3 前進

 メルは勢いよく起き上がった。

薄明かりが森を照らしている。

「メル様、お目覚めですか」

突然起き上がったので、ナサは驚いた顔をしていた。

ナサがいる。

それだけでメルはほっとした。少女はいないようだ。

場所も森の中。服も濡れていない。

やっぱり夢。

だったら、あの手の感触は……。

メルは黒髪の少女に触れられた頬をさする。


冷たい。


まだ感触があった。

「どうしたのですか。急に起きられて」

ナサは、メルの顔色をみる。疲れた顔をしているが、それ以外はいたって正常そうだ。

メルは、さっきの夢が現実か分からない事態を離そうと口を開いた。

が、口を閉じた。

何でもない、と首を横に振るメル。

メル自身もさっきの事態をどう説明すれば良いのか困惑していた。

「メル様まだ疲れていらっしゃるかもしれませんが、起きられたのなら少し先を急ぎましょう。また落ち着いたら、どこかで休みましょう」

そうだ、今はそんな夢にかまっている暇はない。現実の方が二人を襲おうとしているというのに。

ナサは、すっと立ち上がるとメルに手を伸ばした。メルはその手を取り、立ち上がる。

「行きましょう」


一方、その頃。


メル達から全てを奪った仮面の少年率いる軍隊は、アイサイ公国を囲む無数の森に苦戦をしていた。屋外にあった木製のテーブルに公国一帯の地図を広げる。その地図には何カ所も赤色でバツが記されていた。何部隊かに分かれて捜索はしているものの、それでも見つからない。せめて、どこのルートを通ったかさえ分かれば。

少年は苛立ち始め、左手で自分の髪を鷲掴みにする。

「さっさと見つけ出せ!」

傍に控えていた兵士達に怒鳴り散らす。

「あの女……あの女をやっと探し出したんだ!」

少年はドンッと机を叩く。

「逃がしてたまるか!!」

少年の呼吸が荒くなる。瞳孔は開き、目は血走っている。

まるで獲物を狙う獣のよう。

周りに緊張が走る。

これ以上、少年を興奮させてはなるまいと誰も口を開こうとしない。

こうなったら彼を止める事が出来ないと誰もが心得ている。


そんな空気の中、森を調査していた兵士の一人が少年の元へ走ってきた。

「逃走した者達が使ったと思われるルートを発見しました」

少年は髪を掴んでいた手をおろし、兵士の方にゆっくりと顔を上げる。

兵士はゾクッとした。

その顔は狂気に満ち溢れていた。

「確かだろうな」

「じ、地面に少量の血痕の跡がありました……まだ新しいものかと」

少年はニタリと口角をあげ高らかに笑いだす。

「全軍に命令だ。そのルートに今すぐ迎え、とな!」


絶対に逃がすものか。

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