第26話
「ヤダァー!死ぬぅぅぅぅ!」
「道尾っ!」
シオンを片手に道尾の方へ向かう。
「そいつを寄越せ!」
「そいつって何をぉ!?」
「コウジュンだ!僕に貸してくれ!」
投げ渡されるコウジュンを受け取る。
コクジュンを手放し、その分軽くなった道尾はそのままとんでもない速度で燕翔寺の方へ向かう。
「(僕よりレベルが高いのかもな)」
あの足の速さなら少なくとも身体能力は道尾の方が上の様に思える。
僕も負けていられない。
「………よしっ!」
迫り来る集団に怯え、少しだけ震える足を叩く。
「(今はいう事を聞いてくれよ……!)」
コウジュンを背中に背負い、シオンを乱射する。
「来いっ!こっちだ!」
今度は僕が囮となり、注意を惹きつける。案の定駆竜達は一人だけ重さで足の遅い、孤立した僕を狙う。
が、勿論やられるつもりはない。
「燕翔寺っ!作戦通りに頼むぞ!」
「は、はいっ、かしこまりました……!」
すれ違いざまに草陰に隠れる燕翔寺にアイコンタクトを送り、シオンで弾幕を張りながら走り続ける。向かう先は……
先程まで燕翔寺と一緒に隠れていた、例の洞窟だ。
「(よし、食いついているな)」
僕が洞窟に入ると駆竜達もついてくる。
「キキャァッ!」
「っ、だぁっ!」
攻撃をコウジュンで受け止めながら、奥へ奥へと進む。
小さな洞窟だ、すぐに行き止まりへ到達する。
僕は行き止まりの壁に背を付け、コウジュンを両手で構える。
「(今だ……!)」
「燕翔寺っ!」
燕翔寺の名を叫びながらコウジュンの出力を全開にする。直後、青い炎が洞窟を満たす。
「ギャッ………」
か細い断末魔や悲鳴が炎に消える。そして、僕の方まで炎は到達する。
「ぐっ、熱い……!」
とてつもない威力。まるで灼熱炉だ。
が、しかし、燕翔寺は火力を少し抑えてくれている筈。
この最大出力のコウジュンならギリギリ防げる筈だ。
気にする事は酸欠くらいだ。いくらエレミュートで発生させた能力の炎だとしても炎は炎だ。酸素は勿論消費する。
炎の奔流が終わる。
コウジュンはもうほとんど使い物にならないがここは仮想空間。現実世界に戻れば無傷だ。
さらに幸いなことに、周囲は土や岩だらけで燃え移りはしなかったが。
だが今この瞬間、この場が危険なのは変わらない。現実では何ともなくても、ここで死ねば強制的に現実の方へ戻される。
「(それに、ギリギリ生き残っている奴もいる……)」
追いかけてくるが構わず走る。燕翔寺は恐らく今ので目標達成の為、現在世界の方へ戻った筈。となると、後は道尾だけだ。
「道尾っ!」
「えっ、あっ、何っ!?」
「入り口の天井を撃て!」
「わ、分かった!」
道尾は散弾銃型のガナーデバイス、【ソウレン】で天井を撃つ。
ソウレンはシオンと違い単発の威力を重視したハウンドだ。所詮土や岩の塊なんか簡単に粉砕してしまう。僕が通り過ぎると同時に岩の雪崩が起きる。
「わ、凄っ」
そして、道尾の体も透けていき、数秒もせずに消える。雪崩で駆竜を生き埋めにしたため、倒したと認識されたのだろう。
「ふーっ、ふーっ」
肩で息をしながら、瓦礫に足を踏み入れる。
何か居る。昔から何故か僕の視線が向く時、そこに何か居ることが多い。
少し大きめの瓦礫を退けると、まだ辛うじて生きている奴が。よく見ると、焼け焦げているものの額に赤いトサカがある。
群れのボスだ。
「…………っ!」
僕は運が良い。
ロッカを心臓に突き下ろす。か細い悲鳴と共にボスは項垂れる。そして、徐々に傷口からエレミュートが漏れ出す。
気づけば殺風景な真っ白の部屋に移動していた。
「目標、達成か」
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