第75話



「無意味です」

「っ!」


 テレサは一歩下がると同時にバリアを解除する。そして支えが無くなり、落下する烏川にバリアから分裂した閃光が。


「っぐっ……」


 あまりの激痛にあれほどダメージを受けても顔色ひとつ変えなかった烏川の表情が歪む。


 そして、羽を失った鳥のように崩れ落ちる。


 今すぐにでも駆け寄りたいが、彼女はそれを望んでいない。そう感じる。


『勝つのは私だから』


 今はただ、その言葉を信じるしかない。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「全く、手間をかけさせてくれますね」

「っ………」


 足はもう動かない。小夜時雨も手元にない。クナイはそもそも通用しない。


「オルキヌス。貴女の魂は不浄です、死をもって浄化しなくてはなりません」


 魂の浄化。


 そんなクソみたいな話をしながらノコノコと近づいてくる。そして、私の前に立つと右手を手刀にしてゆっくりと振り上げる。


「せめてもの慈悲です。この世に何か言い残すことはありますか?」


 そう、連中は敵にトドメを刺すとき必ず相手を斬首する習慣がある。


 だから私は目の前のクソ女にこの言葉を贈ろう。


「マヌケね」

「さようなら」


 手刀が振り下ろされる。その瞬間、左手に持ったモノを作動させる。


 ボシュッ


 エレミュート拡散力場発生装置の代わりに隠し持っていた撹乱用のスモークグレネード。特に一発逆転の威力もない、ごく一般的なもの。けれど奴を油断させる事はできる。


 それに私の純性エレミュートの毒霧を混ぜ込み、さらに視界を悪くする。


「無駄なことを……」


 その油断、その拘りが命取り。この煙の中で私が何をしようとしているのかも知らずに。


 目の前にいるであろう、奴に向かって右手に握った"切り落とされた髪束から出現した一本の槍"を突き出す。


「っ!?」


 漸く事態を察したのか奴の周囲にバリアが展開される。けれど


「もう遅い……!」

「なっ」


 ズブリと右手の黒槍がバリアを貫く。


 髪の毛が切られたから威力が半減?なら切られた髪も使えばいい。


 それでも出力はあちらが上。いくら私のものが純性だと言ってもそれは変わらない。けれどそんな全身を包む様に薄く広げられたバリアで一点に集中させたこれは防げない。


 何せ水のように飛び散ってしまった前回と違い、今回の槍は投擲せず、形を維持し続けるために握ったままなのだから。


「ゴハッ」

「だから言ったでしょう?」


 奴を貫いたまま逃れられないよう持ち上げて宙に浮かせる。


「マヌケね、って」


 背中から翼を出現させ飛んで逃げようとするがそうはいかない。すぐに切先を変形させ"カエシ"を作る。


「おあっ、ぐっ、ぬぐっ、おっ」


 そして、短くなった頭髪に残ったエレミュートをさらに流し込む。


 直後、槍は形を維持できずに爆発。連鎖的に奴に流れ込んだエレミュート達も誘爆を始める。


「ああ、そうだった」


 そういえばこの女、私に向かって勝ち誇った顔で「さようなら」なんて言ってたわね。挨拶には挨拶を。ちゃんとこっちも返さないとね?


「さようなら、神様気取りのクソ女」



 バシャッ________________


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