第14話
あの遊園地の一件があってから何日かが経った。1週間位か、もう少し後かは余り良く覚えていない。だが、彼は又現れた。制服姿だった。 それは、私が高校から戻って来た時にうちの前にいた気がする。だから私も、制服姿だったと思うが、とにかく彼はそこにいた。 今度は又窓にコツンコツンと小石を投げつけるのではなかった。私が出なければおしまいだからだ。 私は正直、もうあれで終わりなのだと思って諦めていた。私は彼の自宅の住所や電話番号を知らなかった。まだ聞いていなかったからだ。 彼は普段は警察の寮にいたのだろうが、それが何処にあるのかも知らなかった。だから、私から連絡は取れなかった。 警察署ヘ電話をかければ何とかなったかもしれないが、そんな事は丸で考えなかった。 だから彼が私に会いに来た時には、正直凄く驚いた!! 彼は私に話しかけた。だが私は彼に怒っていた。好きだけれど、怒っていた。 遊園地の外であんな事をして!!しかもその後にはあんな原っぱであんな風に追いかけ回して!! もし彼の同僚達が偶然通って私達を見なかったら、どんな事が起きていたのだろう?!そうした気持もあった。 だから私は呼ばれても無視した。だが彼は何度も呼んで、近くに来る様に言った。 しつこいし、私が迷っていると、彼はどうしても話がしたいと言った。何故なら、今日話さないと、もう話せなくなるからと。 私は驚いて顔を見入ると、もう一度彼はそれを繰り返した。 私の気持は焦って、吸い寄せられる様に彼の側に近付いた。 そして私達は話した。 彼は移動になる事になったのだ!!一週間後だとか言った気がする。そんなに遠くではなかったが、だがもう簡単に私の家に、勤務の合間に来られる場所では無かった。 だから今日が、そうした事ができる最後の日だと彼は言った。 私はショックだった。嫌だった!! そして彼は、あの日の事を謝った。遊園地での事、原っぱでの事を。 私は凄く恐かったと言った。遊園地にも、中に入れなかったし、原っぱで追いかけ廻された時には特に恐かったと。 彼は凄く反省していて、又謝った。 だから私は許した。そして、私も彼に謝った。上着の事を馬鹿にしたり、原っぱで言った事も本心ではなくて、ああした事をされたから頭に来たし悔しいしで、わざとあんなに酷い事を言ったのだと。 彼もその事は理解した。そしてかまわないと言った。彼も許してくれた。 彼はあのグレーの上着に付いて言った。あれは、ブランド物なんだよと。 あの上着は実は、海外のメーカーで割と有名な名前のブランド物だったのだ。そして私はそれを知らなかった! 地味でダサいと思っていたが、まだ高校生の私だし、当時は今程には沢山の海外のブランド物が、日本に当たり前の様に売られてはいなかったと思う。 どこのブランドかは忘れてしまったが、彼は私にそれを知っているかと聞いた。私は、知らないと答えた。 そして、なのにあんな事を言ってごめんなさい、と又謝った。でも、皆がよく着ているダボついた、腕も太めの袖の、もう少し明るい色のブルゾンを着て来るかと思ったし、それが凄く似合うと思ったし似合う筈だから、と何度も言った事は覚えている。 彼は苦笑いしていた。 だから、実は彼は本当は別にダサくもなければ、センスがあったし、お洒落だったのだ!彼は私に、もう一度遊園地へ行こうと誘った。時間も曜日も私に伝えた。その日に又、入口で待っているからと。 私はそれを言われた時に、余り嬉しくなかった。嬉しい筈が、何か不安だった。そして聞きたい気持が凄くした。だけど彼が私に言った。 「良い?じゃあ、土曜日の11時ね?待ってるから。」 「…うん。分かった。」 私は承諾した。 だが、言葉が何度も出かかった。 「ねー、もし天気が悪かったらどうする? もし雨、降ったら?」 だが彼が言った。 「じゃあもうそろそろ行かないと。じゃあ、土曜日ね?!」 そう言って歩き出してから、後ろを一度振り向いて微笑むと、行ってしまった。 私は後ろ姿を見送りながら、嫌な予感を感じていた…。
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