07話.[納得してくれた]

「久しぶり」


 光の家に泊まり始めてからもう一ヶ月が経過しているから大袈裟でもなんでもない。

 しかもその間は一切会話をしていなかったから早くも懐かしさがすごかった。


「にー?」

「あ、もう戻ってくるんだよね?」

「うん、さすがにこれ以上は迷惑をかけられないから」


 結局、なんだったのだろうか?

 まあ、自分が長期間泊まることにならなくてよかったけども。


「そういえばね、円とのことをよく話してきたんだよ?」

「お、順調に仲よくできるということかー」

「うん、そうみたい、円もよく光ちゃんの話をしてくれるから」


 どんどん光が遠い存在になっていく。

 でも、それでも近づいてきてくれる光は神だな、うん。

 今日もう帰るみたいだから荷物運びを手伝うことにした。

 実は学校にあまりいたくない理由があったから助かった。


「にー、中西先生に嫌われちゃったの?」

「んー、似たようなものかな」


 今度は顔を背けられるのではなく睨まれるようになった。

 自意識過剰すぎと言われてしまえばそれまでではあるが、本当にそうなのだからどうしようもないとしか言いようがない。


「待ってて、挨拶をしてくるから」

「うん、待ってるよ」


 数十分が経過した頃、一葉が出てきてくれて一安心。

 ……長くなるなら長くなると言ってほしかったとは思いつつも口には出さず。


「結局、なんだったのこの家出は」

「うーん、客観的に自分を見るためにかな」

「そうだったんだ、僕が原因じゃないんだよね?」

「違うよ? って、泊まろうとした前日に言ったよね?」

「そうなんだけどそれ以外で考えつかなくてさ、母さんや光には言っていたみたいだし」


 僕にだけ内緒、ということになれば不安になって当然だろう。

 これもまた気をつけてほしい、態度と言葉次第で押しつぶすことができるんだから。


「まあいいや、一葉が戻ってきてくれたからそれで」

「ふふふ、もしかして寂しかった?」

「寂しかった、誰だって家族と一ヶ月も会えなかったらそう思うよ」


 真顔で言い返されたのがあれだったのか揶揄するような雰囲気は消えた。

 それどころか会話も消えてしまったからとりあえずは帰ることに専念をする。


「ただいま」


 聞いてみたら部屋まで運んでほしいということだったから部屋前まで持っていって置いた。

 中に入る必要はない、ここまで運べば十分だろう。


「わっ!?」


 が、何故か一葉に連れ込まれて入ることになった。

 だからって別になにか異質とかそういうことではなく、あくまで普通の部屋だった。

 ぬいぐるみとかがあるから女の子っぽい部屋だな、というのが感想で。


「ちょちょちょ? なんで縛られているの?」

「この紐可愛いでしょ? これも髪の毛用なんだけどさ」

「可愛いけど手を縛るための物じゃないでしょ……」


 あと毎日いい物を食べていたうえに筋トレでもしていたのか全くパワーで勝てなかった。


「ふむ、面白いね」

「面白くないよ?」

「ごめん、やめる」

「うん、ありがとう」


 納得いかないところがあったのか複雑そうな顔で解いてくれた。


「私も寂しかった」

「客観的に自分を見るだけなら必要なかったよね?」

「でも、必要なことだったから」


 駄目だ、これはもう終わったことなんだから聞かなくていい。

 どうせなら楽しい話をしようとして楽しい話ってなんだ? と考える羽目になった。


「お昼寝しよ」

「そういえば寝られていたの?」

「うーん、光ちゃんがうるさかったのもあるからね」


 それはまたなんとも……わがままだな。

 まあ敬語とかになっていなくてよかったとしか言いようがない。

 そうさせないためにもお昼寝ぐらいは一緒にしようじゃないか。


「ぎゅー」

「抱き枕じゃないよ」

「やっぱりにーが近くにいてくれる方が安心できる、光ちゃんは好きだけど円を優先したいみたいだったから申し訳なかったし」

「よく受け入れてくれたよね」

「うん、優しい、にーと同じぐらい」


 片岡さんとの出会いがいい方に影響してくれればいいなと思っている。

 いいことがあって当然だろう、それぐらいのことを光はいつもしてくれているんだから。


「今日からにーの部屋で寝る」

「僕が床でいいならそれでいいよ」

「え、私が敷布団でいいよ?」

「いや、いいんだよ」


 残念ながら今回のそれで妹離れができなかったことになる。

 だから一緒にいてくれるのならなるべくそうしたいんだ。

 家事とかだってするし、荷物持ちぐらいだったらしてあげるからと。


「あ、そういえば課題があるんだった」

「やりなよ」

「やる」


 それならこっちは飲み物を持ってこよう。

 というか、ここに来る前に注いでから上がればいいのに僕ときたら。

 一葉が家に帰ってくるときはこうして部屋で過ごすことが増えたんだからさ。


「お、母さんそれ着てるんだ」

「ええ、買ったのに着なかったら意味ないじゃない」

「似合ってるよ」

「ありがとう、はいこれ、飲み物でしょう」

「ありがとう、ご飯ができたら呼んでね」


 もう六月になる。

 これから雨が降ることが増えるから光には是非とも明るいままでいてもらいたかった。

 お世話になったらまたアイスでも買って食べてもらうことにしようと決めたのだった。


 


「宍戸君、そろそろ考えを改めましたか?」


 顔を背け始めたと思えばやめて、睨んできたと思えばそれもやめて、今度は少しドヤ顔になりながらもそう聞いてくるようになった。

 どうやらこの前のあれを逃げるための作戦だとか考えてしまっているらしい。

 まあ確かにあれだけ人がいる空間で偶然生徒となんて出くわしたら、しかもそのどっちもが僕の友達であったのならそう見えてもおかしくはないのかもしれないけど……。


「じゃあこれからも元気でいてください、それがお礼ということで」

「駄目です、そんなの頼まれなくてもすることですからね」

「それなら手を握らせてください」

「えっ!?」


 これ以上絡まれてもあれだから無理やり手を握ってから謝罪をしておく。

 これで終わったから挨拶をして教室に戻ることにした。


「おかえりー」

「うん」


 一葉を待たせていたからいつまでも時間をかけているわけにはいかなかったのだ。


「由美先生にお礼をしてもらった?」

「うん、手を無理やり握らせてもらうことで終わらせてきた」


 なにかを求めた形になるんだからこれ以上絡まれることはないだろう。

 非モテの男子生徒なら優しくしてくれる女性教師に興味を抱くもの――かもしれないから先生的にも納得できるムーブだと思う。


「帰ろうか」

「うん、帰る」


 せっかく晴れているんだから寄り道をしてもいいかもしれない。

 一葉にその旨を話してみたらパフェを食べたいということだった。

 待たせてしまったのもあるからお金を払わせてもらおう。


「チョコレートパフェ美味しい」

「よかったね」


 あ、そういえばこれもかなり珍しいことだ。

 だって甘いものじゃなくてスルメイカとかを好む子だから。

 なんとなくじっと見ていたら「あーん」とくれるみたいだったので貰っておく。


「うん、美味しいね」

「でしょ? それににーが払ってくれるなら食べられる権利があるから」

「ありがとう」


 雨が多く降るようになったら寄り道すらも面倒くさくなるから今日来てよかった。

 さて、光達はどうするんだろうか?

 雨なのをいいことにどちらかの家で集まって仲よくするのだろうか?

 もしそうなら光が意識しすぎてたじたじになりそうだった。


「食べ終わったよ」

「帰ろうか」


 これからは細かく聞いていかないとな。

 報告はしてくれるけど相談は持ちかけてくれないから少し寂しいんだ。

 分かってる、聞いたところで少し答えるぐらいしかできないことは。

 だけどやっぱり話してほしいじゃないかということで、明日それをぶつけようと決めつつ歩いていた。


「一葉の手は小さいね」

「なんか成長しなかった」

「可愛いからいいでしょ」


 帰ってきたからというもの、雰囲気が甘くなってしまっているのはいいのか悪いのか。

 少なくとも僕にとっては悪くないからそのどれもを拒まずにいるわけだけど。

 両親が見たらどう言うのかは分からない、遠ざける可能性もある。

 だからといって裏でこそこそとならなんて言えないし、これはもう勘違いでもいいから母にだけには言っておいた方がいいのかもしれない。


「一葉は先に部屋に行ってて、飲み物を持ってくるから」

「分かった」


 流石に学習するから家に着いたらそのままリビングに突撃。

 飲み物をコップに注ぎながらだとあれだからその前に母に説明。


「そう」

「うん」


 それ以上特に言われなかったからおぼんにコップを乗っけてリビングを退出――したところで一葉とぶつかりそうになった。


「廊下にいたんだ」

「うん」


 まあ聞かれていても不都合はないから気にせずに二階へ。

 勘違いならそれでいい、ただ僕が痛くて恥ずかしい存在だったというだけで片付けられる。


「勇気があるんだね」

「こそこそとはしたくないから、仲良くするなら堂々としたいからね」

「私がそういうつもりで接しても受け入れてくれるの?」

「一葉が望むならね」


 自室に入ったら着替える前にベッドに寝転んだ。

 正直に言って先生に何度も睨まれたり聞かれたりして疲れた。

 やっぱりあのとき誰かを呼ぶべきだった。

 せめて光がいてくれたら……、まあ言っても仕方がないことだけど。


「これから梅雨だね」

「そうしたら登下校が面倒くさくなっちゃうね」

「だから光にはあのまま明るくいてほしいんだ」

「そうだね、一緒にいてくれたらどんよりしなくて済むね」


 一番大きいのはあの子が同じクラスだということだ。

 もうそれだけで快適度が違う、何故かこっちが保護者的な扱いをされていて光がなにかをやらかすとこっちにも飛び火してくるのが怖いところだけどそれぐらいは我慢しよう。


「それににーがふらふらしてくれなくて安心できる」

「そんなに言われるほど誰かといるわけじゃないけどね」

「気づけば円と出かけてる、それがなかったら今度は光ちゃんとファミレスにでしょ?」


 片岡さんを誘ったのはこちらからは一度だけ。

 光と行っているのは誘われたからそうしているだけ。

 まあ光だったら普通に誘うけど、こちらは基本的に受け身だ。


「僕が誘ったのは一葉でしょ?」

「……逃げた」

「逃げてないよ」


 あれから避けられなくなった頭撫で攻撃をして黙らせる。

 勘違いしてほしくなかったから仕方がないのだ。




「よし、確保」

「ん?」


 おぅ、その純粋そうな目がいまの僕には響く。

 あれからは特に教えてくれていなかったから今日は僕が光にうざ絡みをしようとしている。


「さ、片岡さんとどうなっているんだ吐くんだ、吐いたらハンバーグを食べさせてあげよう」

「え? そんなのなくても教えるけど、普通に仲よくできてるよ?」

「付き合ってよ……」

「別に無視してないよね?」


 違う、その変なノリに付き合ってほしかったんだ。

 そのまま返されるといたたまれない気持ちになるからやめてほしい。

 とりあえず持ち上げるのをやめて椅子の上に戻した。


「最近はお互いに名前で呼ぶようになったんだ」

「そうなんだ? じゃあ友達以上恋人未満というところかな?」

「今度お泊りすることになっているんだ、あ、円が来てくれるんだけど」

「お、へえ、じゃあちゃんと準備をしないとね」


 布団とかそういうの。

 まあそういうのは一葉を泊めていたことからもあるだろうけど。


「シャンプーとかってどうするのかな?」

「拘りがあるなら片岡さんが持ってくるから大丈夫だと思うよ」

「そっか、そうだよね」


 そのタイミングで一葉が片岡さんを連れてきた。

 片岡さんはそのままべったりと光に張り付く。

 光も特に狼狽えたりすることなく楽しそうに挨拶をしただけだった。

 ……僕はそれを見て彼が変わってしまったことを知り教室から逃げ――はせずに、ほーんという感じでそれを見ていた。


「円、さすがにくっつきすぎじゃない?」

「あ、やっぱりおかしい? なんかこれが自然だから当たり前になっちゃっていたよ」


 光が答えたけどそれを当たり前まで上げたのはすごいとしか。

 もうそれは誰がどう見ても恋人とか家族みたいな距離感だ。


「あの……もしかして嫌でしたか?」

「嫌じゃないけど、僕達はまだ恋人同士というわけではないからさ」

「そう……ですよね」

「円が後悔しないならそれでもいいよ?」

「いいんですかっ?」


 僕らはなにを見せられているんだろうか?

 わざわざ聞く必要なんかなかった、心配する必要もないぐらいラブラブだ。

 しかも大胆に彼を連れ去ってしまった、流石にこれには一葉と見合って笑ったね。


「光ちゃんも変わっちゃったね、すぐに狼狽えていた光ちゃんはいなくなっちゃった」

「変えたのは片岡さんだね」

「そう考えると恋ってすごいんだなあ」


 よくも悪くも影響を受ける、与えるのは確かなようだ。

 片岡さんが上手く調節――なんてしているわけではないだろうし、片岡さんといるのならしっかりしなければならないと光が考え直したのかもしれない。

 まあ何度も冷静に対応をした方がいいとは言っておいたからそれがやっと適応された形になるという感じだろうか?


「最近、円が凄く可愛く見えるんだよ、恋をするとってことも聞いたことがあるからパワーがあるってことだよね」

「そうだね」

「光ちゃんだって落ち着きがあって頼りがいがある感じになったからなあ」


 つまりいまの光は最強だ。

 きっと片岡さんの理想通りの男の子、という風になっていると思う。

 ただ、元々頼りがいはあるけどね、たまに尋常じゃないぐらい落ち着いて対応できる子だし。


「私は?」

「え?」

「どういう風に見える?」


 あくまで普通の一葉という感じだ。

 どうしようもないからそのまま伝えたら「むぅ」と不服そうな顔をされてしまった。

 え、だって可愛いとかこんなところで言ってもシスコンぷりが晒されるだけだし……。


「円が可愛いというのはすぐに認めるくせに私が相手だとそうなんだ」

「待って、恋をすると可愛くというか綺麗になるという部分に同意しただけだよ?」

「……円のこと可愛いと思っていないんだ」


 どうすればいいんだぁ……。

 僕には平和なまま終わらせるということができない。

 壁にぶつかっていたら光がひとりで帰ってきてくれたから一葉の前に出す。


「ひ、光、片岡さんのことどう思ってる?」

「いい子だなって、ああいう子が恋人になってくれたら楽しいだろうね」

「「誰……?」」

「光だよっ、田島光!」


 あといまので思った、一葉は片岡さんのことを親友ぐらいの認識でいるのかなと。

 所属している部活が一緒で、それで関わるようになってこれまでずっとに一緒にいるぐらいだし当然そうなってもおかしくはない。


「まったく、ふたりはいい子なのにそうやってすぐからかってくるんだから」

「「いや、だって凄く変わっているから」」

「円と一緒にいる内にしっかりしなくちゃって思ったんだ、暁や一葉ちゃんに支えてもらうばかりの僕のままじゃ駄目だと思ったから」

「そっか、ごめん、変なこと言って」

「謝らなくていいよ、なにか困ったらなんでも言ってね」


 ……違和感がすごすぎるのでなにかがあったら頼るという約束をして解散。

 階段のところまで送ってとか言ってきたので文句も言わずに送ることに。

 うん、僕も大概だ。


「にー、お昼休みにまた来るから」

「できればその場合はひとりで来てくれると助かるかな」

「……意地悪したら駄目」

「いや、あれを見せられても困るでしょ?」

「そう? 仲よくていいと思うけど」


 いやそりゃ喧嘩しているよりかはよっぽどいいことだ。

 ただ、非モテの自分としては目の毒というか、それを見ているぐらいなら一葉とふたりきりでゆったり過ごした方が楽しいだろうからということを説明しておく。

 一葉は最初こそ微妙そうな表情だったものの、割とすぐに「分かった」と納得してくれた。

 聞き分けのいい子でよかった、それだけが救いだった。

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