第9話 星空の守られない人々

 人生には予想だにしない出会いというものが往々にしてあるが、山男ほど数奇な再開を繰り返す者もまたとあるまい。

盗賊のアジトから脱出する計画を、偶然居合わせた大男ハッサムから共謀案を示され呼応した訳だが、まさか内通者がかつての仲間山男だとは仏様だって予期出来まい。

尤もどうせ数奇な運命を辿るなら、こんな髭面オヤジでなくロリ幼女とランデブーしたかったが、この異世界の神様は勇者たる俺に対してどこまでもへそ曲がりであるから、今更自身の悲運を嘆くつもりもない。


「俺がここに捕まっているなんて情報を、よくぞ掴んでくれたな」

「詳しく説明している暇はないが——この作戦にはナーリアが関わっておるんだ」

「ナーリアが?ふうむ、それは……縁起でもない話だ」


 ナーリアとは、かつて俺の大冒険に頼んでもいないのに引っ付いて離れぬスッポンディフェンスで、数々の厄災を齎した忌まわしき女戦士である。


「まぁそういうが、勇者よ。ナーリアがおらなんだ、お主は近々囚人の採掘場にでも売られていた訳だから、これまでの事は水に流して、一つ気持ちを新たにナーリアとも良くしてやってくれんか。ここ二ヵ月あまりの道中は、奴さんも張り合う相手がおらんで珍しくしおらしい態度じゃったぞ」


 しおらしい?却って気色悪いわ。言っておくが、奴が宇宙レベルに更生したところで、かつての悪行が消える訳ではない。俺とナーリアの間に広がる広大な溝は、それ程に根が深いのだ。

この章から読み始めたりした人がいたら、これは前振りで後々くっつくパターンだとか邪推するかもしれんから先に釘を刺しておくが、そんな事は絶対にない。


「まぁそこら辺は追々整理してもらうとして、今は脱出が優先じゃ、勇者、もょもと、ハッサム。行こう!」


 先頭をアジト内部に明るい山男が、次いで俺、もょもとと続き、殿(しんがり)をハッサム。

会敵一番に殴り掛からなければいけない先頭が俺でなくて良かった。そんなものは捨て駒の仕事である。

そして、不意の迫撃を気にしなくて言い分、最後尾でもなくて良かった。

ハッサムは俺を勇者というだけで有能と思い込んでいる様だが、これまでの冒険からも散々解っているように、俺はたまたま現世から異世界に転生しただけの無職であって、当然ながら自他共に認める無能である。

そんな俺と同レベルで無能なもょもとが中間を務めるというのも、適材適所というやつで即席にしては最適解を自然と採る采配の妙であろう。


 俺ともょもとの仕事はただ一つ。視覚的な優位で盗賊を怯ませ、山男とハッサムで邂逅一番タコ殴りにして貰うという寸法である。


ううむ、役得よのぉ。


 正門の騒ぎが余程大きいのか、アジト内部は当初覚悟していたよりも遥かに手薄で、逆に拍子抜けするほどあっさり宝物庫へとたどり着いた。


「まさか宝物番まで不在とは……よほど神の幸運に恵まれているらしいな。これも勇者の恩恵か?」


 扉の開錠を山男に任せている傍らで、もときた一本道を睨みながらハッサムは独り言ちた。買いかぶって貰って恐縮だが、多分違うぞ。


「ちっくしょお、俺に恐れをなして盗賊も逃げちまったんじゃねぇか!?」


 うむ。もょもとも普段の調子を取り戻したようで俺は嬉しい。後は少し黙っていてくれると大いに助かる。


「よし、開いたぞ!」


 ガチリという単調な音が響いた後、重厚な鉄扉はゆっくりと開いた。


「こいつは……運び出すのも難儀しそうだ」


 眩いばかりの金銀財宝が、そこには在った!なんだ、これは!?今までに見た事もない純金の輝きが、部屋を満たしている。

絢爛豪華な宝玉の数々。目が眩む程の燦たる光を前に、四人が四人とも時間を忘れ茫然としたが、ハッサムが用意していた袋の中へ無造作に金銀財宝を放り込む様を見て、慌てて他の三人も収奪を開始した。


 盗賊という無法者相手にしているとはいえ、簒奪の得も言われぬ背徳行為が楽しくなかったかと言えば嘘になる。

現世で万引きすらした事がない俺が、銀行強盗に匹敵する財宝の数々を収奪しているのである。これが楽しくない筈もなかろう。

これで火炎竜巻の災禍に見舞われたプランチャの人間に金を撒くというなら異世界のねずみ小僧だが、これだけの金を前にして偽善に走る良心をあいにく俺は持ち合わせていない。

ここは素直に勇者行為に勤しんで、分け前の5パーセントに預かろう。


 一刻を争う事態、急ぐ手足を更に急がせ、大方の財宝は収奪する事が出来た。しかしながら、当初の懸念通りではあったが――問題が一つ発生した。


「これ……滅茶苦茶重いぞ」


 金の密度は鉄よりも高い。従って、とてつもなく重い。

純金の延べ棒なんて代物、当然ながら人生でお目にかかった事もなく、実物の重厚な重さに狂喜乱舞していた段が過ぎた今となっては、ただただ不快な重さだけが手に実感となって圧し掛かる。

余談だがペットボトル大の大きさで10㎏ぐらいと言えば、いかに重いかが知れるであろう。


「こんなもん運べんぞ」


 真っ先に弱音を吐く俺を他所に、ハッサムは持ち前の超肉体で軽々財宝の詰まった袋を担いでいた。


「どうした勇者?欲張って詰め過ぎたのか」


 予想以上の収奪に気を良くしているハッサムは、余りの重量に狼狽する俺ともょもとを一瞥しても、ガハハと豪快に笑うだけで真に受けていない。

いやいや、笑っている場合ちゃうぞ。こんな重いもん、いくら宝とて運べなければ身体を壊すだけであるから、可能なら谷底にでもぶん投げたいぐらいだ。

無論、今は笑っているハッサムもそんな暴挙に出たら最後、どんな悪魔へと変貌するかも解らんから、とかく俺ともょもとは袋の中身を居抜きして、いかに軽くするか腐心していた。


 その様子を一部始終見ていた山男は、ハッサムと違い俺ともょもとの真の実力を嫌と言う程知っているから、窘める訳でもなく別の案を考えているようであった。


「そうだ、宝物庫へと至る道中で、三つの分かれ道があったろう」


 山男は思い出したように顔を上げると、俺たち――というよりも、ハッサムに対して話始めた。


「実は、あの二つ目の分かれ道を別に辿ると、物資を運ぶ為のトロッコがある。その傍に手押し車があった筈だが——どうだろう、これだけの金銀財宝、全て人手で持って行こうにも手が塞がっては危急の事態に対応出来ん。ならば、多少時間のロスになるが、一度戻って手押し車を持って来て、再度詰め込んだ後に、トロッコでオサラバといかんか?」


 山男の妙案に、ハッサムは少し考えこんだが、時間が惜しい状況であるのは当人が一番解っているので、多少のリスクは承知で山男の案を快諾した。


「だが、四人で行動を共にしていたのでは、流石に危ないかもしれん。というのも、外の喧騒が少しばかり遠のいている。外の襲撃部隊は虚を突いて盗賊を動揺させ、内部から引っ張り出すぐらいなら出来るが、盗賊を殲滅するような力は当然ない。そんな事が出来るなら、最初から正面きって略奪に来るわな」


 耳を澄ますと、確かに襲撃当初の反響よりも、些か落ち着きを取り戻しているきらいがある。


「こうなると、宝物番や牢番といった連中が戻ってくるのも時間の問題だ。だからどうだろう、先の作戦を軽々に変えるのはリスクだが、ここはもう乗りかかった船、零か百かの大博打で宝を奪う覚悟を決めて、一旦別行動を取らんか」


そう言うと、ハッサムは俺の肩に手を置いた。


「山男ともょもと、お前らは引き続き財宝の袋詰めをしていてくれ。その間に俺と勇者の二人で手押し車を持ってくる。なあに、四人から二人、数のうえは不利になったが、俺だってエルサドールでは鳴らした用心棒、それに勇者までいてくれるなら、これでは盗賊風情に後れを取る方がおかしいというものだ」


いいや、おかしくないぞ、ハッサムよ。俺を買い被るな!


「……ふん、仕方ないな。その役、興味深いが勇者に譲るとしよう」


 早々俺の退路を断つようにして、もょもとがハッサムの意見に呼応した。

こやつめ、余計な真似をするでない。そんな興味があるならてめえが行け!

ところが、もょもとの自信に満ち溢れた表情と発言から騙されたのだろう、ハッサムは得心した顔で、再度俺たちを見やって言った。


「いや、これは失礼したな。勇者の側近である武闘家もょもとを差し置いて、俺が出張るというのも差し出がましい真似であった、すまんかったな。矢張り実力通りの精鋭二人、勇者ともょもとの二人で手押し車を取りにいくのが最も成功率の高い作戦であろう。そういう訳で二人とも、どうか頼むぞ!死なばもろとも俺ら四人、一蓮托生の仲であるからな!」


そうして俺ともょもと二人、もと来た道を逆走しているさ中である。


「……なぁ、一つだけ言っていいか」

「……」


気分は最低だ。普段から低い俺のトーン、数オクターブ更に低くしたような問いに対して、目下のもょもとは何も答えない。


「なんで出しゃばってしもたん?」

「……すまん」


流石のもょもとも猛省している様だが、今回ばかりは許してやれん。


「ハッサムと二人なら、まだなんとかなるぞ。だけど、俺ともょもとで何が出来る?盗賊に会ったとして、即逮捕よ、俺たち」

「……すまん」

「うん、すまん言うけどね、死活問題だからね、これ」

「……すまん」


 気が重い。空気も重い。何が悲しくて、無能が無能の世話しながら、薄氷を履むが如く敵との会敵に怯えつつ手押し車を取りに行かねばならないのか。


「俺たち、自分らの実力を過信しちゃダメって、前回の盗賊掃討作戦から学んだ筈でしょ?全く同じ道を辿ろうとしている訳だよね、これ」

「……すまん」

「うん、まぁなってしまったものは仕方ないとしてね、別段、俺も普段から難有りな人生だから、特別この状況に憤激するっって訳でもないんだけどね、最低限のルールは守ろうよ。お互いに死にたくないでしょ?もょもとはよく自ら虎口に首を差し出す真似しているけれど、俺の首まで一緒に差し出さないでね、そんな抱き合わせ商法みたいな感覚で命の安売りしたくないの、俺はね」

「……待て」


 あれ、すまん言わなくなったぞと思った矢先、もょもとは俺の手を引いて、岩壁沿いの陰り部分に身を潜めた。


「急げ、七番出口から火が上がったぞ!」


 少しと待たずに、二人の盗賊が視界奥を走っては消えてゆく姿を見とめる事が出来た。


「ふん、危なかったな」


 周囲の安全を確認して岩陰から顔を出すと、もょもとは満面の笑みで此方を見ている。

危険を回避した事には感謝するが、その得意面はおかしいだろ。


「俺のおかげで、ピンチを乗り切ったようだな、勇者よ」


 実に恩着せがましい奴である。普段から徳も積まずに不善ばかり成しているから、たまに良い事するとこの調子だ。

大小あれど、人間の本質など現実世界も異世界も変わらんなぁと、人間の厭らしい本性を垣間見たところで、再び手押し車を取りに歩を進めた。


 別段問題無く――というよりも、道中に問題があったらそれ即ち死なので、こうして呑気に現状を語っている時点で無事なのだが、問題なく手押し車を入手する事が出来た。そうとなれば長居は無用。

いつ押し寄せるかも知れぬ盗賊相手に無能二人で怯えるよりも、有能なハッサムと山男のもとへ一刻も早く帰った方がいい事実は、今更論ずるまでもない。

車輪がでこぼこ道に何度つっかえたか解らないが、それでも歩調変わる事無く再び宝物庫へと戻ってきた。

俺たちを見るとハッサムは明らかに安堵の表情を浮かべ歓待してくれた。

というのも、危機に際して行動を起こさず待つというのは、余計に心労が絶えないのである。


「おぉ、勇者にもょもと。無事だったようだな」

「ふん、俺のおかげで無事だった――とだけ付け加えておこう」


 丁度袋詰めが終わったところなのか、宝物庫に最初訪れた時のような燦燦たる威容は見る影もなく、金銀財宝の主を失った宝物庫はただの汚い倉庫へと様変わりしていた。


「よし、さっそく準備に取り掛かるとするか」


 ハッサムは手押し車の中へ、とても金財宝を扱っているとは思えない程無造作に、袋詰めした宝を放り込んでいく。

言っておくがあの袋、最低でも100㎏は余裕で超える重量なんだが……女戦士ナーリアを解雇するから、我がパーティーに加わってくれんかな、ハッサム。

そんな勇者の思惑など知る由もなく、ハッサムによって見る間に積み荷の山が出来た。

手押し車とはいえ、その積載重量はかなりのもの、こんな代物を押していくなどは一般人以下の戦闘力しか持たない俺ともょもとには土台無理な話で、山男は案内人の役があるから、当然の帰結としてハッサムが押し車担当となった。


「それじゃあ行くぞ、ぬかるなよ!」


 ハッサムの檄に応えるように、俺たちは無言でトロッコ場目指し突き進む。

 ……別にいいけど、勇者の俺を差し置いて、だんだんハッサムがチームの主役みたいになっているぞ、別にいいけどね。


 後は出口目指し脱獄するのみ、そう思えば誰でも足取りが軽快になるというもの。

多分に漏れず、鈍足な俺でさえ皆の足を引っ張るような事もなく、トロッコ場に到達する事が出来たが、先頭を行く山男が続く俺たちをその場で静止し、物音立てずにその場へと伏した。

そして、ギリギリ聴きとれるぐらいの声量で状況を説明してくれる。


「やれやれ、最後の最後で一波乱だぞ。丁度四人、トロッコ付近に盗賊がいる。気付かれずに奪うというのも無理な距離だ……どうする、やるか?」


 山男の目は、既に実行を覚悟している。ハッサムも、当初から全てが万事上手くいくとは思っていなかったから、これぐらいの障害なら望んで払おうという気構えだった。

問題は俺ともょもとである。絶望的に弱いから四人対四人なんて、断固拒否すべき悪手である。

だが、もはやリーダー格の司令塔ハッサムが乗り気だ、おいそれとは断れない。

しかも残念な事に、ハッサムは俺を勇者というだけで実力者だと、勘違いも甚だしい見込み違いをしているのである。

そんなのはハッサムに端を発する間違いであるから俺は悪くないのだが、如何せん今は生死の存亡に関わる戦時である。

屁理屈こねて茶を濁している場合ではない。


「つまり一人一殺――で良いんだな?」


挙句の果てにはもょもとがこの調子である。お前、さっきの反省全く活かしていないよな!?

四対四の乱戦ですら圧倒的不利に関わらず、コイツがこんな余計な事を言ってしまったが為に、一対一(タイマン)みたいな構図が皆の頭の中に出来上がってしまっている。

これは極めて拙い。もょもとの責は後日糾弾するとしても、今はこんなアホに頭を思い悩ましている場合ではない。

どうにかして、このタイマンの構図を書き換えねば、確定で俺(ついでにもょもと)は死ぬのだ。


「待て、騒ぎを多くするのは得策とは言えん」


 とにかく手段を択んでいる場合ではない。名案も何も、全く思い付いていないが話しながら時間を稼ぎ、何とか秘策を打ち出すしかない!


「現時点における最悪はなんだ、山男」

「わしらが敗れる事じゃな」

「その通り。では逆に、現時点における最良はなんだ」

「ふうむ、要領を得んな。なんかの謎かけか?」


 急場を凌ぐ俺に懐疑の目を向ける山男だが、今はその冷静な目線に押し切られてはいかん!ハッタリでも強気にいくしかない。


「いいから、答えろ」

「それなら――奴等を倒し、無事トロッコを奪う事じゃないか?」

「いいや違う。現時点における最良は、奴等と一戦交える事無くここを脱出する事だ」


 おぉ、何かそれっぽい雰囲気が出てきたぞ。口八丁手八丁の出まかせ問答だが、もう後戻りは出来んから、その方向で無理くり話を進めるしかない。


「そうは言うがな、勇者よ。現状、戦わない以外に方法はないじゃないか」

「それも違う。宝物番すらその場を離れていた理由を考えても見ろ」

「宝物番?ううむ、確かに引っかかるところはあるが——それとこれは何の関係があるんだ?」


そんな事は俺が聞きたいぐらいである。


「質問に質問で返すなよな、ここが一番慎重にならなきゃいけないところだ」

「ふうむ……とすると、宝物番すら持ち場を離れる事態にありながら、奴らが四人もその場を離れずいるとなると、トロッコの先には盗賊達にとって、もっと大事な何かがあると睨むべきか?」

「それだ!」


おぉ、山男よ。なんとそれっぽい聡明な回答か。


「いいところに気付いたな。脱出経路の地図を確認すると、トロッコは少し進むと分岐路がある。一方は当初の予定通り出口だが、もう一方は通行止めになっている……ただの工事中とかであれば、こんな場所に四人も盗賊を残している筈がない――つまり、この通行止めの先には、得体の知れぬ何かがあると見て良いだろう」


 俺の――というより、山男の推察に適当な理屈を乗せただけの推理だが、自分で言うのも憚られるが少しの理はあるように思う。

実際に、この場に居合わす仲間たちも、同意の色を示している。

ハッサムは難しい顔をしながら、皆の沈黙を破るように、その重い口を開いた。


「その可能性は否定出来ないが——現状脱出する為にあの盗賊四人をどうするかと、関係あるか?」

「おおいにある」


自身たっぷりに相槌を打つ俺だが……さて、どうしたものか。


「この作戦——どこまでが及第点だ?」

「及第点?生きてここを出る、じゃないか」

「まぁそんなところだろう。じゃあ、満点を取るには?」

「この財宝を持って脱出する事じゃないか」

「では、満点以上の評価を得るには?」

「満点以上?解らんな、どういう意図があるのか、早く教えてくれないか」


 急かすハッサムの言葉に対し、大仰に頷く俺も随分と役者になったものである。大根役者だけれど。


「盗賊にとって宝より重要な何かを確認し、場合によっては奪い去る。これしかないだろう」


 大胆かつ野放図な、思わず失笑しそうなレベルの案だが、今は万事が上手く行っているだけに、皆の心にも可能な限り利を得たいというスケベ心が顔を出している。

冷静であれば、こんな案はすぐさま却下されただろう。だが今は――今だけは違う。何をしても成功するかもしれないという全能感が、心の隙間にすり寄っていたのだ。


「ふふふ、なかなか面白い案じゃねーか。一枚かませろよ、俺も」


 普段はクソの役にも立たんもょもとだが、こういう場合のみ役に立つ。

馬鹿と鋏は使いようとは、よくぞ言ったものである。

もょもとの言葉に少なからず感化されたのか、ハッサムも首肯しながら同意を示した。


「流石に勇者だな、肝の据わりが常人ではないわ!よかろう、どうせ一蓮托生を誓った間柄、乗り掛かった舟という事もあらぁな。この命、預けるぞ」


高揚する皆を他所に、山男だけが心配そうな顔で成り行きを見守っていた。

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