殺人室
吉岡 英夫(よしおか ひでお:仮名)さんという60代の男性から聞いた話。
吉岡さんが管理人を務めるマンションでは、これまでに殺人事件が3件発生している。しかも全て同じ部屋で起きたのである。
----------
吉岡さんのマンションは某県内にある。その305号室が件の部屋。2LDKで、2人暮らしやファミリー向けの部屋だ。
最初の事件はおよそ4年前に起きた。当時305号室には、老夫婦とその息子Aさんが暮らしていた。夫婦、特に父親の方は認知症もあり手厚い介護が必要で、Aさん一人で対応していた様子。
吉岡さんもAさんとはマンション内で顔を合わせることが度々あった。最初は気さくに挨拶してくれていたAさんだったが、日に日にやつれていき、マンションの住人を避けるようになったそう。
そんな折、事件が起きた。Aさんが父親の腹部を包丁で刺し、自身は割腹自殺を図ったのだ。寝室で血を流して倒れている2人を発見した母親が救急車を呼んだものの、父親は救急隊が駆けつける前に死亡。Aさんは病院で一命をとりとめたが、殺人罪で懲役17年が課せられた。
----------
2件目は2年ほど前に起きた。最初の事件が起きて以来、全く借り手がつかなかった305号室だったが、家賃を大幅に値下げしたところ会社員の男性Bさんの入居が決まった。
吉岡さんはBさんに事件があったことを隠さず伝え、その上で住むことを決めてくれた。
吉岡さんは事件後に知ったのだが、Bさんは別の男性と同棲していた。2人は日々ケンカが絶えなかった様子。
ある日、口論がヒートアップしてしまい、同棲相手がBさんに包丁を突きつける事態に発展。命の危険を感じたBさんは、口論が少し落ち着いた隙をうかがい、同棲相手の首をベルトで締めた。昏睡した同棲相手はBさんが呼んだ救急車で病院に運ばれたが、死亡した。
----------
3件目が起きたのは半年ほど前。当時、会社員の男性Cさんが入居し、交際中の女性と同棲していた。
前2件に比べると問題ない生活を送っていたようで、事件に発展しそうな火種はなかった。しかし、Cさんは遺体で発見されることになった。場所は305号室の目の前。
会社から帰宅したCさんを同僚の女性が待ち伏せし、左胸部を包丁で突き刺した。刃は背中まで貫通していたという。
Cさんは職場で複数の女性と肉体関係を持っており、犯人の同僚女性もその一人だったそうだ。
家の前で男女が揉めているような声がするのに気づいた同じ階の住人が、血まみれで廊下に倒れているCさんを発見。救急車で病院に運ばれたが、死亡した。
----------
1件目の事件が発生する前まで305号室で問題が起きたことはなく、ごく普通の部屋だったそうだ。元から何らかの「いわく」があったとか、事故物件だったとか、そんなことも一切なかったという。
吉岡さんは語る。
「『呪い』で片付けられるならまだいい。でも事件に一貫性はないし、元から変なことが起きていた部屋でもないから、なおさら不気味に感じる。偶然と言うしかないだろう。世の中にはそれだけ、他人の命を奪おうとする人間が多いということかもしれない。今305号室は空室で、希望者がいれば入居できる。オススメはしないが。」
※ご本人や関係者に配慮し、内容を一部変更しています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます