第6話
私は巡査と遊園地前で待ち合わせる事と なる。時間は確か11時だった気がした。 そうだ!ヒロシの件で、母が警察署に電話をかけて、嘘をついて私の署名した被害届を 取り消してしまった事については彼に話した。私の意思ではなく、母がヒロシの両親にせっつかれて勝手にやった事だと。 巡査は分かっていると言った。私がそんな事を親に頼まないのが。 彼もそれに付いてはがっかりしていたが、もう仕方が無いと言った。 一度取消せばそれをもう一度ぶり返して訴える事はできないと、あの刑事のオジサンも後から私に言っていたからだ。私と又会い、その時に私はもう一度、今度こそあんな邪魔をされずに届け出を出すと言った時に、そう言って残念そうだったから…。 遊園地の話に戻ろう。私は10分位前に入り口に着いた。彼はまだ来ていなかった。 少し待つと彼は来た。私は彼を見た。 彼は私を見ると嬉しそうに、一寸はにかみながら近寄って来た。 「待った?」 「ううん。」 私は真顔で言った。 彼が私を不思議そうに見た。 私は彼の私服は初めて見た。そして私は一瞬驚くと言うか、嫌悪感を覚えてしまったのだ。 彼の服装は確かこんな感じだった。茶色い ズボンに黄色い開襟シャツ、白いスニーカーを履いて、上がグレーのジャンパーだった。眼鏡は、仕事の時とは違い、銀色のフレームだ。 私はその上着を見た途端に、何か凄く嫌だと思ってしまったのだ。 地味な灰色の、体にフィットしたその上着は、もっと年上の男が着てもおかしくなかったし、又、何となく作業着の様にも見えた。工務店だとかで、よく制服の上着を着ているが、そんな風にも見えた。 彼はインテリ風で大人しい感じのタイプだったから、下のシャツが幾ら黄色くても、何か地味でつまらない感じにも見えた。 遊園地に遊びに行くと言うよりも、その中で働いているメンテナンスか何かのスタッフの様だった。 当時は、男は皆が割とブルゾンを着ていた。そして若い男だと、赤や青等の原色だとか、派手な色を着ていた。それがとても若々しくて良かった。 なのにこの巡査は、それとは似ても似つかない上着を着て来た。なんでそんなおじさんみたいな格好をしてるの?周りは皆もっと若々しい格好をしているのに?! 私は別にお洒落なほうではないが、その時はそう思って凄く腹が立った!! きっと生まれて初めてのデートだったので、それを完璧に、自分の気に入った様にしたかったのだろう…。 だが最初は我慢していた。 彼は私の手を取ると、「行こう!」、と言ってチケット売り場に引っ張って行った。 私は歩きながら、ムカムカするのを必死で我慢していた。だが、もう限界になった。 だからいきなり彼の手を振り解いた。彼は 驚いて私の顔を見る。私はまくし立てた。 「ねー、一寸何その格好?!何でそんな変な上着、着てくるの?!」 彼は驚いている。 「もう馬鹿じゃないの?!そんなダサい、変なグレーの上着なんか着て来て!!誰もそんな地味なダサい上着なんて、着てないじゃん?!」 彼の顔が見る見るうちに怒り顔になった。 だが何も言わない。 「もう良いよ〜!早く入ろう?!今度から気を付けてね?」 そう言いながら私はどんどん先に歩いて行った。彼が着いてくると信じて。 まだ18歳の私は、そんな事を言っても、自分が正しいのだからと、彼も少し反省して着いて来ると思っていた。 だが彼はいきなり私に追いつくと、無言で私の腕を掴み、元来た方へと引っ張って行く。「一寸、何するの?!」 返事が無い。 「嫌だ、何してるの〜?!」 私は抵抗したが彼は無言で、どんどん私を 遊園地の入り口やチケット売り場から引き離す。 「止めてよ〜?!」 そうして必死で、私は何とか力づくで腕を振り払うと、急いで周りの人間達の間を縫う様に走りながら、彼から逃げた。 彼は私を追って捕まえようとしたが、この日は確か祭日か何かで賑わっていたから、彼は私を捕まえられなかった。 私はしばらく走ってから立ち止まった。 彼は私が上着の事で文句を言ったので、激怒して私と遊園地に行くのを止めたのだ。そして連れ帰ろうとしたのだ。 私は又頭に来た。何もそこまでしなくても良いではないか?それならもう一人で行こう。仕方無い。一人じゃあつまらないけど、乗り物には乗りたい。なら、好きな乗り物に乗ってそれなりに楽しんでから、一人で帰ろう!このまま何もしないで帰るなんて、せっかく来たんだから! 私はそう思って又遊園地の方へと急いで歩いた。 すると彼がいるのが見える。帰ったのかと思ったけど、まだいたんだ?! 入り口の所に立っている。私が戻って来るのを待ってたんだな!じゃあやっぱり入るんだ?良かったー!! 私は側へ近づいて行くと、彼が私に気付いた。だが私を見ると、凄い形相になる!! あれ、違うんだ?!あれは遊園地に入ろうとして待ってるんじゃない。まだ怒っている。まだ私を連れ戻す気だ!! 私はある程度近づいていたから焦って急いで方向転換すると又走って逃げた。 当時はかなり痩せていたし、凄く身軽だからすばしっこかった。 だが、距離が近すぎたし彼も必死で追って来る。そして仮にも警察官だ! ついに彼は私に飛び付いた!!そして、ドラマで不良高校生を捕まえる警察官の様に、私をしっかりと両腕で捕まえて引っ張って行く!! 私は嫌だから泣きわめいていた。 「嫌だ、止めてよ〜?!遊園地、行くの〜!!離してよ〜?!!」 周りの大勢の人間が、皆驚いて見ていた。 この異様な光景を。一体何をしてるんだ?!、何でそんな事をしてるんだろう?!、といった顔をしながら。 そうして彼は、嫌がり抵抗する私を引きずって、駐車場にある一台の車に近づくと、ドアを開けて私を無理矢理に助手席に押し入れた。 私は驚いていた。車があったのか?だって、遊園の前での待ち合わせだったのに。だからてっきり彼もバスや電車で来たのかと思っていたのに。 彼が乗る前に私が何故降りられなかったのかは、驚いて只もうそのままの状態だったのか何だかよく覚えていないが、彼も直ぐに車に飛び乗ると、発車させた。 そして私を乗せて、車はどんどんと遊園地から離れて行く。 私は悲しみ、焦り、恐怖と、そうした気持が入り混じりながら、彼の横顔を見た。彼はきつい顔をしながら、真っ直ぐに前を見て運転していた…。
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