‪√ mellOw ?


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( another story of " √ mellOw " )






「んなの、云えばいいだろ」


隣でパンを齧るコイツは片想い中らしい。

ひと口齧っては「でもさァ、」と面倒な話をしてくる。知らねぇよ。







「でも、いつも忙しそうなんだよ」

「高校生の忙しいは暇と同義だろ」

「はァ、あの子には塾もあるし、受験生だし、」

「お前もタメなんだろ」

「格が違うんだよ」

「あっそ」






ガキも、コーコーセーも、オトナも、どいつにとっても今日は忙しい。生きてるだけで酸素を吸って二酸化炭素を吐き出さなければならない。忙しい、いそがしい、イソガシイ。


対してガキも、コーコーセーも、オトナも、どいつにとっても今日は平等に分け与えられている。暇と多忙は同義である。


これは俺理論。生まれ落ち、今日まで生きて、明日も生きる、それを繰り返したゆえ編み出した理論。









「でも、この曲、あの子に聴かせてみたいな」






そう呟いて、パンを口に含んだまま遠くを眺めるコイツはどっかに意識を飛ばしていた。コードの無いイヤホンを片方外して。





俺はそんな気持ちがわからない。


誰かを一途にとか、好きだとか、そういった感情論がわからない。プラトニックラブ、といった概念が分からない。与えられるだけ。与える意味がわからない。人と人の間にギブアンドテイクは成立しない。だから、馬鹿馬鹿しいと思う。


だけど、羨ましくもある。


そんな窮屈に興味がある。









「…どこ」

「え?」

「そいつどこかっつってんの」

「どこって、学校、」

「行くぞ」





ちょっと待って、どうしたの、って、コイツは不思議そうに大声で問いつつ、ズカズカ歩く俺の後ろを小走りで付いてきた。俺もよく分からない。だが、なんとなく立ち上がった。聴かせたいならそうすればいい。




たどり着いた学校は授業が全て終わりホームルームを待っている時間のようで、賑わっているのがわかった。コイツ曰く女は勉強で忙しいようだが見た限り進学校という印象ではないらしい。だが、ヤンキー御用達というほどでもない。極フツー。








───「居んだろ!おいッ!」







そう上を向いて叫ぶと、野次馬が窓から次々顔をのぞかせた。まるで収集のつかない土竜叩きのようだった。





「どいつだよ」

「ちょ、」

「どいつかって聞いてんの」

「…その中には居ないよ」

「じゃあどこだよ」

「…A組」







そう聞いて、コイツを置いたまま走り出していた。なぜ走ったのかは分からないし、なぜここまで俺が行動しているのかも分からない。だが、そいつを連れてくることで意味を成すと思った。


俺を穿つ春の鬱陶しい風が、無駄にならない方法を探すには、これしかない。



ザワザワとした有象無象の中、ひとり、問題集に向かっている女がいた。コイツしか有り得ない。手首を掴み、立ち上がらせるとまるく黒い瞳が見開いた。瞳孔の開ききった猫のようだった。誰かを求めているようだった。











───「てめえが来なきゃ意味ないだろッ!」








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