第74話



「この死に損ないが」


 ドッと場の雰囲気が重くなる。丁寧だったテレサの口調もどこか荒々しいものに。


「愛娘の反抗期だと思って甘やかしていたら、図に乗りましたね?恥を知りなさい、オルキヌス」


「マズいわね」

「え?」

「ちょっと邪魔するわよ」


 足が浮いたかと思えば次の瞬間、僕は空を飛ぶような不思議な感覚に襲われる。そして何より、烏川の顔が近い。


「ちょ、おまっ、うかっ」


 お姫様抱っこ。僕はまさにその抱えられ方で高速で移動している。


 その時だった。テレサに後光が刺すように眩い光が放たれる。同時に浮遊していたメラノさんの人形達が墜落する。


「(何だ、あれは……!?)」


 光は複数の球体に形を変え、テレサの周りに浮遊する。


「死して解せよ」

「…………来た」


 球体達が一斉に輝きを放つ。そして、いくつもの閃光が僕たちに襲いかかる。


「口、閉じてなさいよ。舌噛むから」

「……!」


 片足を負傷しているとは思えない高速移動。烏川は放たれた閃光を全て回避してみせる。


「っ……」

「(いや、違う)」


 自分を盾にしている。黒いバリアの様なものがあるとは言え、今までの様に全身を防御出来るほど面積が無い。


 その上シオンのフルオート射撃並みの連射速度で放たれるこの閃光をいつまで防げるか。


 バキッ


「チィッ……!」


 案の定、限界が来た。バリアだけじゃない、烏川の足も傷口から血を吹き出し膝をつく。


「貴方だけでも……」

「ま、待て烏川っ」


 凄まじい速度で投げ捨てられる。


「っぐぅっ!?」


「くっ、烏川ぁっ!」


 地面に転がりながら烏川に向かって叫ぶ。


「大丈夫よ」


 その声に烏川は口角を釣り上げ応える。


「勝機は見えた。勝つのは私だから」


 そして放たれた閃光を上空に飛び上がって躱し、クルリと回ってそのまま急降下。


「!」


 何を察知し、バリアを展開するテレサ。それに対し、烏川は唯一無事な左足を振り下ろす。その踵には鋭い刃が。


「これは……!」


 バリアとその刃が衝突する。それと同時に発生した眩いスパークに僕は思わず目を瞑る。


「成る程。そう来ましたか……」




 ですが、無意味です。


 静かに呟かれたその一言に、僕はゾッとした。


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