第21話

巡査の彼の話に戻ろう。         毎朝の犬の散歩をしている時に、何個かバス停の前を通る。その中で、警察署近くのバス停からは毎日警察官が降りるから、その時間帯に寄っては数多いし、そうでない時もある。                  それでこの日、丁度バス停の箇所を通ろうとしたらバスが来て止まった。ドアが開いて何人が降りて来た。この時は数人だった。  私は何気なく見た。二人の男が先に降りた。一人は若い男で、その次は爺さんだった。 どちらも警察官だな。服装が地味なスーツだ。どちらもグレーだった気がした。そしてその最後に降りて来る男がいた。     彼も、年だった。あぁ、もう一人、年配がいるな。何となくそう思って顔を見た。   見た瞬間は、分からなかった。だが、何となくこの人は服装が前の二人と違った。だが彼も警察官だろうな?そう思いながら何気なく顔を見た。               あれ?何となく見覚えがある様な?そんな気がしてもう一度顔をジッと見た。     アッ?!この顔は??あの人だ!!私がジッと顔を見つめているのに気付いた彼が私を 見た。                 私はそこに立ち止まっていたのだ。ハッキリと確認がしたくて。だから何だろう?、という顔をして最初は私を見た。       だが直ぐに、彼もハッとした。私の事が分かったのだ!すると、とても驚いた顔をした。その次には懐かしそうな、そして凄く嬉しそうな顔をした。そして私の顔をジッとそのまま見つめていた。            彼も、バスから降りたその位置に立っていて、直ぐには歩かなかった。       私は期待感が募った。私を覚えている?!そして、嫌そうじゃない!!喜んでいる顔だ。だが完全には笑顔を見せない。だって何しろ何十年も経つているんだから。だから一応は、表情をカバーしている。       私達は互いに見つめ合った。私は彼から声をかけてもらう為に。そして、彼もそうだったのだ。                 だが私は、男の彼に話しかけてほしかった。彼は私よりも年上だし。何故なら、自分からはできなかった。この長い長い年月がそうさせたのだと思う。            だから話しかけられるのを期待しながら待ち、彼の顔に訴えかけた。だが彼もそうだったのだ。やはり私と同じ様な顔をしていたから。                  だが言葉を発しない私に、彼はいつまでも そこに立っている訳にはいかなかった。仕事へ行かなければならないのだから。    それで彼は諦めた様に、パッと横を向くと そのまま警察署の方向へ、そのまま真っ直ぐに歩いて行ってしまった。私は後ろに取り残された。                ガーン!!ショックだった。せっかく四十年ぶりに会ったのに。           だが、彼は又あの同じ警察署にいるのだ。 今のこの出来事時はもう一年前だ。だからまだいるだろうか?? 恐らくは、まだいると思う。                 そういえば彼の服装は、皆の様なスーツ姿ではなかった。上は茶色い上着で、下のズボンは同じ色のセットではなかった。下はもっと薄い茶色だった。そして中のワイシャツも、真っ白くなかった気がする。薄いクリーム色だったと思うし、その上にはベストを着ていた。                  これは何色かの格子柄で、淡い黄色やブルーだとか、確か3色のだ。そして靴は、他の 警察官の様に黒ではなかった。茶色の、革の紐靴だった。              全体的に茶でまとめて後は黄色系で、上品な感じだった。              彼は恐らく茶や黄色が好きなのかもしれない?あの遊園地へ現れた時も、黄色いシャツに茶色のズボンだった。         そして今では白髪の、上品な紳士風になっていた。                 私は彼が前を歩いて行く姿を後ろから犬を 連れて歩いた。声をかけようかと数回思ったが、朝の通勤時だし、結局はあんな風に  行ってしまったので、何か恐くてできなかった。                  本当は彼が私に反応した時に、すかさず何か言えば良かったのだ。「おはよう。」、 「久しぶり?」、だとか何でも良いから。 だが、彼はまだあそこにいるのだと思う。 彼はあの後、どうしたのだろう? 

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