第9話

 宿で一泊して、ミントを出る。コメタからミントまでは徒歩で移動したが、今回は昨日の店主に紹介してもらった商人の馬車に乗っているので楽だ。

 もうホンタ王国の領地に入っているようだが、門や入国の手続きもなく物理的にも精神的にも国境を越えた気がしない。

 それぞれの国の王は都市の管理はしているが、都市以外の領地はそこの住人の自主管理に任せているらしい。国境も決まってはいるが、国同士の信頼関係があるところは曖昧になっているという話だ。

 では、なぜ信頼関係があるのか? コメタで教わった歴史を確認するため、商人に聞いてみる。

「十七年前の魔王軍討伐で国同士の信頼関係が強まったんですよね?」

 そして、平和になったと。平和な時代でよかったなぁ。自分は勇者的な話は望んでいない。

「そうだな。まぁ、魔王軍の残党や魔王を復活させようとする組織があるらしいがな」

 まじか。関わらないことを祈る。

「大丈夫だよ、あきちゃん。悪い奴がいたら、私が魔法でやっつけちゃうよ」

 大魔女よっちゃんが私の手を握りながら、熱い視線を向けてくる。

「ありがとう、よっちゃん。頼りにしてるよ」

 商人がいるので、ちょっと恥ずかしい。

「はっはっは。大魔女様なら残党ぐらい余裕で倒せるだろうよ。それより、ホンタ王国の都市に着くぞ」


 国境と違い都市の入口では身分の確認が行われる。サンジョさんが用意してくれた身分証明書を用意する。

「あの、私たちは漂流者で、この国にも漂流者がいると聞いています。知り合いかもしれないので会いたいんですが、会わせてもらえないでしょうか?」

 誰に言えばいいのかわからないので、審査の役人に言ってみる。

「あぁ、新しく来た彼か。図書館にいると思うが、上に連絡して会えるように手配しておくよ」

 順調なのはいいことだ。

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