第110話


「(居た)」


 屋根のない廃墟で今回のターゲットと思わしき大きな人影を確認する。


 人型ではあるが僕の身長の倍はあるであろう巨体、血管の浮き出た丸太の様な手足。そして、普通人間ではあり得ない、苔の様な緑色の皮膚。


緑鬼リョッキ】だ。


 大江山のような後天的に異形化した亜人である鬼人とは違い、連中は最初からその姿。


 肉体の主成分もエレミュートであり、全くの別物だ。


「グルルルル……」


 言語機能が備わっていないというのも大きな違いの一つである。


「(正面からやり合うのは悪手だな)」


 俊敏性では駆竜に劣るが、駆竜以上のパワー。恐らく今の僕なら一発もらっただけで退場しかねない。


「烏川」

『なにかしら?』

「緑鬼を発見した」

『そうみたいね』

「援護頼むぞ」

『はいはい』


 気怠そうな返事と共に、僕とは別方向から飛来したエレミュートの光弾が緑鬼の頭部に命中する。


「ガゥッ!?」

「(今だ!)」


 怯んだ隙を突き、一気に距離を詰める。


『まずは足がいいかしらね。アキレス腱なんか狙ってみたら?』

「分かった!」


 狙いを緑鬼の足元につける。


「おおおおおおっ!」


 ザシュッ


「グオッ!?」


 飛び散る白い液体の様な粒子。ロッカの刃は通った。


『攻撃したのなら一旦距離を取る。一撃離脱、一発で決めきれない様なデカブツ相手はこの作戦でいきましょう』

「了解、したっ!」


 その場から飛び退き、振り下ろされた拳を躱す。そして廃墟の柱を使いながら一旦距離を取る。


「っと、こんなもんか?」

『立ち止まるんじゃないわよ。動き回りなさい』

「へ?」


 気づけば緑鬼が凄い形相でドスドスと地面を踏み鳴らしながらこちらに近づいてきていた。


「うおおおっ!?」

『全く・・・』


 烏川の呆れ声と共に再び光弾が緑鬼の顔面に直撃する。


『さっさと体勢整えて』

「す、すまん……」


 もう一度距離を取り、様子を伺う。


「(決して、やれない相手じゃない筈だ)」


 再度チャンスを待つ。


「(一撃離脱。やってみせる・・・!)」






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