第94話

 鍛錬を再開して五日。もうすぐ1週間が経とうとしていた。


「な、なあ、烏川」

「なにかしら?」

「流石に今日は……」


 そう言いながら僕は空を仰いでみせる。


 黒い雲で覆われた空。ぽつぽつと雨まで降り始めている。しかし


「そのためにこれ持ってきたから」


 渡されたのは黒いジャケット。烏川がオルカとして活動するときに着用していたものと似ている。


「防水加工してあるし、結構丈夫だから。今日はこの予備を貸してあげる」

「あ、ありがとう・・・」


 渡されたジャケットを羽織り、フードを被る。


「人に勝つには人以上に努力をしなければならない。そうでしょう?特に今日なんか、みんながしていない時こそやらなきゃ」

「ごもっともですよ……」


 そうさ、僕はアイツに勝たなくちゃいけない。


 雨なんかを口実にサボろうとした自分を悔い改め、奮い立たせる。


「よしっ、いくか」

「今日は競走しましょうか」

「え?」

「たまには良いでしょう?さ、位置について」


 さも当然のようにクラウチングスタートのような体勢になる烏川。


「ちょ、待ってくれ」

「よーい」

「待ってくれって!あぁーもう!」

「どん」


 雨天時に抑揚のない合図と共に開始される徒競走。


「あがっ!?」


 僕は濡れた地面で開始と同時にずっこける醜態を晒すのだった。


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