04話.[行くとしようか]
「ということがありまして、中西先生ならどう見ます?」
たまたま遭遇したので聞いてみた。
もちろん迷惑だと言われればすぐにやめるつもりでいる。
「宍戸君から聞いた情報だけで判断するとその子は田島君に興味があるように感じますね」
「ですよねっ」
「でも、実際にその場面を目撃したわけではないですから……」
「いえ、ありがとうございました。それとすみません、変なことを聞いてしまって」
味方がほしかったのだ。
一葉に聞いても「それはにーの考えすぎ」としか言ってくれないから仕方がない。
そこで大人であり教師でもある中西先生が同意してくれれば嬉しいと判断してこうした。
そしてその作戦は成功したことになる、本当に先生がいてくれてよかった。
「暁ー! 助けてー!」
聞こえなかったふりをするのは可哀想だから足を止める。
振り返ってみると大慌てでこちらに走ってきている光と、冷静に歩いて追ってきている片岡さんが見えた。
「あ、宍戸先輩じゃないですか」
「こんにちは」
「こんにちは」
ああ、そういうことか。
つまり光は
まあ過去のそれと違って痛いことや嫌なことをされるわけではないから平和だろう。
初なところは可愛いからね、僕はしないけど揶揄してみたくなるときもあるのかもしれない。
「それより光先輩、逃げないでくださいよ」
「だ、だって顔が怖いんだもん……」
「はい? こんなにいい笑顔じゃないですか、にこ~」
そりゃそうだ、類は友を呼ぶという言葉があるように一葉の周りにはこういう子が集まるよ。
ただ、最初の後輩系ヒロインみたいなあれはなんだったんだろうね。
放置はできないから光に用があったと無理やり理由を作って連れ去った。
「だからさ、いちいち大袈裟に反応するから揶揄されるんだって」
「そう言われても……」
「それを直さない限りは一生そのままだよ」
あー……露骨に縮んでしまった。
変えろと言われてすぐに変えられたら苦労はしないって話だよね。
「片岡さんと会うときは僕も呼んでくれればいいよ」
「暁!」
「寧ろ光が揶揄できるぐらいにならないとね」
何年も一葉にされてきているんだからそろそろ慣れてもいい頃だけどこれが光だ。
だからこちらにできるのはそうされているときに少しでもダメージを少なくすることだけ。
片岡さんや一葉、それ以外の子にどこかへ行けと言われてしまったら……諦めるしかない。
彼のいい点は元気いっぱいで、そして真面目だということだろう。
分からないところがあればしっかり質問もできるし、手伝いもしようとするぐらいだし。
多分、このクラスの子からは好かれていると思う。
そんな子と友達でいられて嬉しいぐらいだった。
「にー、かもーん」
光の方を指差したら首を振られたのでひとりで廊下に出る。
「あれ、一葉だけなの?」
「うん、円のことで話があって」
教えてくれた情報はどれもだろうなって感じの内容だった。
最初は僕のことが気になっていたらしいので利用されたわけではなかったようだ。
つまり僕が巻き込んでしまったことになる、申し訳ないね……。
これはもう本格的になにかをしてあげないといけないようだ。
「よかったね」
「よくないかな、光に申し訳ないことをしちゃったし」
偽善だ。
自分が一番光が大変な目に遭うように行動している気がする。
「もしかしたらそこから発展するかもしれないよ? 光ちゃんは可愛い子が好きだしさ」
「それでもああいう子を寄せ付けやすいことを分かっていたわけだからさ」
確実に負担にはなっているだろうから喜べない。
それでもあの子のことが好きなんだと光から聞いていれば変わるけど。
「でも、結局にーが連れてきたからこうなっているんだよ?」
「だから僕が悪いって話だよ」
とはいえ、できることも少ないというジレンマ。
お菓子を買うなどしか思いつかないし……。
「円だって意地悪をしているわけじゃないよ」
「分かってる」
そりゃ友達を迷惑な存在みたいな言い方をされたら嫌だろうけどこればかりはね。
普通に仲良くしようとか考えないのだろうか?
恥ずかしいからそういうのを挟まないとできないのかもしれないけど、そんなことをしたら相手は余程寛容な人間でもなければ離れていくだけだろうし。
「一葉」
「……分かった、光ちゃんは大切な友達だから言うよ」
「ありがとう、そのかわりになにかに付き合うからさ」
これぐらいは当然だろう。
相手に無償でなにかをやってもらうわけにはいかない。
「絶対だよ?」
「うん、他人に迷惑をかけないことならするから」
いつだって一葉とは一歩間違えれば喧嘩になるような状態になるからひやひやする。
一葉と喧嘩になんてなったら今度こそ怒られる、どころか、両親が口すら聞いてくれなくなるかもしれないから気をつけなければならない。
というかいまはもう現状維持をしたかった、わざわざ怒られたいとかありえないし。
僕はMなんかではないのだ、褒めてもらえるような行動を心がけようと決めたのだった。
「美味しいですね」
「そうだね」
僕にしては珍しく光以外の人間と寄り道をしていた。
自分から進んでこうしたわけではなく、流れでこうなってしまったと言う方が正しいか。
と言うのも、先程まで一緒にいた光に急用ができて別れることになってしまったのだ。
光がいなくなってしまったのならと解散になると考えていた自分だったが、実際は違かったということになる。
「片岡さん」
「なんですか?」
「光と仲良くしたいのは分かるんだけどさ、もう少し普通に仲良くしようよ」
一葉に頼む必要はなかったのだ。
実際にこうして自分が動けばよかったというのになにをやっているのか。
「普通にって言いますけど、優しいですねとか可愛いですねと言っているだけですよ?」
「え、そうなの? その割には光はよく逃げてくるけど」
「恥ずかしがり屋さんなんだと思います」
それは事実だから否定はできない。
「じゃあ、その優しいとかって言う頻度を抑えてあげてくれないかな?」
「確かに逃げられたくはないですからね」
「うん、普通に近づいたら光は絶対に逃げないからさ」
彼女は飲み物を飲んでから「よく知っているんですね」と言ってきた。
最近出会ったばかりの彼女と比べれば一緒にいる時間が違うのだから当たり前だ。
まあ光のためになっているのかどうかは分からない。
そもそもあのとき自分ひとり被害に遭いたくないからと巻き込んだ自分が悪いし。
「分かりました、それならあなたが代わりになってください」
「光にしないならいいよ、どうすればいいの?」
「逃げずにいてくれればいいです」
そうだ、頼むのならこちらも相手の要求に従わなければならない。
了承し、今日のところは帰ることになった。
光の存在は僕にとって大切だ、だからいつまでも明るいままでいてもらうために犠牲になったって構わなかった。
「送るよ」
「誰にでもしていそうですね」
「僕に関わってくれる子は光と一葉だけだよ、こんなの逆にレアだよ?」
「分かりました、それならよろしくお願いします」
家の数十メートル前を教えてもらってそこで別れる。
家を知りたくてやっているわけではないことを分かってほしかった。
一応一葉の友達だから対応には気をつけなければならないし。
「一葉」
「にー」
公園で待っていると十分前ぐらいに連絡がきていた。
マナーモードだったのによく気づけたものだと褒めてあげたいぐらいだ。
「言い争いにならなかった?」
「一葉のときと同じだよ」
「つまり光ちゃんの身代わりになるってことだね」
まあそう酷いことはされないんじゃないかと楽観視している。
ソースは一葉だ、ああ言ってきたくせになにもしてきていないから。
当たり前だ、兄を揶揄したところで楽しめるわけがないんだから。
それは片岡さんにとってはなおさらなこと、だから大丈夫だろう。
「それよりどうしたの? いつもなら家に帰っているところなのに」
「家にはママもいるけどにーもいてくれないと嫌だから」
「そっか。用がないときはなるべく早く帰るようにするからさ、だから今日は帰ろう」
「うん、帰る」
あとは光に自分にできるなんらかのことをしてお礼、というかお詫びをする。
そうすれば引っかかるようなことはなくなるわけだ。
あれは僕が付き合えば揶揄したりしないと言ってくれたようなものだからまた楽しいだけの学校生活を過ごせることだろう。
「「ただいま」」
圧倒的に楽になるから制服から着替えるために直行した。
「一葉、着替えるからちょっと待ってて」
「うん」
部屋に当たり前のように入ってきた妹に出てもらっている間に着替えを済ます。
飲み物を持ってくるために一度退出をして一階へ。
「おかえりなさい」
「ただいま」
母に挨拶をしたかったからなのもあった。
まあ、帰ってきてすぐに扉を開けて挨拶をすればいいと言われればそれまでだが。
「持ってきた――寝ちゃったのか」
起こすのも悪いから静かに課題をしておくことに。
ある程度したところでご飯ができたと母が言いに来てくれたのでそこでは起こした。
「眠たいの?」
「最近あんまり寝られてない」
「不安なことでもあるの?」
「特にないと思うけど」
あまり夜ふかしをする子でもないから言えないだけでなにかがあるのかもしれない。
そういうときに役立つのが光とか片岡さんとか彼女の友達だ。
兄や異性には言いづらいということもあるだろうし、片岡さんにはぜひともいてもらいたい。
「一葉、こぼしてしまうわよ」
「眠い……」
「はぁ、それなら少し仮眠でもしなさい」
ソファに寝転んでしまった。
母も帰って来てくれたのにどうしたのだろうか。
なにかできることがあるのならしてあげたい。
でも、言ってくれないとただの押しつけにしかならないしなあ。
「よいしょっと」
母が愛用しているブランケットをかけておいた。
今日だって意味なく公園で待っていたわけだし、少し変わったのは確かだ。
両親が帰ってくるのを毎日心待ちにしていたのにどうしてなのか。
「母さん、なにか困っていそうだったらお願いね」
「ええ」
考えても分からないから自分から言ってくれるのを待つしかないな。
いまはとりあえず光にお詫びをしなければならないからそちらに集中しよう。
「お待たせしてしまってすみません」
「大丈夫だよ、いまさっき着いただけだし」
昨日の放課後にいきなり誘われて了承した形になる。
とりあえずは僕のことを知りたいだけらしいから特に行きたいところはないらしい。
でも、興味があるのは光だろうから適度な距離感を見極めなければならない。
「好きなことってなんですか?」
「好きなことか、それは光や一葉と話すことかな」
「なるほど」
あ、いまとなってはご飯作りとも言えるかもしれない。
しなくなったのはいいものの、なんかたまに作りたくなるのだ。
ただ、母の方が上手だし、母がいないということがないからどうしようもない。
あと、最近は帰ったら一葉が一緒に過ごそうとしてくることがあるのからね。
いやまあ全部正当化しようとしているだけなのかもしれないけど。
「両親が帰ってくるまでの間はよく家事とかもしていたんだよ」
「だから一葉はあなたのことを気に入っているんですか?」
「どうだろう、まあ嫌われているわけではないと思いたいね」
あの頃はついつい現実逃避がしたくて嫌いだとか考えてしまったから引っかかっている。
普通に好きだ、好きだからこそもう少しぐらい恥ずかしくなくて済むようにしてほしいかな。
だってやっぱりいっぱい褒められても調子が狂うし、両親が帰ってきてからは一葉も評価がだだ甘になってしまっているわけだからね。
他の人が見たら親ばかとか言われかねない。
「片岡さんはどう?」
「私はお昼寝をするのが好きです、休日は特にそうですね」
「いいよね、僕もなにもないときは床に寝転んで休憩することが多くあるし」
「本当ですか? 暁さんは常になにかをしていそうですけどね、お掃除とか」
そりゃまあ汚れていたらするけどいつだって、というわけではない。
母や一葉が褒めてくれるようないい人間ではないのだ。
勉強だって面倒くさいときは後回しにしてしまう。
超絶疲れているときなんかには適当に服を脱ぎ散らかして寝ることもあるぐらいだ。
「あ、田島さんとは一緒にいる時間が長いんですよね?」
「うん、幼馴染だから」
「お互いに支え合えている、ということですよね?」
「うーん、僕が支えられている感じかな」
あのときだって主に動いてくれたのは情けないことに一葉だった。
だから僕が支えられたことなんてほとんどないわけで。
「光に興味があるなら協力するよ?」
「そうしたくなったら自分の力でなんとかしますから」
とりあえず今日は、ということか。
いない人の話をしても仕方がないからと。
「そこに入りましょう」
「分かった」
静かでいい感じの喫茶店だった。
拘りはないからオレンジジュースを頼んで数分待機。
「一葉とのことを聞きたいんですよね?」
運ばれてきた頃、彼女が急にそんなことを言ってきた。
「え、よく分かったね?」
「お兄さんなら気にするかなと予想してみただけです」
彼女は「当たっていたみたいですね」と言って微笑んだ。
あ、いまの柔らかい感じは光に似ているかもしれない。
一緒にいるときにそういう風にいてくれるとまあ悪い気はしない。
「私と一葉は親友というわけではないですよ。所属していた部活動が同じだった、志望する高校が同じだった、入学してみたらたまたま同じクラスだった、中学生のときから一緒にいたからいまもなお一緒にいるというだけです」
「そうなんだ」
「喧嘩したこともありません、仲良くなければ喧嘩もできないというのは本当のことです」
一葉はドライなようなそうではないようなという感じだから違和感もない。
ただ、仮に片岡さんが離れることを選んだのなら追ったりはしないと思う。
あくまでそういうイメージだから実際のところは違うのかもしれないけどね。
「ちなみに教室でひとりでいる場合は寄せ付けないオーラをまとっていますね」
「見に行ったときには友達と楽しそうにしていたけど……」
「そうですか? あの子が楽しそうにしていることなんてほとんどありませんよ」
実際に近くで見ているのは彼女だ、だから恐らく彼女の方が正しい。
装うことだけは昔から上手だったから僕は見事に騙されていることに……なるのか?
異様に眠たげなところとかもそういうところから影響がきているのだろうか?
「あ、違いました」
「え?」
「四人で帰ったときがあったじゃないですか、あの初対面のときのことです」
「ああ」
「あのときの一葉は違いました、田島さんと暁さんがいてくれたからかもしれませんね」
それじゃあ多少は僕の存在も悪くはないという可能性もある。
大半は元気で可愛らしい光の存在が重要で、一緒にいるだけで楽しいんだろうけど。
「一葉と光は仲いいんだよ」
「田島さんは明るいですからね、暗い人よりも一緒にいて安心できますから」
よし覚えた、これをそのまま本人に伝えればきっと喜ぶはず。
――じゃない、僕は僕でなにをすればいいのかを考えなければならないんだ。
結局、なにか食べ物を買って食べてもらうしか見つからないこの脳が憎い。
「やっぱり嘘です、田島さんと仲良くしたいです」
「うん、一緒にいる機会を増やすぐらいなら僕にもできるよ」
「でも、田島さんからしたら迷惑じゃないですか?」
「だからそのままぶつけて僕が聞くよ」
「いえ、自分で言いますから暁さんはそこにいてください」
なるほど、じゃあ飲み物をさっさと飲んで行くとしようか。
休日は基本的に暇人君ではあるから大丈夫、いまから行くと連絡しておけば余計にね。
普通に仲良くしたいと伝えればきっと受け入れてくれるはずだ。
まあもし上手くいかなくても勇気を出して動けたという結果が残るからいいだろう。
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