第7話 宴と黒の王子

「白の国の姫よ これは私の大事な家族と側近のタルベリイ

後程 それは歓迎の食事会の時に この場にいないもの達も含めてゆっくり紹介しよう」


「私の息子アーシュランは すぐこの後 白の国に出発するので

ここで・・」


「王子様 アーシュラン様」エリンシア姫は 微笑みかける


少し戸惑いの表情をみせながら アーシュランは再び会釈した



「初めまして 白の国のエリンシア姫様 私はこれから すぐに出発しますので

これにて 失礼いたします 

どうぞ つつがなく黒の国で過ごされてください」 


そう言い残して 振り返りもせずにその場から立ち去った


まだ 幼さが残る どこか寂しげな後ろ姿が印象に残る・・


「エリンシア姫様 どうぞこちらです」 明るく笑う幼い少女 王女

彼女の瞳も 先ほどの少年 王子と同じもの 赤い火焔の瞳


エリンシアは思い出す

そうだったわ 先読みの占い師の間では 有名な話・・


黒の国の次世代は 焔の使い手 瞳はその証を示すもの・・


でも・・本当に不思議な色の美しい瞳だわ・・エリンシアはそう思った


夜 歓迎の宴は始まる

離れの大広間に向かう 道の途中の屋根のついた柱の道

ふと 気が付いてみると 数頭の馬が王宮の外に出ようとしていた


よく見ると 2頭目の馬に先程の少年 黒の王子アーシュランが乗っている

1頭目は 警護の者 3頭目には同じく警護の者だろう


たった2人の警護の者だけ・・


見送る者もなく まるで捨てられているかのごとく・・


「・・・」


「姫さま・・」


「あまり 気にされない事です」

あっさりとエリンシア姫付きの女官となった

黒の国の女官は続けて言った


「あの方の半分の血は 卑しい人族の者ですわ

母親は卑しい身分の者・・売春宿にいた事もあるのですから・・」


「え?それは・・一体どうゆう事ですの?」


女官は エリンシアに事の次第を問われるまま あっさりと話をした


王子アーシュランの母親は 人族の娘

しかも 一度攫われて 売春宿にいるところを

恋人であった竜の顔を持つ戦士セルト殿に救われて


ある時 偶然、黒の王の目に止まり、無理やり恋人との仲を裂かれ

王のものになったという


その為 黒の王はありもしない罪を戦士セルトにおわせ、追放させ


戦士セルト

彼は 幼い義理の妹とともに王都から出ていったという


しかも そのアーシュラン王子の母親は数年前に流行り病で亡くなり

 

その上、まだ幼い彼は 黒の王妃から大変疎まれ・・


平和条約の為の人質交渉に真っ先に候補にあがり

こうして 白の国の人質となったのだ


そう 捨てられるように・・


彼はアジェンダ王以来の3百年ぶりに出現した 

待望の赤い火焔の瞳の王子のはずなのに


だが、王妃は赤い火焔の王女を産んで

もう彼は用済みなのだ


「可哀そうに・・」小さな声でエリンシアは呟く・・


女官は聞こえなかったか、聞こえないふりをしたのか

そのまま エリンシア姫と供に 無言で付き従って行った

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