートは、先程からジェラルドが話しかけたそうにちらちら様子を窺っていることに気付いていなかった。アレスとオスカーに背中を押されながらも怖気づいていたジェラルドだったが、リートが帰宅しようと鞄を持ち上げたところでようやく声を掛けてきた。
「リート」
「あ、ジェラルド様。まだお帰りになられないんですか?」
「あ、ああ。その、よ、よ、よ」
「よ?」
ジェラルドは「よ」を繰り返した挙句、情けない表情でアレスとオスカーを振り向いた。
『やっぱ無理』『がんばれ』『俺達がついてる』そんな心の会話を交わして、ジェラルドは深く息を吸い込んだ。
「よ、よよよ、良かったら、一緒に課題をしないか?」
「え?」
「い、嫌だったらいいんだ!」
「是非!」
リートは内心でぐっと拳を握った。
そうだ。こういうチャンスを生かさないでどうする。
「じゃ、じゃあ、えっと食堂で」
四人は食堂に移動すると、空いているテーブルに教科書を載せた。他にも勉強をしている生徒がちらほらといる。中にはカップルらしき男女の姿もあって、いちゃいちゃと身を寄せ合っていた。
その光景を見て、リートはハッと気付いた。
(これは、ライリンちゃんが読んでいた「ショージョマンガ」なるもので見たことのあるシチュエーション!)
一緒に勉強をする男女が、うっかり手が触れてしまってドキン……!てなるやつだ。と、リートはうろ覚えな内容を思い出して頷いた。この機会を生かさない手はない。
(よし!完璧に「偶然に手が触れて」ジェラルドをドキン……ってさせてやる!)
リートは俄然やる気になった。
「じゃあ、始めよう。皇国史はアレスが得意だ。わからないことがあったら聞くといい」
ジェラルドがそう言いながら椅子に座る。
(へえ。意外。脳筋っぽく見えるのに)
そんな風に思いながら、リートは自然にジェラルドの隣に座った。
「ちょっとタンマ」
途端に、ジェラルドが席を立って胸を押さえて崩折れた。
「申し訳ないが、間にせめて一人、アレスかオスカーを挟んでくれないか。キミの隣だと息も出来ない」
「そんな!」
リートは心外だと声を上げた。息ぐらいはしてほしい。
(手が触れてドキン……!をするためには、隣に座ってもらわなければ)
「な、何もしないので、隣に座ってください!誓って何もしないので!」
「ちょっと待て。なんか企んでないか?」
勢い込んでジェラルドを説得しようとするリートに、オスカーが不審の目を向けてくる。
「人聞きの悪いことを言わないでください!やましいことなんてありません!」
リートはそう答えるが、その雰囲気は明らかにギラギラしている。おまけに、手つきも怪しい。
「言っておくが、今日のジェラルドは既にいっぱいいっぱいだ。これ以上の刺激を与えると爆発するぞ」
「そんなぁ……」
リートは肩を落とした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます