第171話


 そして、ついに待ちに待ったその日がやってきた。



 しかし


「燕翔寺は?」

「知らないわよ」


 燕翔寺の姿が無い。


「(あの燕翔寺が約束を破るとは到底思えないが……)」


 そう思った矢先、黒塗りの大きな車両が一台。


 車体には燕がモチーフのエンブレム。


「(これは……)」


「お待たせしました、皆様」


 そして、1人の少女が姿をあらわす。


「さあ、お乗りくださいませ」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「てっきり電車か何かで自分達で行くのかと思ってた」

「それは申し訳ありません……」

「いや、これはこれで良いというか、快適っていうか」

「ふふっ、それは何よりでございます」


 この車両はホバー移動な為振動も殆どない。それに運転手の腕もあるのだろう。コップに注がれ、テーブルに置かれた飲み物達も溢れる様子が無い。


 まさに快適そのものだ。まぁ、自分たちだけで行く旅行のようなものに期待していなかったと言うと嘘になるが。


「お嬢様、間も無く到着です」

「分かりました。では皆様、降りる準備を致しましょう」


 数分後、車は静かに停まると、プシューッと音を立ててドアを開く。


「ご苦労様です。今日は特に移動はありませんから、ゆっくり休んでください。休日にわざわざありがとうございました」

「いえいえ、お嬢様の頼みであれば何処へでも駆けつけますよ。何か用事が出来ましたらお呼びつけください。では」


 良い主従関係だなぁと思いながら車を降りる。そこで目にしたのは、一面の青い海と日に照らされた砂浜。


 そして、見るからに高貴な、それでいて和を感じさせる雄大な屋敷だった。






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