第170話


「桐堂?」


 さっきからずっと桐堂が俯いている。気分転換にと思ったけれど、少し悪戯が過ぎたらしい。


「(と言っても……ここまで反応が過敏とは思わなかったけれど)」


 私のどこにそんな魅力があるのだろうか。髪くらいしか思い当たらない。


「おーい、選んで来たぞーって、どうした桐堂」

「さぁ?」


 不思議だ。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






 帰りの電車にまた揺られながら、武凪士学園へと向かう。行きとは違い、人が疎らで座席に座ることが出来た。


ガタンッ、ゴトンッ


 ふと隣に座る彼女を見る。さっきまで直視出来なかったが、もう大丈夫だ。


「………」


 いつもは眼鏡で少し見えにくい、青い瞳。


 確かな経験による自信に満ちた、それでいてどこか寂しげな目。


 そして時々、自分に言い聞かせる様にそっと漏らす一言。


『私は人間』


 烏川は人間離れした強靭な肉体と能力を持つ。けれど、今日の出来事で痛いほど分かった。




 烏川暁海は人間だ。




 そう断言できる。僕を揶揄うあの表情、褒められて満足そうに微笑んだ彼女は確かに人間だ。


 今までずっと烏川に助けてもらって来たが、きっと、烏川も何かを抱えている。それは僕ではどうしようもなく大きな問題かもしれない。


「(それでも)」


 少しでもこの恩を返したい。それが最近ずっと僕が烏川に抱く感情の正体の一つだろう。


「…………何?じっと見て」

「いや、ちょっとな」

「ほんと、桐堂って不思議ね」

「烏川ほどじゃない」

「それってどういう意味かしら?」

「自分の胸に手を当てて考えてくれ」

「………メラノよりかは小さいかしら」

「そういう意味じゃないんだが!?」


 きっと僕にも何か出来る事があるはずだ。それを見つけよう。


「(そして、彼女が自然と笑える様に)」


 沈みかけた夕日に照らされた彼女の姿に、そう誓った。




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