第5話 黒の王宮 赤い火焔の瞳の王子と王女

黒の王宮の片隅 静かに 窓辺で本を読んでいる まだ幼い少年

黒髪が風に揺れていた 


「アーシュ兄さま」綺麗に着飾った 美しい少女が部屋に飛び込み 彼に抱き着く

綺麗な美しい衣に艶やかな髪、黒髪は複雑な形で結われて 宝石のピンをつけて

煌めく まだ幼いが極上な美貌の持ち主


少年と少女の宝石 ルビーのような赤い瞳が互いを見ている


「・・テイ テインタル」少年は 表情も変えずに ただ一言


「あのね テイは刺繍入りのハンカチを作ったの 使ってね」

頬を赤くして 少女はハンカチを差し出す


「・・・・・」「どうかしら?」


「とても 良く出来ている 嬉しいよ」「うふふ 有難う 兄さま」


あまり表情を変えずに 一言ぽつん


「あの、兄さま 本当に白の国へ行かれるの?」「ああ、父王たちがそう決めた」

哀しそうな表情を浮かべるテイ、テインタル


「私もついて行きたい」テイが抱きついたまま ぽつりと一言


「・・元は敵国 大使というのは名目で人質だ

変な事を言うじゃない 火焔の瞳の王女さま」


「それに 300年、アジェンダ王以来の火焔の瞳の持ち主

 長く出現を待ち続けた 火焔の王女だ 


弟のアジュアリは 黄金色の瞳で 将来はお前が間違いなく女王だ」


「それ 変、

だってアーシュ兄さまだって 私と同じ赤い瞳よ」


「俺は 人族の寵姫の子 しかも母のリジャは浚われて 一時、夜の・・

あ、いや 何でもない」

「・・長年 子供が出来なかったから 子供が出来やすい人族の女に

俺を産ませただけだ」 

「当然だが 俺の魔力も寿命も純血な者達とは違う 半分くらい」


「正妃アリアンさまと父王アージェントの子のお前とは立場が違い過ぎる」

「だから、正統な純血な血を持つのは テイとアジュアリだけだ」


不満そうに兄アーシュを見つめる 異母妹のテイ


「だって、変よ兄さま

本来なら 赤い火焔の瞳というだけで この黒の国は・・」テイ


軽く笑みを浮かべ アーシュは手元にあった小壺から手製のクッキーを

取り出して 異母妹のテイの口に押し込む


はぐはぐ モグモグ

「美味しい 兄さまのお手製ね」「まあね 」

「オレンジピールがついて美味しい」


「お褒めに預かり 光栄 

では王女様 そろそろ帰らないとアリアン王妃さまが またお怒りだ」


「・・・・・」そっとテイは兄の唇に自分の唇を重ね すぐに離す


「兄さま 異母兄妹なら婚姻も可能なのよ 何せ魔力を高める為に

近親婚を重ねたから アジェンダ王の両親も異母兄妹だった」


「・・・・アリアン王妃は絶対許さないから 変な事は言わない」

「王女さまに クッキ―を捧げようか」


「もう、じゃあ、またね」

肩をすくめ、手渡された小さな壺のテイ、テインタル王女は立ち去る


閉じたドアに ただ、ため息をつくアーシュ、アーシュラン


華やかな光を浴びる 赤い瞳のテインタル王女に 

影に潜むように諦めた冷たい表情のアーシュ,アーシュラン王子


だが、運命は皮肉な結末を用意していた


王国は一度、滅ぼされ アーシュは 最後の黒の王として国の頂点に立ち


敵に捕らわれたテインタル王女は 敵の間者として 生涯を日陰で過ごす

美しい美貌を隠し、ひっそりと・・自分の家族を惨殺した敵の為に


身の純潔は火焔の魔力で無事だったものの

敵に従う呪いの入れ墨を彫られ

黒の王アーシュを殺したいという衝動も呪いの入れ墨には入れられて












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