2 ユメ

 ひんやりとした冷気がメルの顔をかすめた。まだ眠いと思いながら、寝返りをうつ。

寝床に違和感があった。


冷たいような暖かいような、湿っている感じもするし――。

 

メルは、突然勢いよく起き上がった。

服が濡れている。湿っているどころでは無かった。

葉にうずくまって寝ていた筈だが、それは影も形もなく、地面には大きな水たまりが出来ていた。

どうなっているのと周りを見渡す。

そこは森ではなく、真っ黒な空間が広がっていた。

ナサもいない。捕まった、という訳ではない気がする。



もしかして、夢?



「そう、これは夢」



メルの前に黒髪の少女が立っていた。

いつの間に。

ぞくっとして後ずさりする。

少女はおかまいなしにメルの顔を覗き込んでくる。


「どうして……貴方が……?」

メルは尋ねるが、答えない。

少女の服は、アイサイ公国の民族衣装だ。


どうして私の前にこの子が?

いや、でもこれは夢……夢、なのかな……?


「本当に夢なの?

少女は無言だった。

メルは段々と気味が悪くなってきた。


夢なら早く覚めて欲しい。

こんな子はアイサイ公国に存在しない。生き残ったのは私とナサだけ。


こんな子、私は知らない。


「あなたは、いてはいけない存在」

メルはどきっとする。

「私が?」


民も家族も失った。公国は滅んだ。それは全て……私のせい……なの?


少女は両手を伸ばしメルの顔を包み込んできた。

少女の手は、氷のような冷たさだった。

まるで、死人。


夢だったら、手の感触がどうしてある?



「ねぇ、自分だけ生きてこれで満足?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る