2 皇女と侍女

 一方その頃メルと呼ばれた少女は、街からはかなり離れた

「禁じられた森」の中にいた。


丈夫そうな木を見つけ、身軽なサルのようにするすると木の上に登る。

木の枝に腰かけると、ふぅーと溜息をつき幹に頭をもたれかかる。


そっと目を閉じて耳を澄ます。


鳥の囀り、

葉の触れ合う音、

風の息吹、

川の潺……。


全てメルにとって心地良い音だった。


やっぱりここが一番落ち着く……。誰にも何も縛られない自由な場所。


そうだ! この森を超えたら、何があるのかな? 

公国のみんなは知らなくても良いと思っている。 

私は知りたいな。この森の向こう側。


民達は皆、外の世界を気にしていなかったがメルだけは違った。

もっと違う世界を見たい、

と心の中で思っていたのだった。


「メル様、やはりここにいらっしゃったのですか!」

夢見心地でいたメルは、自分に呼びかける声で一気に現実に戻された。

下を見ると、自分の侍女のナサがいた。かなり怒っている様子だ。


「早く下に降りてきて下さい。全く、よりにもよってまた『禁じられた森』にくるなんて……神隠しにあっても知りませんよ」

「神隠しがあったのは昔の事でしょ」

とメルはむすっとした顔で反論する。

「今は誰も……」

「ここに入りませんからね、貴方以外! つべこべ言わず降りなさい!」

メルは渋々ナサの言う通りに従い、するするっと木から降りた。


ナサは、小柄な人が多い公国の民にしては長身だった。

メルはその中でも歳の割に低い方なので、ナサとは約二十五も差がある。

長身な上に只今怒り中。


威圧感が凄い……。

とメルは恐る恐るナサを見上げた。


透き通るような銀髪に整った顔。右耳にだけ、紫の宝石がついた耳飾りをつけている。

メルは自分の髪を一房持ってチラリと見た。

黒髪の混じった茶髪、遺伝か子供だからからか丸々とした顔。

自分とは正反対なナサが羨ましかった。

「木に登るだなんてはしたない。それも皇女ともあろうお方が!」


こう口五月蝿くさえなければ美人なのに。

とメルは思った。



メルは、この国の皇女だった。

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