第4話 あとがきという名のいいわけ

イメージカラーとあるが、私が初めてこの曲『空想科学』を聴いた時に思い浮かんだのは、灰色であった。白とも黒とも判別し辛いモノトーンの濃淡が、ぼんやりとその境界線を曖昧にしていく。

 しかし、実際に作曲した本人や絵師の中のイメージカラーは青であったそうだ。ふうむ、私の音楽的感性は著しく乏しい一事が、この件からも窺い知ることが出来る。

 無論、私も動画で完成された『空想科学』を最初に聴いていれば、視覚のイメージに引っ張られより明るいイメージを持ったことであろう。だが生憎、私がこの駄文を依頼された時には動画が完成していなかったので、歌詞と曲からイメージを膨らませ推察するしか無かったのである、という言い訳を最初にさせて下さい。

 本来は巻末にあとがきや注釈を挿入するのは私の主義に反するのだが、この作品は仮にも『空想科学』を題材に作成されたものと銘打つ以上、私一人の問題を超えてくるので説明責任も生じてくるであろう。意外と義理堅い人間なのだな、私は。

 さて説明はさせて頂くが、それがイメージの押し付けになって読み手、聴き手のイメージを阻害してはならない。だから、あくまで私個人が勝手に曲解した、ぐらいに思い留めて頂けたら幸いだ。

 灰色のイメージカラーと先述したように、私が抱くこの曲へのイメージは決して明るいものではない。過去や他人との齟齬、生じる葛藤。若者なら誰もが通る苦難を、軽快な曲調で伝えていく。だが後半に、それまでの思春期じみた苦悩から一転する。

 私もう 逃げださないから

 自分の夢に 逃げてきたの

 だからお願い ラストチャンスを

 この瞬間、少女は大人へと変貌した。男子三日会わざれば刮目して見よというが、少女は一秒先ですら解らない。この急変貌が女性を妖艶に魅せるコツなのだろうか。

 過去の妄執を振り払い、社会と自身の軋轢に苦しみながら、それでも自身の未来に希望を見出す。だがその過程は単純なものではない。百の鞭が若者を無常に打ち据える。理不尽な、不可解な、陰険な暴力の数々が社会に蔓延している。中学から高校へ、学生から社会人へといった大きな変容の度に立ちはだかり、その洗礼を待つ。その洗礼に挫折する者だっている。

だがこれは、本人の努力不足、いわゆる自己責任では断じてない。良禽は木を択んで棲むというが、その巣の大枠である社会が既に荒廃しているのだ。これはより良い社会醸成を怠ってきた先人、つまり大人達に責があって、若者にはない。この苦悩は日本における名状し難い悪習から生じている。今の大人に社会を変える力は残念ながらない。そんな事は連日のニュースを見ていればすぐに解ることだ。悪習はより強固な悪習を生む。

大人の定義もいつしか崩れ去る。道徳を、教養を弁えた人間が大人なのではない。二十歳を過ぎれば、これ全て大人というのも、ふと考えてみればおかしい。大人と呼ぶに値しない人間が、既に社会で蔓延っているのだから。子供の感性を純粋だと偽り、もしくは恐ろしい事だが、本当に純粋だと信じ込み、何事においても潔癖な、差別のない、公平かつ平和な世界にしていきたい、などというのは実に馬鹿げた理想論で、その純粋さたるやファンタジー小説を読んで本当にドラゴンはいると錯覚するような、傍から見れば滑稽極まりない様相を呈する。現代社会にて毒を撒き散らす大人の本性は、何ごとも庇護の対象にして、全ての傷や恐怖から目を逸らし、言葉を借りれば空想科学の世界に生きる人間たちなのだ。

だから若者は、この空想科学から解脱せねばならない。狂気の温床から早々に抜け出し、若者たちの若者たちによる、若者たちの為の世界を構築しなければならない。

だからこそ、この歌は自己超克によって生まれ変わろうとする若者の、躍動する力強さを感じさせるのではないか?一方で、社会の落とす影が、この歌の灰色な、ダークな部分に結びついてくるのではないか。二律背反した倒錯が、この歌を一種の芸術に昇華していると私は感じたのである。

私の言い訳はまだまだ尽きぬが、こんな話にいつまで付き合うのも億劫であろう。だから今回の言い訳は、この辺を潮時とさせて頂く。


誰もが他人を慮る余裕をなくし、誰もが自分をも愛せなくなった、そんな時代だから。だから聴こうこの歌を、だから詠もう、この歌を。空想科学の呪縛にもがく生命の歌を。

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空想科学 @kinnikusizyosyugi29

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