開けてよ
椎名 真由(しいな まゆ:仮名)さんという20代前半の女性が体験した話。
この体験をしてから、異性に対して強い恐怖心を抱くようになってしまったという。
ーーーーーーーーーー
仕事が終わり、帰宅途中だった椎名さん。最寄駅で電車を降り、スマホにつないだイヤホンでお気に入りの音楽を聴きながら夜道を歩いていた。
道中、自転車に乗った男に話しかけられた。マスクをしていて顔ははっきり見えなかったが、声の感じからして椎名さんと同い年くらいの若い男だった。
『あの〜パッと見、すごいタイプだったんで。これから時間ないですか?』
男が話しかけてきた。ただのナンパだとわかった椎名さんは、音楽で聞こえないふりをした。
『あれ?聞こえてない系?それとも無理ってこと?ねぇ?LINEだけ交換しない?連絡はしないからさ』
椎名さんは男性から視線を逸らし、まっすぐ前を見て歩き続けた。
ーーーーーーーーーー
家まであと2〜3分ほど。変な男に絡まれたが、もうすぐ家でゆっくり休める。映画でも見ながら過ごそうかな、などと思っていた時だった。
チャラチャラチャラチャラチャラチャラチャラチャラチャラチャラ…
軽い金属同士が擦れ合うような音が背後から聞こえてくる。振り向くと、闇の中に1点の光が見えた。さっきの男が背後から自転車でゆっくり近づいてきているのである。
不気味に感じた椎名さん。恐らく自分を追ってきたのだろう。逃げた方が良さそうだが、相手は自転車に乗っている。家まで走ったとしても追いつかれてしまう。
戸惑った椎名さんだったが、すぐ近くによく利用しているコインランドリーがあることを思い出した。そこなら走って十数秒でたどり着ける。
コインランドリーに運良く人がいれば、男も追いかけるのをやめるだろう。いなければドアに鍵をかけ、中から警察に通報すればいい。
椎名さんはコインランドリーに向かって走り出した。背後でチャラチャラと聞こえていた音は、ガチャッという音を最後に静かになった。
男が消えたわけではない。自転車のペダルを漕いで加速したから金属音が小さくなったのだ。
男に追いつかれるより早くコインランドリーに入った椎名さん。ガラス製のドアの鍵を閉め、奥の方へ避難し、スマホを手にした。
男がコインランドリーの前で止まったのが見えた。自転車を地面に倒し、ドアに近づいてくる。
『ねぇ開けてよ!ねぇってば!開けてよ!ちょっと声かけただけじゃん!ねぇ!ねぇ!開けてよ!大丈夫だって何もしないから!連絡先聞いたら帰るからさぁ!開けてよ!おい!開けろコラ!なぁ!おい!開けろっつってんだろ!なぁ!早くしろ!おい!開けろ!』
男はドアを拳で叩いたり、ガタガタと揺らしたりしながら無理やり入ってこようとしていた。このままだとドアが壊されてしまう。椎名さんは決死の覚悟で、
「警察呼ぶぞこの野郎!それ以上やったら警察呼ぶからな!すぐ呼べるぞこのバカ!」
と叫んだ。
男はドアを叩くのをやめて、静かに椎名さんを見つめた。そして、
『殺すぞ』
と小さくつぶやき、倒れた自転車を起こして立ち去った。
10分ほど動けなかった椎名さん。震える手でドアを開け、安全を確認してから自宅に帰った。
普段からよく通っている道で起きたということもあり、椎名さんにとって今後の生活に支障が出るほど恐ろしい出来事となった。
すぐに引っ越し、あの男性に二度と合わないよう生活圏を変えた、と語ってくれた。
※ご本人に配慮し、内容を一部変更しています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます