1 アイサイ公国

 その日、国は活気に満ち溢れていた。

元々活気づいた民達であったが、今日はいつもの倍以上だ。


国の皇女の生誕祭であった。


 ここは海と緑に守られた公国、《アイサイ公国》。

その名の通り、周りは海と森に囲まれた国である。豊かな自然と周囲の国を遮断したような地形は、自分達独自の文化を守る事に適していた。国交は無いという訳ではないが、殆ど無いに近い。だから大方の人は外の世界を知らない。

争いを知らない平和な国。

そして何よりも、彼らには……。


「メル様―!」

と、突然女性の声が露店の立ち並ぶ街に響く。

もはや日常茶飯事の光景と店主達も心得ている。

「また脱走したのかい?」

と店主の一人が女性に声をかける。女性はため息をつきながら、頷く。

「ナサも大変だね。こう毎日と来ちゃぁ……。ま、メル様もまだ遊び回りたい年頃何だろうけど」

その言葉にナサは、すかさず反論する。

「あの方は、遊び過ぎなんです!」


店主達は、苦笑いするより他なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る