第18話
甲本と謎の集団に襲われた次の日、日常はしっかり元の姿に戻っていた。
あれだけ派手に死にまくったというのに誰一人死体として見つかっていない。
校舎も元通り、まるで最初からあんな出来事なんて無かったかのように。
「(最後のフォリンクリはまだしも、他の連中は見つかってもいいと思うんだが……)」
「おっはよぅ!」
そしてその平和さをさらに知らしめる声。
朝から元気に勢いよく教室に入る女子生徒、道尾。まあ、遅刻ギリギリなのだが。
「おはよう御座います、道尾様」
「早く席に着け道尾」
「…………」
まっすぐこちらに向かう道尾を止め、自分の席に行く様に指示する。もう傘草先生が来てしまう。
「誰一人茜音って呼んでくれないっ……!?」
結局下の名前で呼び合う、というのは無しになった様で言い出しっぺの燕翔寺すら苗字呼び。
「(女子同士だけでもすれば良かったのに)」
なんとなく辺りを見渡した時に、ある事に気づく。
昨日の事件の当事者、甲本が居ない。
しかし、それは昨日の夜、傘草先生からの連絡で知っている。
それでは無く、だ。
隣の少女が目を惹く。
いつも通りカフェオレを飲む長い黒髪のクラスメイト、烏川。
その烏川のメガネからチラッと見えた青い瞳。何もかも飲み込んでしまいそうな海の様な瞳。
昨日のあの少女とよく似ている。
僕の護衛役だと名乗る謎の少女。
何故か顔だけはボンヤリと記憶にモヤがかかっているが、その目だけはしっかりと覚えている。
そして相変わらず、僕はその目を直視出来ない。
「昨日はその……ありがとう、烏川」
「………なんの事だか分からないけど」
しらばっくれる。まるで本当に何も知らないとばかりに。
「どいたしまして」
しかし、そう言って微笑してみせる。昨日、僕を助けてくれた時の様な優しい微笑みで。
海の様に静かで、それでいて少し自信ありげな態度。そしてどんな敵でもねじ伏せる圧倒的な力。
オルカ。
この少女との出会いが僕の運命を大きく動かして行くのだが、無論この時の僕はそんな事知る由も余裕もなかった。
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