第21話


「桐堂様、烏川様」


 授業が始まる直前、燕翔寺から声をかけられる。


「ん、何だ?燕翔寺」

「………」

「お2人、特に昨日から狩猟科に転科された烏川様には伝えておかねばならないことがありまして」


 そう言って燕翔寺は僕たちに顔を寄せる。


「本日から早速、シュミレーター実技があると。昨日先生から」

「っ!?」


 実技。それは勿論狩猟科の実技、体育館に直結して設置された大型シュミレーションルームで行う仮想空間でのフォリンクリ戦だ。

 仮想空間なため肉体に直接ダメージは無く、かなり高い安全性だが本物と一寸の違いもない仮想体の迫力は相当なもの。


「早いな」

「そうなの?」

「はい、今年度は例年に比べてかなり日程を早めている様でございます」


 燕翔寺の言う通り、本来なら対人戦でハウンドの扱いにある程度慣れさせた上で実践してみるという流れだ。

 しかし、今年度はその対人戦をすっ飛ばして早速実践。


「(何か理由があるのだろうか?)」


 しかし、そこまで大事にしてないあたりよく分からない。


「とりあえず、それだけお伝えしようと」

「ありがとう燕翔寺」

「いえ……結局初めていきなり実践なのは変わりませんので………」

「何も知らないでやるよりマシだ」


 実力も勿論大事だがこういった事は精神面も重要だ。事前に知ることで少しは心の余裕が生まれる。


「………」

「ん?どうした烏川」

「いいえ、何でも。それよりそろそろ来るんじゃない?」


 何が言いたいのかよく分からなかったが、数秒後理解する。


「おはようございます」


 現代文担当の【輝久てるひさ 真弓まゆみ】先生だ。慌てて必要なものを用意する。


「あ、教科書」

「見せてあげるから」

「た、助かる……」


 今度は教科書を忘れてしまい、また烏川に助けてもらうのだった。


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