第102話



 放課後になり、寮に戻ると烏川から呼び出された。


 そそくさと外出用の私服に着替え、向かった先は喫茶店、蔵ノ月珈琲店という恐らくここらでは定番の喫茶店だ。


「いらっしゃいませー♪」


 ドアを開くと明るい声と共に1人の女性が目に入る。


「(メイドだ……)」


 唾を飲み込む。なぜ喫茶店にメイド?という疑問と、その姿が似合っていて頭の中がグチャグチャになる。


 悶々としていると奥の方から白髪の少女が歩いてくる。烏川だ。


「ちょっと紅葉さん、桐堂に何したの」

「んえ?何もしてないよ?」


 紅葉と呼ばれたメイドの女性は肩をすくめて見せる。


「ホントに?」

「あ、ああ」


 確かに何かされた訳ではないが、僕が無事というわけでもない。


「なら良いけれど、あの人変人だから気をつけなさいよ」

「ちょっと暁海ちゃん!変人ってどういうことっ!?」

「あーあー、煩い煩い」


 道尾以上に元気な人だ。烏川は鬱陶しそうに「シッシッ」っと手であしらいながら僕を奥の先に先導する。


「全く、ポメラニアンじゃあるまいし」


 そしてまさかの犬扱い。もしかして道尾の事もそんな風に見ているのだろうか。


「とりあえず座って」


 案内された先で腰を下ろし、改めて店の内装を見渡す。和と洋の中間の様なレトロチックな内装。何度見てもオシャレだと思う。


「あれ、ルカちゃん今日オフなん?」


 そこで通りがかった男性に声をかけられ、それに烏川は「ええ」と答える。


「ルカ?」

「私ここでバイトしてるの。ルカはここでの呼び名」


 オルカのルカ、だろうか。


「ってことはつまり今日は〜?」

「あるわよ。店長に聞いてみなさい」

「おっしゃぁっ!」


 男性客はウキウキで別のスタッフに案内された席に着く。


「何の話だったんだ?」

「裏メニューの話よ」


 そこでスタッフが何かを僕の前に差し出す。焦茶色の三角柱の様な形状だ。


「これは?」

「その裏メニューってやつよ。今日は私の奢り」

「いや、それは流石に悪い」

「奢るっていってるでしょ。早く食いなさい」

「むぐっ!?」


 有無を言わさずフォークで一切れを口に突っ込まれる。


「むぐっ、むぐ……これは……」


 チョコレートのケーキ、だろうか。しっとりと舌の上で溶けるような舌触り。そして程よい甘さ。


「ガトーショコラ、っていうお菓子よ。どう?」

「美味しい」


 あの男性客が大喜びしていた訳だ。


「疲れた体には甘い物。今は休んでまた明日頑張りましょ」

「ああ」


 また次の目標のため、今はこの甘味をゆっくりと味わおう。


 僕は烏川から手渡されたフォークで再びガトーショコラを口に運んだ。


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