第23話

 風に髪が靡く。


「へぇ……」


 よく出来た仮想空間だ。落ちている石ころを拾ってもしっかりとその感触がある。


「(もうあの時から10年近く経ってるし、当たり前かしらね)」


 思い出に耽っていると、腕に巻いた簡易ライセンスデバイスに通信が入る。クラス全員に対しての一斉通信。


 送信者は傘草だ。


『今回、そこに出現するのは【駆竜くりゅう】だ。大して強くないが、油断するなよ』


 駆竜。昔この星に存在したとされる小型肉食恐竜の様な姿をした小型フォリンクリ。


 見た目の通りすばしっこいが、不気味な見た目の多いフォリンクリの中では比較的マシな造形だ。


「(まあ、普通の人なら普通に怖いでしょうけど)」


ガサッ


「(…………距離50mってとこかしら)」


 少し近い。傘草から受け取ったハウンドはシオン。桐堂が持っているものと全く同じモノだ。有効射程は1km程。


 エレミュートの粒子を使ったビームだから近いと近いほど威力は高いけど、近すぎても良くない。特に駆竜みたいな標的なら無駄に強い貫通力のせいで逆にダメージが減る。


「(そのためのフルオート射撃機能なんだけど)」


 標準を合わせ、モードを切り替える。


「ギャゥ?ゲギャッ!?」


 全弾命中。


 ・・・の筈だが、大したダメージを受けていない。むしろ変に刺激したせいでキレている。


「(何よこの豆鉄砲。威力が無いにも程があるでしょう?)」


「キシャァッ!」

「チッ……」


 念の為腰にさしていた苦無クナイで爪を防ぎ、シオンで顔面を殴りつける。フォリンクリはその特性上、打撃武器はほとんど通用しないが体勢を崩せれば問題ない。

 そのまま組みついて地面に押さえつける。


「流石に、コレなら効くでしょう?」


 押さえつけた駆竜にシオンの銃口を押し付け、トリガーを引く。いくらこの豆鉄砲でも、この距離で撃ち続ければ。


「ギャッ、グッ、ギャヒッ、ギャ……」


カチッ、カチカチッ


「……………」


 弾切れが起こる頃にはもう虫の息だった。しかし、この程度でコイツらは死なない。


ドスッ


 心臓付近にクナイを突き下ろす。直後に硬い球体の様なものが「バキリ」と割れる感触を感じる。


 フォリンクリの体内には必ず【コア】と言うものが存在する。今の駆竜や甲本(擬)のようにコレを破壊するか、体の組織を全て消失させない限りフォリンクリは完全には死なない。


 たまに例外がいるけれど。


「………ふぅーっ」


 駆竜が消失したと同時に周りの景色がどんどん消失していき、殺風景な白い一室に変貌する。シュミレーションルーム本来の景色だ。


「目標達成、ねぇ」


 ふと見た簡易ライセンスデバイスの画面にはそう表示されていた。

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