お嬢様と誘拐犯

@yukinamiki

第1話

「昨日結局それのせいで怒られて、もうマジでサイアク。」

「うわっ。わかる〜親ってほんとにうるさいよね。」

「ウチも〜!」

隣の席で繰り広げられる、クラスの中心にいるような女子3人の会話は自然と耳に入ってきた。

「……あっ。ごめんなさい枢木(くるるき)さん。うるさかったよね。」

話していた子のうちの1人が何かに気づいたようで私に向かって話しかけてきた。

大して仲良くもなく、かと言って嫌われているようなわけでもなく、話しかけられたら返すような関係の私とは、同い年だというのに敬語を使われる。そこが彼女らの線引きなのだ。

「あ、ううん、全然大丈夫だよ。」

眉を垂れさせ目を細めて笑って見せるけれど向こうは居心地が悪そうに廊下へと出ていった。

大丈夫。いつも通り。

私はどうやら他の子と違うみたいで、成績が悪くて親から怒られる。だとか、高得点を取って褒められたとか、食事中の会話に休日のお出かけ。そんな周囲の子達の家庭の話はいつも私の近くにあって、そしてもっとも私からは遠いもので夢物語にしか思えなかった。

私の、枢木という苗字は包みこむように周囲から私を遮断した。

休み時間に近づいてくる友達も、何しても怒られると有名なみんなからウザがられているような理不尽な先生も、全部全部この2文字の結界に弾かれてしまうらしい。寂しいなんてものがわからなかった。だってその言葉は1度、寂しいを埋めてもらってた過去があるから言える言葉だ。

いつも通りのそんな、私の世界。

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