第163話
「なんだか悪いわね、私の要望が中心みたいになっちゃって」
「いや、夏といえば海だから多分最初から候補には上がったと思う」
それよりもここからが問題だ。この学園都市は人工島なため四方を海で囲まれている。そのため海に行く事自体は簡単だが、諸々面倒な事もある。
一つ。全ての海辺に砂浜があるわけではなく、遊べる場所は決まっている。
二つ。砂浜があったとしても場所が狭い。
三つ。そこが私有地である可能性もある。
四つ。寝泊まりする場所。
今思いついただけでもこれだけ出てきた。
「(どうしたものか……)」
そんな僕の悩みを嘲笑うかの様に燕翔寺は
「せっかくですので、皆様わたくし達燕翔寺家の別荘に来られるのはどうでしょう?あそこなら海も近くにございます。勿論食事も用意致します」
私有地、ほかの人間、食料、寝泊まりする場所。あっさりとその解決策を出した。
「そうね。悪いけれど、お邪魔しましょうか?」
「だねー。って智恵ちゃんの実家!?お屋敷だぁ!」
「いえ、別荘でございます」
そうと決まれば早いもので、次々と予定が決まっていく。とりあえず僕たちが持っていくのは宿題と着替え、財布やライセンスデバイスなどの貴重品の類のみで良いらしい。…………あと水着。
やはりトップ企業の社長令嬢の力は偉大だった。
なんの思惑もない純粋な友人関係を築けたことに感謝するばかりだ。
「あっという間に予定が埋まったな」
「そうね」
その日の帰り、いつも通り烏川と下校する。
「(この時間もしばらくはお預けになるのか)」
少し寂しい様な。
「(寂しい……か)」
僕は守られる側で彼女は守る側。僕たち2人はそれだけの関係のはず。本来なら僕みたいな人間の隣に立つことなんて無い筈の存在。
「(けど、僕は)」
鼓動が速くなる。
「……?どうかした?」
「あ、いや。何でもない」
芽生えた謎の感情を一旦振り払い、数歩先で待つ烏川に駆け寄る。
「少しは夏休み、楽しみになったか?」
「………そうね」
「遊びに行くなんて、何年ぶりかしら」
誰に聞かせるでもなくそう呟いた烏川の言葉がすごく耳に残った。
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