第3話

私は赤いハンカチをしっかりと両方の目に交互に当てて、涙を押さえた。ハンカチがあったから、本当に助かった。        そうして一通り泣き終えると、私はやっと落ち着いた。この間、刑事と巡査は私を同情的に見ていた。              最初は巡査が泣く私に驚いてから、直ぐに同情した目で見つめてからハンカチを貸してくれた。                 刑事のほうは壁に寄りかかって私を観察していた。だが途中から、私が本当に泣いているのが分かると、やはり同情した顔をして見ていた。どうやら最初は嘘泣きだと思ったらしい。                  それで、やっと落ち着いた私に巡査が優しく説得した。書面に署名をする様にと。それでも私は恐くて決心が着かなかった。    だが彼は物凄く優しく、忍耐強く説得してくれた。猫なで声を出して、私の目の前に来てしゃがむと、いつまでもずっとだ。    何の為に私が此処に一緒に来たのか、母の大切にしていた物を何度も何度も当たり前に持って行かれて、そんな盗みをされて、どんなに母が悲しくて悔しいか!私だって自分の家の物や母の持ち物をそんな事をされて悔しいだろうと。               私がしようとしている事は悪い事ではない、従兄弟が悪い事をしたのだから、従兄弟だからと許さなくても構わない。何故なら泥棒をした従兄弟がうんと悪いのだから。従兄弟は悪いだなんて思っていない、もしそうならそんな事はしないし、ましてやそんなに何度も何度もしないからと。(ちなみにヒロシはこの時20歳で、もう成人だ!)       だから従兄弟には罪を償わさせなければいけないと。それはな当たり前な事だし、だから母も最初は警察を呼んだのだからと。   そうした事柄を丁寧に、優しく根気強く私に説いた。                ついに私は言った。           「本当?」               彼は私がついに反応した事に、嬉しそうに答えた。                 「うん、そうだよ!本当だよ。」     そして私には恐さが無くなり、自信がついた。                  「分かった!じゃあ、やる。私、署名するから!!」                巡査は非常に喜んだ。          彼は私に話しかける時に、ずっと私の下の名前にちゃん付けをして呼んでいた。刑事のほうもそうだった。            巡査は書類の、私が署名をする箇所2箇所を指し示す為に立ち上がろうとした。その時に私は思い切って切り出した。      「あ、あの…名前なんて言うの?」    巡査は驚いたが、直ぐに顔がパッと明るくなり、嬉しそうに返事をしようとした。   だが、刑事が大きな、物凄く大きな咳払いをして阻止した。             私達は驚いた!!だが、私はこの巡査の余りの優しい態度や優しい目付きに、すっかり彼を気に入ってしまった。         高校生だからボーイフレンドが欲しくてたまらない年頃だ。だが学校は校則が めちゃくちゃ厳しい女子校だし、しかも徒歩で通っていた。だから私には彼氏がいないし、絶対にできる環境では無かった。        現に私は、高校の3年間で、高校生の男子と口をきいた事が一度もないし、中学、高校と学生時代に彼氏がいた事も無い。     大学はアメリカの大学を中退したが、考えたらやはりいない。流石に誰かしらと付き合わないと嫌だしまずいと思い、寄って来た人間と付き合った事もあったが、別に好きでは無かった。                とにかく、だから私はこの巡査となんとしてでもデートがしたいし、ボーイフレンドに なってほしかったのだ。そして当時大望していた、遊園地デートがしたかったのだ!  だから私は刑事に聞こえない様にと、勇気を振り絞って、小声で聞いた。       「あの、遊園地行くの、駄目?」     巡査が私を不思議そうに見つめた。だから付け加えた。               「一緒に。」               巡査が私の顔をジッと見つめる。     私はドキドキしながら返事を待った。刑事がこちらを見つめるのを感じる。      早く返事しないかな?!そんな風に思いながら待っていたが、いきなりハッとして気付いた。いや、気付くと言うよりも思った。どうしよう⁉、とんでもない事を口走ったと。 何故なら私はハーフなので、当時はまだやっとハーフと言う言葉が段々と使われたり定着しだした頃だし、今の様に外国人が普通に いたりして余り人が見ないなんていう時代ではなかったからだ。           皆、ジロジロと見たり、変にチヤホヤしたり、虐めたりや偏見だとかが凄かった。だから嫌う人間も多く、差別されるのも極普通にあった。                だから私は、目の前では優しくしてくれていても、それは仕事だからで、本当はやはり嫌なのかと思ったのだ。          それで自分のした事に凄く恥ずかしさと嫌悪感を感じて、顔をそむけながら謝った。  「ごめんなさい…。」           すると巡査がついに口を開いた。     「良いよ、行くよ。」           私は驚いて顔を見た。すると彼も私の顔を じっと見ている。優しい目付きをして。  それで分かったのだ!彼は私の言った言葉を吟味していたのだ。本気で言っているのかどうかを。                やはり警察官だから疑り深いのか、それとも、別にイケメンではない自分にそんな事を言うから疑っていたのか…?       彼はタイプ的には私が普段好む、野生的な イケメンではなかった。どちらかと言うと、真面目な優等生タイプだった。賢そうな顔で、眼鏡をかけていて。そう、杉下右京みたいな感じで。只あれよりももっとうんと若くて、制服姿だった。           だからこうした事が、恋なのかもしれない?!私は承諾された事に歓喜して顔がほころんでいた筈だ…。           そして刑事のほうを見た。この刑事も良い 人だったから、刑事と呼ぶのを止めよう。 この人は確か名前は、何て言ったかな?4文字で、山とか長とか峰だとかの字が苗字に入っていた気がする。下の名前は、最初の字は正が着いた筈だ。            後から私にくれようとしたけれど、悩んで 受け取らなかった時に見た名刺に、そうあった気がする。取りあえず、じゃあ刑事さんと呼ぼう。(My Scum Relativesの中では、 オジサンと呼んでいるが。)         私の?!巡査の苗字は、上の2文字はハッキリと分かるのだが、下の2文字は覚えていない。だが響きから言って、恐らくはそうだろうと思う物はある。下の名前は、聞いたのだが覚えていない。だが、I区出身だと言うのは覚えている。             そして彼は立ち上がり、その書類の、私の署名する箇所を私に示した。私はスラスラっとそこにサインを得意そうにした。     すると書類をめくってもう一箇所も指差した。私はまたもや嬉しそうにサインした!この作業を私達は楽しそうに共同でやった。 出来上がると、巡査は嬉しそうにそれを刑事さんに持って行き、刑事さんもとても喜んだ。                  そして私の役割は終わり、私は帰宅する事になる。巡査が私を下に連れて行くと言って その部屋から連れ出そうとすると、刑事さんは自分がすると言った。彼はもう一度繰り返した。だが刑事さんは、自分がするからいいと言って、私達は焦った。        結局私は刑事さんに促されて一緒に警察署を出る事になったのだが…。

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