4 外の世界へ

 段々と木々が少なくなっていき、光が差し込んできた。

もう朝だろうか。

ナサがかきわけて進んでいく道をメルは後に続く。

地面は、草花や落ち葉よりも芝が多くなってきた。

少しずつ変わっていく景色。

ずっと待ち続けた外の世界。

それがこんなにも……最悪の日に訪れるなんて。思ってもみなかっただろう。

「メル様、そろそろ国を出られますよ」

国を出る事がこんなにも嫌になるとは。

森の最後の木々の間が目の前に迫る。ナサはすでに超えた。


私も早く行かないと。でも……。

きっと二度とこの国には戻れないのだろう。


メルの脳裏に走馬灯のように公国の思い出が流れ込んできた。

公国の美しい景色、優しい民達、そして何よりも……愛する家族。

それ以上に辛く苦しい事もたくさんあった。

けれど、それでも。


ここは、私の国。私の帰る場所。

全てをここで捨て去ろう。


メルは恐る恐る一歩を踏み出す。



さようなら。私の。



深呼吸を一度。

もう一歩。


やっと森を出た。

アイサイ公国はもうない。そして。


私はもう皇女ではない。


 目の前に広がるのは、水も無ければ緑も無い見知らぬ土地。先の見えない砂漠地帯だった。

まるで今のメルの心情をそのまま表したかのような場所。

メルは、砂の大地に一歩足を踏み出す。

ずぼっと砂に足を飲まれた。歩きにくい。

それもそのはず。普通の靴だったらまだしも、アイサイ公国の靴は砂との相性がかなり良くない。公国は水が多い。また水術ウォーリアンも使う。そのため、靴が濡れたり水が中に入ったりしないように少し分厚く作られている。通常の靴よりも重いのだ。

その靴が砂に埋まってしまうのも仕方がない。

だが、このままではなかなか前に進めない。

ナサはなんとか自力で砂から足を抜く事が出来るが、メルはそうはいかない。

ナサに手伝って貰ってやっと抜け出す事が出来る。これでは、平坦な道を歩く時間の何倍以上もかかることになる。

靴を脱げば進めるのでは、と思い脱いでみたものの砂は思ったよりも熱く、裸足で歩くのは危険だった。

それでも進まなければならない。早く進まないと追いつかれてしまう。


動け、私の足。


必死で砂の重みから抜け出そうとすると、汗が額から流れ落ちた。細かい砂の粒子が目に染みる。染みた目からじわっと涙が溢れてくる。

遠くの方を見渡す限り、砂漠は遥彼方まで続いている。


どうすればいいのだろうか。


そんなふうに思っていると、

「そこのお二人、大丈夫? 手伝おうか?」

どこからともなく声が聞こえてきた。

いつの間にか、コブのある動物に乗った青年がメルに手を差し伸べていた。

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