掌編小説・『平和の天使』
夢美瑠瑠
掌編小説・『平和の天使』
掌編小説・『平和』
世界的な国際空港であるN---空港。
その最も乗客や乗務員その他でごった返す一角に、いつもたたずんでいる少女がいた。
いつ頃からかそこにいて、もう誰もが見慣れた、ありふれた光景になっていた。
少女は朝9時から夕方の5時まで立っていた。天使のようなかわいい少女で…そうして本当に天使の扮装をしていた。
ローブのような白い光沢のある布地の衣装をまとい、純白の大きな、きらきら光る翼をつけていた。
「天使の輪っか」もちゃんとクリスタルっぽく虹色に輝きながら頭上に鎮座していた。
見る人を魅了せずにおかないこのまばゆい「エンジェル」は、ブロンズ色の募金箱を抱えていた。
箱には「平和のために」と、飾り文字が刻印されている。
「では、『平和の使者』という洒落のコスプレか?」まあそんなところだ。
「募金お願いしまーす」と、声をかけられると、にこにこ微笑んでいる本物かと見まごうばかりに愛らしい”天使少女”の神々しいオーラに、誰もが思わず募金をしてしまう。
そうして、募金の代償として、「背中の羽を一枚千切ってください」と、不思議な、金の鈴のような声で言われるのだ。
ピッと羽を取られると「 うっ」と、天使は微かに眉をひそめる。
しかし、すぐ笑顔になり、「ありがとう」と手を握ってくれる…
天鵞絨(ビロード)のような美しい羽根。宝石のように美しいその羽を捨てる人はいなかった。
世界中に散らばっていく「天使の羽」の放つ愛と平和のオーラ。
その霊験はあらたかで、世界はだんだんに平和になっていった。
… 「どうしてもその男と結婚したいのですね」女神は言った。
「彼は天国の門付近で、邪悪な黒蛇に絡みつかれて身動きが取れなくなっていた私を命懸けで助けてくれたのです。彼は自殺して、でも善良な人間だったので天国へ召され、向かう途中でした。ゼウスに『本当に天国に行きたいのか?』と、最後の審問をされていたところでした。そうして私たちは恋に落ち…彼も自殺を思いとどまって蘇生したのです。」
「天使と人間の結婚は許されません。ですが、貴女が人間になれれば話は別。自分の翼と引き換えに世界を平和にできれば人間になれることでしょう…」
そう、天使は紛れもない本物だったのだ!そうして天使が最後の羽の一枚を醜い
「天使降臨」で、完全に平和になった素晴らしい世界で、醜い痘痕だらけの男、すなわち”おれ”と天使だった少女・”翼”は新しい所帯を持った。
救世主だとか崇められていい気分になることもあるが、やはり生活は大変だ。集めた募金は?と言うだろうが、あれはユニセフに寄付してしまった。
「降臨した天使」も主婦としてはまだまだ見習いだから一人前になるまでどっさり苦労をすることだろう。
でも二人の愛さえあればきっと何とかなることと思う…
「アナタ、私幸福よ💛」
「おれもさ」
<了>
掌編小説・『平和の天使』 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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